これからにむけて
「騙す形になった事は、ちょっとくらいは申し訳ないと思ってるんだよ?」
いやいや、ちょっとくらいじゃなくて、土下座するくらいは申し訳なく思ってよ! ほんと神様って傲慢なんだから。挨拶代わりにゴミを見る様な視線を向けると、デミスは何故か物理的にダメージを受けていた。
「アイリーンちゃんさ、神力高まり過ぎじゃないの・・・?」
どうやら神としての格が、また上がったみたい? 強い感情をぶつける事によって、ダメージを負わせることができるとは、私もなかなかに理不尽な存在になったもんだなぁと、ちょっぴり呑気に考える。
地球は、今でも普通に存在していて、私達がトリルやシャリオンで過ごした時間は地球での時間のほんの数秒程の事らしい。時間軸が違うと、ここまでなのだろうか?
時間軸、というよりは、世界がそもそも違うらしい。トリルやシャリオンがある宇宙空間というか、世界は、この神々のふざけたゲームの為に作られた空間らしくて、私達が認識している世界とは、まったく別空間というわけ。だから、時間軸も当然違ってくるってことらしい。
この世界に連れて来られて、帰る事が出来ないと知った私達がどんだけ辛い思いをしたのか、どのような決意でこの世界と共に生きていくと決めたのか。デミス達にとっては、ほんの些細な事なんだろう。
あ、なんか今更だけどムカついてきたかも。
「僕の事を恨むのは構わないけど、ギルは勘弁してやってね、さっさとこのゲームを終わりにして、君たちを帰してあげたいってずっと陳情してくれてたんだから」
なんとなくそれは薄々気付いてたわ、ギルは結構人間好きな感じしたもの。親身になって相談に乗ってくれたりしたし、なんだかんだ寄り添ってくれてたと思う。
「私達が居なくなったら、トリルやシャリオンはどうなるの?」
ゲームみたいに、終了ボタンで消滅しちゃうとか・・・? 二つの星で確かに生きている人々の顔がチラついて、ゾッとする。私達の返答次第で、沢山の魂が行き場を無くすかもしれないのだ。
「どうとでもできるよ? 別の神様に管理を投げてもいいし、君が今考えたように一瞬で消滅させることもできる。別の神様がどんな管理の仕方をするかまでは、僕は干渉しないけどねー」
「んなもん、脅しじゃねえか」
黙って聞いていたコーマが、吐き捨てるようにデミスに言う。その通りだと思う。無責任に放り出せば、無責任に管理して、後は知った事ではないという。なんとも酷い話だ。
「そんなの聞いて、意気揚々と帰りますとか、言えるわけないじゃん・・・皆生きてるのに」
ぽろぽろと涙を零しながらシュミカも言う。デミスに真相を聞くにあたって、皆が予想していた事だ。分かってたけど、実際に直面すると・・・悔しいけど私達に選択肢はないと思う。地球では数秒かもしれないけど、私達には何十年、飛ばした年数も数えればどのくらいかも忘れるくらいに見てきた星なのだ。
実際に現地の人達に会ったりもした、キラキラした目でこちらを見てくる人々の顔も、まだ記憶にしっかり焼き付いている。サージェスにシャリオンへと飛ばされて、戻ってきたときも、皆はお祭りまでして喜んでくれた。心配もしてくれた。
「答えなんて、聞かなくたって、分かってるんでしょ? ほんと、やな奴よね」
「なあ、こっちは使徒に任せたりして、地球とこっちで往復生活はできねーの?」
そんな都合良くいくわけないでしょ、と言いたいところだけど、できるんならやって欲しいわ。あーでも・・・忙しすぎる気がする。今更人間の生活に戻れって言われると、体が持たないような気もする。
「んー、出来なくはないんだけどねえ、君ら、神格高めすぎててねぇ・・・」
出来るんかいっ! え、でも神格高めすぎたから何なの?
「出来るんだったら・・・」
「地球に行っても神様だし、人間にはもう戻れないよ?」
「別に人間じゃなくてもよくない? だって往復生活なんてしたら人間的にはアウトな疲労が来るでしょ?」
た、確かに・・・シュミカはこういう所なんか鋭いよね。神様の身なら疲れ知らずだし、姿形はどうにでもなる。デミスの顔が、気付かれちゃったかぁ~みたいな顔になってるところを見ると、多分地球と繋ぐの面倒なんだわ・・・。時間軸も調整しないとだしねえ?
「ま、まあ・・・その代わり、もう時間を一気に飛ばしたりとか、早くしたりだとかはできなくなるよ」
「それは別に・・・時間軸が違う方がそもそもおかしいというか・・・」
「デミス、いい加減諦めて」
沈黙を守っていたギルも参戦する。そうだぞ、いい加減諦めなさいよ?
「あーーーもうわかったよ! ここには僕の味方なんていないんだよぉぉぉぉ!!」
「デミス、それは違うぞ」
「えっ、サージェスが僕の味方に!?」
「いや、どこにも味方なんていない。ここだけではない、そういう意味だ」
「薄々分かってたけど、ガチで酷くない!?」
神の威厳はどこへやら、デミスは流石に諦めて、私達の地球帰還+ここでの生活の継続を約束してくれたのだった。




