教育係、ギル
「やっぱシュミカの作る野菜はうめえなぁ」
ギルが持ってきてくれたテイクアウトバーベキューを堪能している。肉も旨いが、野菜も最高だ。食べなくても死にはしないが、美味しいと感じるのは変わりないので、なるべくなら食べたい。
しかしこれは・・・普通の人間が食べても大丈夫なんだろうか。知らんうちにバフ大盛りになってそうな気がする・・・。まあ戦う事なんてないから、気付かないかもしれないけど。
「コーマ、大正解だよ、これ凄いバフ効果ついてるよ」
「だよな、神様が作った野菜を神様が調理してくれたんだもんな、焼いただけだが」
何もないはずもなく。
「今回の使徒は、どんな風に育てたいとか、希望あるの?」
「希望っつってもなぁ・・・軍曹にだけはしたくない。これに尽きる」
「あはは、サージェスが仕込んだラピス?」
「もう慣れたから今は平気っちゃ平気だけど、今でも微妙に怖い」
「あー・・・確かに見た目と言動と行動のギャップがねえ」
子供に人気のゆるかわな見た目なのに、ガチの軍隊にでも入ってそうなキビキビした無駄のない動きに、堅苦しい物言い。普通に怖い。
「あれは、サージェスの生まれのせいなのか?」
「んー、まあ・・・そうだねえ、一応お貴族様だったしね」
「貴族ねえ、堅苦しい喋りは理解できるけど、あの無駄のない動きはどこからきてるのか・・・」
「そりゃ、貴族って言っても、軍隊率いてた事だってあるしね?」
「いわゆる武闘派貴族か。なんか納得した、ギルは違うのか?」
「じぶんちも一応それ系だったけど、ほら、放蕩息子だったからね?」
「やればできるのにやらない系ってやつか。そんで相手されてないのに張り合われてたと」
「詳細話してないのに、しっかり要点抑えて的確な推理するのやめない?」
大体想像つくからな、その手の話はどこにだって転がっているものだ。実際に貴族なんて見た事もないけど、物語には多いに出てくるからな、無駄な知識が蓄積されてるんだよ。
「で、教育は基本はトリルの思想でいくけど、シャリオンの現状についても勉強はしておいて欲しいかな。地下都市の事とか、まだ多数いる地上の魔物集落の事とかな」
「おっけーおっけー」
相変わらず軽いノリで返事をする奴だな。これで仕事ちゃんとしてくれるんだから、かなり有能でいい奴なんだけど、サージェスは気を揉みそうだ。なんとなく、昔からこんな調子なんだろう。
「起きて教育終わったらさ、アイリーンのとことかシュミカのとことかにも挨拶に連れてってやってくれ、ネルのとこにも。ここは男所帯だから、色々相談するのには女性陣の方がいいだろうし」
「コーマってさ・・・そういう気遣いできるのに気付いて貰えないタイプだよね」
「普通に抉ってくるのやめろよな」
軽いノリで急所攻撃はやめにしてくれないか。そもそも、俺が気遣いしてても、女性陣は気づきもしないんだからな! 気付いても気のせい気のせいで済まされるんだからな!
ブランとノワールには、そういう気遣いに気付いて「コーマ様・・・(ポッ)」みたいな感じになって欲しいとかいう願望が多少はあるけどな? 頭の中で思うだけなら無料だろ?
そんな事を考えていると、ギルが可哀想な物を見る目を向けてくる。
「うっさい」
「何も言ってないよ?」
「目がうるさい」
使徒ズが仕事を始めるまでに、アイリーン達が使ってた遊べる温泉的な部屋にも連れてってやってほしいが、それは流石にギルには頼めないから、後でアイリーンにでも頼んでおけばいいな。
「コーマ様、そろそろ使徒様方の目が覚めそうですので、お連れ致しました」
使徒ズを抱えたラピスが音もなく現れる。忍者か?
ベッドを用意しておいて、そこに寝かせてもらう。髪の毛がぐしゃぐしゃにならないように、丁寧に寝かせてやるラピスはかなり有能だな。お気遣いゆるキャラ。
「おぉ、かなり頑張って創ったんだね」
「渾身の出来だと自分では思う」
アイリーンがシエルの事を事あるごとに可愛い可愛いと言いまくってる気持ちが、今はなんか分かる気がする。あと娘のように思ってるのも、かなり理解できる。ネルも俺の娘みたいなもんだけど、なんかダメ親父の面倒みてる気の強い娘みたいな。いや俺はダメ親父ではない。
なんかこう、庇護欲? というのが掻き立てられるというか、愛でたい気持ちが湧いてくるというか。眠っている使徒達の頭を優しく一撫でする。
「ん・・・」
それが合図になったのか、良く分からないが、ブランとノワールは目が覚めたようだ。ゆっくりと目を開けていくと、美しい宝石のような瞳が姿を見せる。うんうん、想像通りで何よりだ。
「おはよう」
我が使徒よとか言いたいけど、ギルも居るから恥ずかしくてそんなかっこつけたこと言えるわけがなかった。普通に挨拶してしまった・・・。
ゆっくり体を起こし、立ち上がり、お互いを見てからこちらを見る。無表情で、見つめられると、ちょっとだけゾッとするな・・・。綺麗な顔立ちだからか?
「おはようございます、マスター」
え、マスター呼びなの?




