ロクストの紙事情と流れ弾
ライトさんとの楽しいおしゃべり、いや、新作会議はあっという間に時間が過ぎ去ってしまった感じだった。いや~、別に紙ヲタってわけじゃないけど、めちゃくちゃ楽しかったわ。
便箋や絵葉書の話ももちろんだけど、紙を使った芳香剤だったりとか、風鈴だとかの話でもかなり盛り上がった。途中からシエルはにこにこと笑顔で私たちの話を眺めているだけだったけど、退屈させちゃったかしら?
「とても楽しそうにお話している母様を眺めるのが楽しかったですよ」
ほらね、こんな嬉しい事言ってくれるのよ?
芳香剤は、かなりライトさんも衝撃を受けたようで、早速色々と香油などを研究するみたい。花を使って様々な表現をすることも。
芸術は、おなかがふくれない。でも、心を豊かにするものだと思うので、こういう一見なんの益にもならなそうな事でも、とても大事なことだと私は思うのだ。ふとした瞬間に花の香りに癒されたり、誰かからの手紙に癒されたり。
これからもっと、ライトさんみたいに色々な紙のかたちを作ってくれる人が増えるといいなぁ。
「なんとも実りのある一日だったわ・・・」
「ふふ、これからが楽しみですね」
そういえば、ロクストの紙事情ってどうなってるんだっけ?
「ネルちゃん今大丈夫?」
『はーい、大丈夫ですよ! どうかなさいましたか?』
「ロクストって紙とかはどうしてるのかなって思って」
『あー、ロクストは紙を使ってませんねえ。特に使う用事がないというか・・・』
「なるほど、これからって紙の需要出てきそうな感じする?」
『うーん・・・ああ、そういえば保育園で紙が欲しいって声があるようでしたね』
「もし紙が必要ならラプールから取り寄せてもいいし、製紙所をロクストに作ってもいいわね」
『それなら、転移門の町へ集めておいてくれると助かります、交換レートを設定しておきますので』
「わかったわ、そのように手配しておくわね」
『ありがとうございますっ!』
なるほど、保育園。そうか、それ以外ではまだ・・・となると、本もないわけだよね。文学とか、そういうのはまだ先になりそうだなぁ。
いや、でも保育園で紙と慣れ親しんで、さらに絵本なんかと触れ合うことがあれば、将来そっち方面に行く子も出てくるかもしれない!
流石にこれで神託というわけにはいかないので、ここはシエルとフェンリル達にお願いしようかな?
「では余剰分を転移門の町へ集めるように、各製紙所へ知らせに行きますね、使徒として」
待機中のフェンリル達も、スッと立ち上がり、こちらに頭をぺこりと下げた。でっかいわんこがお辞儀してるのめっちゃかわいいんですけど!
モフられたくないのか、行動が早いのかわからないけど、サッとシエルと共に行ってしまった・・・残念。
そういえば、シエルと大した打ち合わせもしてないまま、行ってしまったけど・・・大丈夫よね? などと考えていると、それを見越したのか、シエルから通信が。
『製紙所と、その周りにある3つの町の代表へ、それぞれ通達を出しました、母様が心配してそうな気がしたので、報告です』
うん、有能!
「流石シエルだわ! ありがとうね!」
娘がこれだけ有能だと、ダ女神になってしまいそう・・・。でもなー、ついつい頼っちゃうんだよねぇ・・・。神様の私より有能だと思うし。
まあ、全知全能の神様ではないので、いっか! デミスだってお偉いさんらしいけど、全然全知全能じゃないもんね! 部下のコントロールできないし、チャラいし。
『アイリーンちゃん酷くない? なんか流れ弾きたんだけど?』
おっと、ちょっと悪く思うとダメージ行くのか。気をつけねば。
「あらごめんなさいね、ちょっと本当の事考えてたの」
助けてもらったけど、そもそも迷惑の方がかけられているので、遠慮なしにズケズケと言っておく。直接言えば、流れ弾に当たることもないだろう。火の玉ストレートだ。
『うっ・・・ひどい。ま、まあ・・・迷惑掛けたのは済まなかったと思ってるよ・・・?』
「はいはい、特に用もないなら通信きりますよ」
そもそも私からは通信を入れてない。一方的に切っても、またあっちからしつこく入れてくる場合だってあるのだ。
『元気そうでなによりだよ・・・流れ弾当てに来るのは控えめにね?』
「はいはい」
ふとした時に考えてしまうので、それは保証できないなー。一応返事は適当にしとくけどさ。そういや引き取った問題児はどうなったんだろうね。あれを矯正するのは、中々に骨の折れることだとは思うけど、できれば私は関わりたくないなぁ。
『あの、ちょっといいか?』
おや? 聞いたことない声だわ。誰だろう?
「いいですけど、どちらさんですか?」
『どちらさんて、神だが』
「いえ、お名前と自己紹介をお願いします。神でも」
『うっ、そ、そうか、名前はフェルナンドという。デミスの部下で、ギルやサージェスとは同じ位格にあたる。以前にサージェスがそっちにちょっかい出すときに、そうとは知らずに協力してしまっていた部分があって、それで・・・その、申し訳なかったと』
「あ、もうその件については結構前に解決してるので、謝罪は結構ですよ」
余計なことに関わりたくないのでピシャリ。




