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紙マニア

 今回も列車の旅の時と同じ器を使う。バレるまではこれでいこう、なんとなく愛着も沸いたし。


 「私も今回は器を使おうと思います」


 「いいと思うわ、鳥が喋ったらきっとびっくりしちゃうもの」


 シエルが選んだのは、小さい体のどこにでもいそうな女の子の器だった。人形の時は普通~って思ってたけど、いざシエルが入ると、驚くことにめちゃくちゃ美少女に見えるのだ。

 これは隠しきれないシエルの可愛らしさがあふれた結果だと思う。多分。


 製紙所の近くに、小屋を作ってそこに住んでいるらしいその人は、名前をライトというらしい。なんとなくこじつけで付けた名前みたいに感じてしまうのは、きっと私の心が汚いせいだわね。ネーミングに関してだけね。


 「ごめんくださーい」


 普通に訪ねていくと、中からガサガサッという紙の音とともに、ライトさんが出てきた。上から見ていたので一応顔は知っているのだけど、実物を目の前にすると、印象がちょっと違って見えるのは不思議だなぁ。


 「はいはーい、おやおや、お嬢さん方が何の用で?」


 普段からあまり人が訪ねてこないのか、訪ねてきても若い女の子などは来ないのか。よくわからないが、ちょっと戸惑った顔をしている。


 「あの、色んな紙を作っていると聞いて、色々お話を聞かせていただきたいのですが・・・」


 「! 君も紙に興味があるのかい?」


 「え、ええ。普通の紙以外にどのようなものがあるのか、見てみたくって」


 これはあれだ。ヲタの人の挙動だ。自分の好きなものに興味のある人を見つけた時のヲタムーブそのものだ。最初の困惑した様子はどこかへすっ飛んで行ってしまって、今は目をキラキラと輝かせながらぐいぐいきている。

 これのせいで、あまり人が訪ねてこなくなった可能性があるわ・・・いやほぼ確実にそうだと思う。


 「どうぞどうぞ! 入ってください! あ、いや、ちょっと床の紙だけ片づけてくるからちょっと待っててください!」


 上から眺めている時も、結構床に紙が散らばってたなーと思い返す。まあ意図的に散らしてたのかもしれないし、別にいいんだけどね。不潔な散らかり方ではなかったようにも思えるし。


 「シエルは、この人の事どこまで知ってるの・・・?」


 いつの間に調べたのか分からないが、名前を知っているところを見ると、それなりに情報をもっているということ。でもシエルは大体私と一緒にいるし、そんな暇なかったように思えるんだけどなー。


 「ええと、私自体はそこまで詳しくは知らないのですが、フェンリル部隊の一匹が、この方の事を面白がっていまして、話を聞いたんです」


 なるほど、フェンリルちゃんたちは中々好奇心旺盛なようだ。確かに他の人間とは毛色が違うから、興味を引くかもしれない。情報をちゃんと共有して、使徒同士のコミュニケーションは十分に取れているようでなによりだ。


 「なるほど、情報収集はあって悪いことはないから、引き続きよろしくね?」


 私が見ている部分だけでは、どうしても抜けちゃうからね。神様は万能ではないのだ。


 「おっ、お待たせしました! どうぞ中へ~」


 大急ぎで片づけたんだろう。肩で息をしながら、どうぞと中へ促すライトさんの額には、汗が光っていた。そこまで大慌てしなくても大丈夫なんだけど、それでも急いで中に入れてくれる彼の心根は優しいのだなぁと、ちょっとほっこりした。


 「わあ、花弁の入った紙とかもあるんですね!」


 規則的にではなく、上からはらはらと散らしたのであろう花弁が、紙の中に納まっている。ザ・和紙って感じだよね。便箋なんかにしたら、素敵なんじゃないかな。


 「色んな花の種類で試したくて、各地から花を取り寄せたり、自分で作ってみたりしてるんですよ」


 ほう、自分でも作るとはまた労力のかかることを。それだけ花弁紙に入れ込んでるということなんだろうか。


 「こういうのはお手紙なんかに使えば、送られた方は嬉しいでしょうねえ」


 「! なるほど! 手紙用! そうか、そういう用途なら実用性も出てくるね!」


 思いつかなかったらしい。まあ、開発者はそんなものなのかもしれない。よくわからないけど。


 「この既存の紙のサイズよりも、小さ目のサイズで・・・」


 葉書サイズの紙に、散らすのではなくて、乾かす工程に近いところで隅っこの方に花を配置しても面白いかもしれないと、提案してみる。ちょっと手間がかかるけど。


 「ほうほう、一旦花はバラしておいて・・・それは素敵だね!」


 「花を花にするのではなく、花を使って動物を描くのも面白いかもしれませんね」


 絵具代わりに、花を使う提案だ。この世界はまだまだ塗料というものが普及していないので、色を付けるという作業は非常に大変なのだ。手軽に色を表現する方法として、花を使う方法を提案してみたのだ。


 「君は凄いアイディアがどんどん泉のように湧き出てくるんだね! 素晴らしいよ! 早速作ってみたいんだけど、いいかな?」


 「実際に作っているところを拝見したいとも思っていましたので、ぜひお願いします」


 流れで作業を見せてもらえることになった。

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