トリルの車窓から
こっそりとシュウに接触し、まんまと魔道列車の初運転に乗せてもらえる事になった。持つべきものは優秀な知人ですなぁ! 色々なものから目を背けて、今はこの列車を楽しむ事にしよう。
天界のお仕事は、きっちりとシエルがフェンリル達に指示してくれているので問題はない。何か対処しきれない事があれば、連絡が来るようにもなっているので、私は心ゆくまで今を楽しむのだ。
シャリオンに転生する前だと、多分私はこういったことはしてないと思うんだよね。真面目すぎて、頭が固かったから、こういうところの融通が利かないというか。あちらで育った20年は良いのか悪いのか、私の性格に結構影響を及ぼしている。
シュウに用意してもらった座席に腰かけ、窓の外を見ると、列車を送り出すために集まった人たちの、嬉しそうな顔が目に入る。皆、この列車が動き出すのを今か今かと待ちわびている。子供から大人まで、全ての人が目を輝かせている。うん、幸せそうで何よりだわ。
柔らかな座り心地の座席は、もはや列車の物とは言えないレベルの高級感ある座り心地だ。ふわっふわである。いつの間にこんな上質な物を造り出せるようになったんだろう。全てを見ているようで、見きれていない自分の未熟さを少し恥じるけど、暫く見ていなかった親戚の子供が久しぶりに会ったら優秀な子に成長していたような気持ちだろうか。とにかく嬉しい。
『ただいまより、魔道列車の初走行を開始します、走行が安定するまではお席をお立ちにならないようお願いいたします』
どこかで聞いたようなアナウンスが流れてくる。バスか。
やがてゆっくりと景色が動き出す、窓ははめ込み式になっているのか、開ける事はできないが、集まった人たちの歓声が、これでもかと響き渡っている。流石に船のアレみたいにテープのやつやってる人は居ない。窓開いてないしね。
ガタンゴトンというのは当然ない、すぃーっと静かに動いていく。スピードは徐々に上がり、町はあっという間に見えなくなった。おぉ、結構早い・・・。
「中々の乗り心地ですね、母様」
小鳥バージョンのシエルが、小さな声で話しかけてくる。かわいい。
「うんうん、揺れもないし、椅子は座り心地がいいし、かなり快適ね」
私は乗る事無くこちらにきてしまったけど、リニアもこんな感じなんだろうか? 今となっては知る由もないのだけど。
スピードが一定になった頃、座席を立って、移動しても構わないとのアナウンスが流れる。次の停車までは約2時間程かかるようだ。
線路は一直線に伸びているため、線上にある町のみ、現在は停車するようになっているらしい。なので、そこまで沢山の町を横切るというわけではない。いつかは全ての町を列車でつなぎたいと思っていると、シュウは語っていた。この事業に大変入れ込んでいるらしい。
現在、二本目の線路をこれの隣に敷いているのだとか。理由を尋ねてみると、こちらは主に人を運ぶもので、新しく敷いている方は、貨物専用にするらしいのだ。その方が燃費もいいからと、中々堅実な考え方である。低燃費が好きなのは日本人の特性なんだろうか?
窓を流れる景色は、山が有ったり、草原があったり、森や林があったりと、大自然目白押しだ。たまに遠くの方に町っぽい影が見える事もある。
やはりまだまだ未開拓の土地が多いようだ。人口が増えたり、文明が発達したといっても、まだまだこれからなのだなという事が良く分かる。上で見ているだけでは、あまり実感がなかったのだけど、こうして列車に揺られ・・・というほど揺られては無いけど、見ているとそれが良く実感できた。
それぞれの町の規模は大きくなりはしたけども、その町の近くに町ができたりとか、そこまではしてないのだ。村とか点在する事もなく。
例外的にゴブリンやコボルトの集落はあるけど、あれは隠れ里的な感じなので、あまり人に知られていない。兎獣人と鳥獣人のも同じ。
もう少し人が増えれば、と、やはりそっちの結論に辿り着くのだ。こればかりは、長期的な目標なので、今すぐどうにかできることではないと分かっているけど、やはりもどかしいというか。
人が増えて、他に町を作ったりする様子を思い浮かべながら、窓を流れる景色を堪能していると、次の町が近づいているらしく、アナウンスで着席を促していた。
「なんだかあっという間に時間が過ぎて行ったわ・・・」
「特に問題も起きてはいないようです、このまま順調にいけば大成功ですね」
こらこら、フラグっぽいのを建築するのはおよしなさいな。いやまあ、ちゃんと試運転を繰り返しやってるし、ラプールには悪い事を企むような人間はいないので、心配はないんだけど。
『この町を出発しますと、食堂車が解放されます、食事をご持参でない方はどうぞお気軽にご利用ください』
なん・・・だと・・・! 食堂車!? そんなものまで作ってたの!
これは是非ともいかざるをえない。




