なまえ
ここはラプール大陸にある町の一つである。その町の中に新しく建った保育園と呼ばれる物の敷地内には、沢山の子供達が居た。
敷地と、他の土地や道への境界にはバナナが植えられており、お昼にはそのバナナを子供たちが食べている。子供たちが食べ終えた後の皮は、そこにいたゆるい見た目の何かが食べて、処理をしていた。
「らぴすせんせーは、バナナの皮がすきなのー?」
「おいしいのー?」
「前に皮をちょっと食べたら、変な味だったよー?」
「えー、食べたのー?」
子供たちの疑問は尤もである。
ここで子供たちの面倒を見ているゆるい何かはラピスラズリという魔物。町の住民たちはそれを知っている、知っていて、彼らに子供を預けている。
この保育園は、女神が望まれた物だからだ。そしてラピスラズリは魔物と言っても、女神が遣わした神の使徒に近しい存在。ラプールにおいて女神は唯一の神であり、尊敬し、敬愛し、祈りを捧げる愛しい存在。そんな女神が自分達の為に齎してくれた存在を怖がるわけもなかった。
「私達はね、バナナの皮からパワーを貰ってるの。人間じゃないからね」
「らぴすせんせーは人間じゃないの? じゅうじんなの?」
「いいえ、獣人ではないよ、魔物で、ラピスラズリっていう種族なの」
「まもの・・・? よくわかんないけど、らぴすせんせーは二人共らぴすってお名前なの?」
「私達には個別・・・うーん、一人一人に名前はついてないの」
「えーでも二人いたらなまえあったほうがよくない?」
「おかおは同じだけど、おなかのおはながちがうもんね?」
「あっちのらぴすせんせーは、おなかのおはなはたんぽぽだね!」
「こっちのらぴすせんせーは、ちゅーりっぷだね!」
「そうねえ、じゃあ今日は貴方達に私達の名前をつけてもらおうかな?」
園庭で遊んでいた子供たちは「さんせー!」と、腕を空へと突き上げてはしゃいでいる。ラピスラズリ達には個別の名前はつけられていない。数が多すぎるせいもあるが。
子供達としては、見た目自体は全く同じで、エプロンのお腹部分にある花のプリントの絵が違う事でしか見分ける事ができないのだ。
園庭から、保育園の室内に戻ると、室内で遊んでいた子供達と園庭で遊んでいた子供たちが合流する。そしてラピスラズリ達に名前がない事を言い、自分達で考えてみようと提案し、ここでも「さんせー!」とはしゃいだ。
壁に大きな紙を張り、そこへ、子供達からの名前案を書けるだけ書いていく。書いていくのはラピスラズリ。
・たんぽぽ
・ちゅーりっぷ
・うさたん
・うさぺん
うさぺんがある辺り、アイリーンの担当していた大陸の子達という感がある。子が親に似るように、神の性質も下界の子らに似るのだろうか。
やはり子供達的には、おなかのお花が気になるらしく、でもそのままの名前だとひねりがない。ということで、それにちなんだ名前はどうかと話し合われた。
だが、子供にそんなひねるだなんて技術があるわけもなく。
・たんぽ
・りっぷ
これに決定された。ほぼそのままである。でも仕方ないのだ、ラプールの民なのだから。
「じゃあ私はたんぽですね」
「私はりっぷですね」
「今日、君たちが帰ってから、明日ここに君たちが来るまでに、このエプロンのお花のところに私達の名前を刻んでおきますね」
「どーやって?」
「きざむって、切っちゃうの?」
「指で書いても、色は出ないよ?」
「この針と糸で、ししゅうをするんですよ」
「どーやってやるのー?」
「みたいみたい!」
「やってるところみせてー!」
「針と糸はまだ君たちにはちょっとあぶないから、触らないように大人しくみるんだよ?」
「「「「はーい」」」」
たんぽとりっぷはエプロンを脱ぎ、刺繍の準備をする。その様子を子供たちは目を輝かせてみている。人が刺繍しているところを見るのは初めてのようだ。
エプロンのお花部分を刺繍枠にはめて、さっそく刺繍を始める。
ちくちく
ちくちく
子供達は、どんどん糸が文字を形成していくのを見て、驚きの声を上げている。一文字仕上げると、おぉぉ! と声が上がり、拍手まで巻き起こった。
糸が文字になるなど、初めて見るのだ。刺繍自体はトリルに存在はしているが、各家庭でされているというほどでもない。大体奥様方は忙しくて、そこまでしている時間もないのだ。
たんぽとりっぷは、手際も良く、あっという間に名前を刺繍し終わった。枠を外し、再びエプロンを首から掛けると、子供たちは、わあわあとはしゃぎながら、自分達で考えた名前を指でなぞった。
「ふふふ、くすぐったいわ」
くすぐったくて笑う、でもそれ以上に嬉しくて笑っていた。名前の無かった2体の魔物は、子供達からプレゼントされた自分の名前を愛おし気に眺めるのだった。
「みんな、ありがとうね、私達に名前をつけてくれて」
ピロリン♪
<ラピスラズリ2体に名前がつきました>
その通知を受けて、女神は天界でそのエピソードの可愛さに身悶えしながら「尊い・・・」と言ったとか言わなかったとか。




