サージェスブートキャンプ
「ん・・・? ご、ごしゅじんさま・・・?」
正確にはご主人様ではなくご主神様だが、口頭では伝わらない。それは置いておいても、このゆるゆるな見た目の魔物が傅いているこの光景が異常すぎて、コーマの頭の中は大混乱に陥っている。もっとこう・・・よ~ろし~くね~? くらいの気軽さというかゆるさで来ると思っていただけに、この真面目な対応が衝撃的すぎたのだ。
「はい、我々は神である貴方様に作って頂いた存在でございます。ですので、ご主神様と」
ラピスラズリの一匹が頭を下げたままそう告げる。神であるといったので、なんとなくその漢字も把握できた。しかし、紛らわしい。
「お、おう・・・創ったのは確かに俺だが、創るように依頼したのは本来ここを管理する事になっている女神だからな?」
「存じております、ですが、我々の父と呼べる方は貴方様ですので」
あ、一応それは把握してるんだ・・・と、コーマは口には出さずに頭の中だけで思うにとどまった。
「とりあえず、頭を上げて、普通に立って話してくれないか? そのままだとちょっと、こちらからの説明もしづらいというか・・・」
平伏されてるんだか、怯えて丸まってるんだか良く分からない状況にしか見えないのだ。丸いので。コーマがそう伝えると、全員が一斉にすくっと立ち上がり、コーマの言葉を待っている。
(軍隊みたいに統制されすぎじゃないか? この性質って何依存なんだろうな? 使徒適性のせいか?)
「お前達にはこれから、トリルという惑星に行って、ある仕事を請け負ってほしいんだが、それに関する教育をここにいるサージェスから受けてもらう」
コーマがそう言うと、サージェスは一歩前に出た。腕を後ろに組み、肩幅くらいに足を開き、さながら軍曹のようだ。
「俺はサージェスという、神の使徒として女神の元で働いている。これから貴君らには保育士にふさわしい教養と心がけを身に着けてもらう、いいな?」
「「「「はっ!」」」」
なんだこの茶番は、というコーマの視線は置いてけぼりにして、サージェス軍曹とラピスラズリ隊は意気揚々と管理室を後にしたのだった。
「ねえ、何あれ?」
「俺に聞くな・・・」
ラピスラズリはアイリーンの要望通り、エプロンを標準装備している。エプロンには大きなポケットと、その上にチューリップの花が可愛らしく描かれている。ちなみに、見分けるためにとコーマは複製した際にチューリップの花の色や模様を20通り用意していた。案外マメである。
そんな可愛らしいゆるキャラが、軍隊のようにキビキビ動き、隊列を乱すことなくサージェスについていったのだ。呆気に取られてしまうのも無理からぬことだった。
「まあ・・・あれでバリトンボイスだったら子供泣いちゃうとこだったから、可愛い声でよかったね」
慰めるところはそこなのか。
「一応全員メスにしてあるんだぞ・・・流石に声の設定はしてないけど、ドスボイスが聞こえてきたら俺だって泣くわ」
「次の時は使徒適性低めにしておくといいよ・・・代わりの検索条件考えておいて」
「やっぱり使徒適性高めのせいか・・・分かった、次に活かす事にする」
こちらの言う事に従いやすいかと思い、使徒適性の高めの条件を検索条件に追加したのが完全に裏目に出たとコーマは思った。確かに言う事は聞いてくれたのだが、ああも堅苦しく恭しい態度をとられると、こちらが委縮してしまう。多分アイリーンの元に送ったら、ドン引きするだろうな・・・とコーマは虚空を光を失った目で眺めてしまうのだった。
「さて、アイツらの教育が終わるまでにこちらも作業を進めるとするかね・・・なんかすぐ終わりそうだが」
「そうだね、なんか勢い余って余計な事教えないか、ちょっと心配になってきたんだけど」
「不安にさせる様な事言うなよ・・・」
サージェスがはっちゃけてやりすぎた未来を、少しでも考えてしまったせいで、随分とテンションが落ち込んでしまったが、ここで何もしないわけにもいかないし、今この瞬間にも滅びを待つ種族が滅びへと歩んでいる事を思い出し、コーマは自らを奮起させるのだった。
「どの種族を担当するかはギルに任せるよ、俺は優先度の高い方からやるから」
「おっけー、お手伝いだから、簡単そうなのからやろっかな」
「おう、それでいいよ、任せる」
神様の大先輩であるギルだ、そうそう変な事にはならないだろう。そう判断し、次に接触を図る種族を見る。今回は2番目に表示されている魔物、ミノタウロスだ。生息している場所は、イメージ通り、ダンジョンだ。
通常、ダンジョンの魔物は外に出る事はないし、魂も存在しないと思っていたが、シャリオンでは普通に魂は存在していて、生活の場がダンジョンというだけで、普通に出る事ができるようだ。ダンジョンはシャリオンに無数に存在していたが、長らくの魔物達同士の争いの中で、ミノタウロスの生息するダンジョンは残り1カ所になっていた。住処を追われた者達の辿り着いた先という点では夢魔族達と似たような状況だったらしい。
初めてのダンジョンに若干心をウキウキさせながらコーマはそこへ向かったのだった。




