見た目とのギャップよ
「よし、ステータスやらの細かい設定はこれでおっけーだな。後はこれに合った魂を選出して定着させれば完成だ、数は先にラプールの方から作っておいて、先に研修させとくか」
ラピスラズリという子守魔物を完成させたコーマは、次の段階に仕事を移した。魂の保管場所にある魂の中から、子守魔物の中に入る魂を選ぶ作業だ。これは子守に適した魂を選ぶだけなので、適性検索をかければすぐにでも見つかる。
「研修は俺にやらせてくれないか、代行殿」
鑑賞を終えて、シャリオンの管理室に戻ってきたサージェスが自らその研修役を引き受けると言い出した。
「それはいいけど・・・いいけど、お前保育士の研修とか大丈夫なのか?」
「俺は先程までただ単にアニメを見ていただけではない、保育士関連の書籍も読み込んできてある」
サージェスは元々の気質が真面目なのだ、主の目的を知り、先回りしてその知識を得る事は当然のように語る。人間の頃、貴族の嫡男として教育されていただけはあって、様々な事に対しての呑み込みは早いようだ。
「そうか、準備が出来てるなら問題はないな、そっちはサージェスに任せるとする」
「主の要望に応えるため、全力で取り組むことを約束する」
例のアレ状態を知っている者からすれば、信じられないといった顔をするだろうこの反応にも、コーマは既に慣れていた。中々に適応能力がある。シャリオンに派遣されてからの彼を見ていれば、仕事をきっちりこなすことは分かる。
「結構大勢になるけど、いっぺんに研修させて平気か?」
「そうだな、始めは少数にして、教える側の者を増やそうと思う」
「なるほど、それは効率的でいいな。じゃあそのようにするか」
研修を行う側としての経験も足りていないと思うので、最初は10~20の間にしようとコーマは頭の中で計画を立てた。そこまで急ぎではないというのもあるが、送り出すからにはきちんとしたいという思いもあった。
創り出して、研修を行っている間に、シャリオンでの本来の業務もコーマがこなせば、中々に効率的だと頭の中で計画を組み立てる。ついでにギルが暇そうにしていれば、こき使ってやればいいとも。
「あ、トリルでなんか用がないか聞いてこよっかな~」
そそくさと退散の準備を始めたギルの手を、コーマが逃がさないとばかりに掴む。力は入ってないので痛くはないのだが、がっちりと掴まれては逃げる事も出来ない。
「逃がすと思うか?」
「・・・分かったよ、神使いの荒い奴だなぁ」
にっこりと悪い笑みを浮かべながら逃がさないというコーマに、諦めたように溜息を一つついてコーマの指示に従う意思を見せたギルであった。
「とりあえず、このラピスラズリの事をサージェスに投げてから、シャリオンの魔物達の作り替え作業をする予定なんだが、サージェスに任せていた分をギルが引き継いでくれ」
「はいはい、承知いたしましたよ、代行殿」
適性のある魂を選ぶ作業は、そこまで難しいものではないのだが、保管されている魂の数が膨大すぎるため、検索でヒットした数も膨大だった。適性3で検索すれば、多すぎたので、更にそこから適性の数値を上げて検索する。一つ上げたくらいでは減ったのが微々たるものだったのが驚きだった。
意外と子守に適性のある魂は多かった。
更に一つあげ、適性最大値にすると、流石に数はかなり減ったものの、まだまだ多すぎる。初期メンバーにと選ぶのは10~20なので、更に項目を追加して絞り込むことにした。
ラピスラズリの見た目に反しないように、気性が穏やかという条件を加える。子守の適性があるということは、基本的には穏やかなのだろうか、その数は目に見えて減るという事は無かった、多少は減ったが。
次に追加した項目は、使徒適性だ。使徒に適性があるという事は、こちらの指示に従いやすいということだ。教育を施すにしても、反発する者がいては面倒だろうというコーマの考えによるものだった。
結果、使徒適性4以上にしたら、その数をかなり減らして随分とすっきりしたので、そこから初期メンバーの魂を選ぶことにした。
「キリがいい数字ってことで20体にするか、設定完了してあるラピスラズリを複製して・・・よし、そんで魂をここからここまで指定して・・・」
ブツブツと口に出しながら、コーマは作業を進めて行く。作業中にブツブツ言ってしまうのは、地球に居た頃からのコーマのクセだ。よく同僚にその独り言はちょっと怖いなどと言われたものだ。
コーマはその事を自覚していないので、今でもその癖は治っていない。
シャリオンの管理室に20体のラピスラズリがずらっと並んでいる。まだ魂が入る前の段階なので、ピクリとも動かずにただ立っているだけ。傍から見れば、着ぐるみに囲まれている大人の男性という、ちょっとシュールな絵面だ。
魂の範囲指定をし、決定をすると、小さな光の球が現れ、それぞれが棒立ちしているラピスラズリの中へと入りこんだ。何も映していないその光の無い目に、やがて光が宿った。
魂を得たラピスラズリたちは、その場へと膝をつき、一斉にコーマへと頭を垂れた。
「なんなりとご命令を、ご主神様」




