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ガルクさんと打ち合わせ

 ガルクさんは現在10歳になっていた。私が3年も居なかったし、彼も心細い思いをしたのではないかと思うと、かなり申し訳なくなってくる。


 とりあえず、心配をかけたかもしれないから謝っておこう。


 トリルの中での夜が訪れ、良い子は寝る時間だ。ガルクさんが眠りについたのを確認すると、私は彼の夢の中へと入った。当然ながら、シエルも同伴である。同伴出勤だ。


 「ガルクさん、ガルクさん、こんばんは」


 トリルの管理室のような真っ白い空間に、ポツリと少年が立っている。少年はその手に本を携え、不思議そうに辺りを見回している。ガルクさんは以前白い部屋に来たことがあるので、その時の事を思い出しているのだろうか?


 やがて、私の声のする方へと顔を向けると、驚き通り越して目玉が飛び出るんじゃないかって程目を見開いて口をパクパクさせている。

 やはり、現実世界で会うよりこっちで会った方が、彼の体に負担がかかる事がない。確実に。リアルで会ったらきっとショック死でしょこれ。というほどに、驚愕の表情である。


 「あ、あ、あアイリーン様・・・!!!!」


 やっと絞り出したのが私の名前を呼ぶことだった。まあ、仕方ないよね、転生してから初めて顔出すし。


 「お久しぶりですガルクさん、ちょっとお願いがあって夢にお邪魔してみました」


 「お邪魔だなんてとんでもないです! 光栄です! お隠れになった時は本当にどうしようかと思いましたが、無事に戻られて本当に嬉しかったです・・・!」


 驚きから歓喜に変わり、そして今は大粒の涙をぽろぽろと零している。忙しい人だなぁ・・・なんて他人事のように思っている場合ではない。


 「ちょっとトラブルがあってね・・・ごめんね心配かけて」


 「いえ! アイリーン様が無事ならばそれでいいのです、私めが勝手に心配しておりましただけですので!」


 今度はあわあわ慌てだした。ころころと表情を変えるガルクさんは、転生以前と変わりない。姿は幼くなっていても、根っこが同じ。それが良く分かる。


 「ええと、今日来たのはね、貴方にちょっと協力して欲しい事があるからなの」


 「は、はい! 何なりとお申し付けください! まだ子供の身ではありますが、誠心誠意努めさせていただきます!」


 相変わらずの大仰な言い方に、シャリオンにいるシンゲンをちょっとだけ思い出す。シンゲンも言い回しが時代劇ちっくで大げさだったなぁなんて。


 「暫くしたら、貴方の前に現れる人が紡ぐ物語を本にして、世に広めて欲しいの」


 「物語・・・ですか」


 トリルには娯楽的なものも含めて物語というものがない。女神の話だって、大体事実をそのまま記録したようなものだった。


 「ええ、できれば最初は幼い子供が読んでも理解できるようなものが望ましいと思います」


 「なるほど、ではあまり文字数が多くないほうがいいのですな?」


 素のガルクさんは、以前大往生を終えたのでおじいちゃんぽいんだよなぁ・・・。子供の姿だからすごく違和感がある。幼女ではないけど、のじゃロリ系の男バージョン的な?


 「そうです、可能であれば、絵で見て理解できると尚良いと思います」


 「絵と文字で構成された本ですか、それは新しい試みですな!」


 一応見本とか見せた方がいいかしら・・・? ええと、何の絵本がいいかなぁ? 桃太郎は鬼退治とかするからパス、シンデレラとかお姫様が出てくるのは、トリルに階級が存在しないからパス。カチカチ山も結構残酷描写があるしなぁ・・・。あれ、こう考えてみると定番の絵本は結構物騒・・・?


 あ、そうだ可愛いクマちゃんが出てくるやつとかあったわよね、と頭の中で思い浮かべるとその絵本が私の手に収まった。あーこれこれ、懐かしいなぁ・・・って和んでる場合じゃない、一応見本としてガルクさんに見せなきゃね。


 「これは、一応見本なんだけど、こんな感じに絵が書いてあって、簡単な言葉が書いてあるものが絵本というの」


 手に持っていた絵本をガルクさんに手渡すと、早速彼はページをめくって興味深そうに読み進めていた。


 「中々可愛らしい絵が描いてあって、内容も実にシンプルで分かりやすいですな! これならば子供が読んでも理解できそうです!」


 「ええ、レベル的には最初はこのくらいからが良いかと思います」


 「母様、絵心のある者も一応向かわせました」


 「ああそうね、想像するにもどんな姿かとか分かっていたほうがいいものね、ありがとうシエル」


 「女神アイリーン様、身勝手なお願いになりますが、聞いて頂けますでしょうか?」


 「どうしたの? 私に出来る事なら聞くわよ?」


 「初めての絵本には、完全な創作ではなく、貴女を題材にさせていただけないでしょうか?」


 まさかの絵本第一号が私とは。え、え・・・そんな事言われたら断れないじゃないの。恥ずかしいとか言ってる場合じゃないわよね・・・。


 「多少恥ずかしい思いはありますが、良いでしょう、ガルクさんの希望通りに一冊目の絵本は私を題材にすることを許可します」


 「ありがとうございます!! 必ずや全土に、いや全世界に貴女様の絵本を届ける事を誓います!」


 私の絵本はそんなはりきらなくていいからね!?

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