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非情な策

 「争いごとを生まないためかぁ・・・」


 トリルに争いごとがないのは何が原因なんだろうか? 国がないから? 貨幣がないから? 色んな原因が重なってそうなってるとしか言いようがない。それに、トリルに住む人々は皆勤勉だし、妬み嫉みを基本的にしないというか・・・。

 誰かが持ってるものを奪ってまで欲しがるような人がいないというか?


 宝石は存在するけど、着飾るとかしないので、基本的にはアクセサリーもそこまで普及はしていない。旦那さんが奥さんに贈り物をするときにちょこっと何かと交換みたいな感じなので、価値がよくわからないんだよねえ。作ってる方も、好きで作ってるだけなので、そこまで高価な物として扱ってない。


 ああ、そうだ、貧富の差がないんだ。豊かな町があっても、それを独占しないから生活水準が同じなんだよね。金持ちみたいなのが居ない代わりに、スラムみたいな場所もなく、行き倒れになるような人もいない。


 それがトリルの普通。


 まずはその普通を理解してもらわないと、使徒としての仕事が務まるとは思えないんだよね。いつまでも地球の価値観を持っていてはだめなのだ。


 ここは異世界というか、違う星なのだから。


 発展はしていってほしいけど、急いでやってもいい事なんて無いと思うんだよね。皆が皆を大事にするこの星のいい所が無くなってしまいそうだもの。


 考えに耽っていると、ギルが物凄い疲れた顔で現れた。さっき連れて行ってから小一時間くらいしかたってなくない?


 「どうしたの? なんか・・・顔が・・・」


 「あいつらと話してると頭がおかしくなりそうだ・・・」


 「えっ・・・」


 「あいつらの星が滅びたのが良く分かるよ・・・」


 「えっ、そんなに問題児なの・・・?」


 ギルをここまで疲れさせるのは・・・サージェス以上かもしれない。性格には難があったけど、それなりに頭のいい人だからなぁ。


 「アイリーン、星を発展させていくには人口を増やした方がいいのはわかるよね?」


 「ええ、それはまあ。何をするにも人手はいるから」


 「そう、それで人口を増やすためには何をすればいいと思う?」


 「んー、環境が整わないと、子供を育てようってならないよね・・・これはもう時間を掛けてじっくりやるしかないんじゃない? 一長一短でどうにかなるもんじゃないでしょ?」


 「そうなんだよ、普通の発想はそうなんだよね、でもあいつらは・・・戦争させれば増えるって言ったんだよ」


 「は・・・? まあそりゃそういう説もあるのは知ってるけど・・・」


 戦後のベビーブームってやつね。日本でもあったし、他の国でも戦争の後は貧しくなるけど人口はそこから爆発的に増えるのだ。種を残すための本能と言う人もいる。


 「アイリーンの考えてる通りの事を、神の意志で誘導させたんだよ・・・」


 「なんてことを・・・その星に住んでる人達は生きた人なのよ!?」


 「神も長く生きれば、人を人とも思わない人格になる事も稀にある事なんだけど・・・感覚がマヒするっていうのかな。長く生き過ぎた弊害っていうかね・・・でもあいつらは長く生きたわけでもない。どれだけ説明しても、下の人間が死のうが死ぬまいが自分達には何の関係もないってさ」


 ギルは元々人間が好きな神様だ。だから余計にその価値観の人達との話は堪えるんだろう。そりゃ普通に人間として生きてても、遠くの国で何人死のうが自分達の生活には一切影響しないけどさ。そんな事にいちいち心を痛めていれば、自分の生活もままならない。


 でも、私達は今は神様という存在。上からいいように人間を操る存在というわけではなく、人々が生を営むのを見守る存在なのだ。遠い存在でもあり、近い存在でもある。少なくともトリルではそういう関係だと思ってる。


 「価値観は・・・すぐには変えられないのはわかるけど、いくらなんでもちょっと・・・」


 押さえつけてルールに従わせたところで、根底にそれがあればきっとどこかで破綻する。


 「これは、さっさと見切りをつけてアイツに送り返した方が俺は良いと思う」


 「何か切欠でもあればねえ・・・」


 「自分達の星が滅んだのも・・・自分達は悪くなくて、下の人間が愚かだからって思ってるからね、そこをまず反省してない時点で、トリルでは役に立たないと思う」


 あー、これはギルさんかなりブチ切れてますわ。私も話に聞くだけでかなり・・・相当頭にきている。そもそも人口を増やすためとかいう名目で戦争を誘導した時点で、神として愚かすぎる。人の人生なんだと思ってんの!


 「そもそもそんな危険思想を全面に出してるのに、あの子達の上司は何してたわけ? 星一つ滅ぼすような事させといて、何食わぬ顔でほっぽり出してるの? 監督官としてダメじゃない? 無能なの? 神なのに無能なの?」


 「あ、あのアイリーン・・・その、なんかごめん・・・」


 「ギルは悪くないわよ!」


 「いやなんか・・・一応ほら、同僚だし・・・?」


 「他の星の事だから、干渉できないから仕方ないじゃない? これはデミスが悪い」


 『えっ、いきなり僕に流れ弾が当たったんだけど!?』


 聞いてたんかい!

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