厄介事
祭りのメイン会場であるロクオウ村はかつてない熱気に包まれていた。私は上から見ているだけだけど、それでもその熱気が伝わってくるかのようだ。
思えば最初はロクオウ村の住民は優しさマックスなゴブリンとオークだけだったんだよね。それが今ではロクストに住むほとんどの種族が集まっている町・・・いやもうこれは首都レベルじゃないかなってほどになっている。
綺麗な街並みにきっちりと舗装された道路、道端にゴミが落ちている事もなく、とても衛生的だ。行き交う人々はとても穏やかににこやかに見える。
「コーマもまあ・・・頑張ったんだろうけど、やっぱりネルちゃんの頑張りが生んだ成果だねえ」
祭りを楽しむ皆の笑顔にほっこり癒されつつお祭りを眺めていると、こうなるまでのネルちゃんの努力が凄まじいものだったんだろうなと思える。
優しいゴブリンとオークが居たからこそのこのスピード発展なんだろうけどね、でもやはり導く者がいるかどうかは大きいね。
「ラプールも負けてられないわねー、コーマもシャリオンにいってるし、そろそろ使徒も増やした方がいいのかしら・・・」
でもなー、有能な人材をこっちに連れてきちゃうのも申し訳ないしなー・・・どっかにいい人材落っこちてないかしら?
『やあやあ、お楽しみの所申し訳ないんだけど、ちょっといいかい?』
あれ・・・どっかで聞いたような声。
「ええと・・・どちらさまですか?」
『えっ・・・』
チャラ神様かと思ったけど、間違ってたら申し訳ないので尋ねておこうと思ったら、なんだかショックを受けていらっしゃる・・・。
「あの、間違ってたらすみません、ギルの上司さんですか・・・? 名前を存じ上げないもので」
『あー、そういえば名前を名乗った事なかったね! いや~ごめんごめん! 僕はギルの上司というか、ギルとサージェスを召し上げて神にしたデミスと言います、改めてよろしくね?』
「こちらこそ、よろしくおねがいします。トリル担当の神アイリーンと申します」
『わあ礼儀正しい! ところで、さっき使徒欲しいって言ってたよね?』
「へ? ああ、そうですね、いい人材が居ればいいなとは思います」
『こっちで余剰人員が出たからそっちに二人ほど送ってもいいかい?』
「えー・・・信用のおける人なのですか?」
なんか怪しい。余剰人員なんてそう簡単に都合よく出る物なんだろうか? もしかして、厄介事を押し付けようとしてない?
『うっ、なんか物凄く警戒してるね? うーんと、詳しくは言えないんだけど、君んとこにいるシュウ君だったっけ、あの子みたいに元神の身だった子達なんだけどね? 再就職先というか、転生先がまだ見つかってなくてね、君の所で働かせてみようかって』
「それは、厄介払いという・・・」
『え! いやいや! 僕は教育に向いてないみたいだからね? 君のとこに行ったサージェスがあんなに様変わりしたくらいだからって思って・・・ダメかな?』
そうだった、デミス様の元にいたサージェスはあんな捻くれた神になったんだった。今はサブカルの影響なのかすっかり大人しいけど・・・。
となると、結構な問題児じゃないの? そもそも星をいっこダメにしたってことよね? 二人だから2つか。
「うーん・・・」
シュウ君はラプールの生活で性格や考え方がまるっと変わったって言ってた、サージェスもなんでかは知らないけど大人しくなった。そして新しく他の星から来る・・・そんな都合よくいくかなぁ・・・?
『あっ、もしそっちで教育してどうにもならなかったら送り返してくれてもいいから!』
あちらも相当必死そうだわ・・・そんなに問題児なのかしら? 私達の上の上が手に負えないって思ってる人を私がどうこうできそうな気が微塵もしないんですけど。
「やるだけやってみます・・・でも本当にダメだったら引き取って下さいよ?」
『わーありがとう! 君だったらきっと大丈夫だよ! いつでも連絡できるように、通信リストに僕の名前も入れとくから! 困ったことあったら相談してね!』
言いたい事だけ言って、通信はプツリと切れた。なんであんなに必死なんだろう・・・?
「シエル、話は聞いてたわよね?」
となりで大人しく話を聞いていたであろうシエルに向き直ると、シエルは静かにコクリと頷いた。
「ギル様に連絡しておきましたので、すぐ来られると思います」
「ありがとう、流石仕事が早いわね」
よしよし、とシエルの柔らかな髪をなでなでしておく。シエルは嬉しそうにはにかむと、私の心も癒される。ちょっと不安はあるけど、まあやるだけやってみましょうかね。
「アイリーン! あいつに厄介事押し付けられたんだって!?」
思ったより早くギルがきた。シエルから凡そのあらましを聞いていたみたいで、もう一度説明するハメになるってことはなかった。
「そういえば、どのタイミングで来るとか言ってなかったわね・・・いつくるんだろ?」
「・・・あの野郎・・・む、迎えに行ってくるよ・・・」
あーギルのこの苦虫を嚙み潰したような顔、これは念話で通信して迎えよろしくね☆みたいなこと言われたんだろうな・・・。
「い、いってらっしゃい」
微妙な空気の中ギルを送り出したのだった。




