狼の森天然温泉
「わあぁ、凄い色とりどりだね!」
キラキラと輝く魔石たちを見ながらシュミカが感激の声を上げる。トリルでの魔石は一色でしかないため、他の色の魔石などは初めて見るのだ。私もこんな様々な色の魔石は初めて見る。
「綺麗ねえ、それにしてもよくこんだけ一杯集めてきたわねえ」
「小さな洞窟がありまして、そこに沢山ありました」
「洞窟・・・あー、そういや大分前に魔石置いといた気がするわ」
忘れてたんかーい。と、犯人を皆がツッコミの眼差しで見る。どうやらウィードが魔石をしまっておいてそのまま忘れ去っていた洞窟があったらしい。
普段生活では使う事が無いので、すっかり忘れてたんだと。確かに魔物は魔道具を使わないし、あまり魔石需要はないけどねえ?
「ところで、温泉って・・・ここのは温泉じゃなくてお風呂だよね? 湧いてるところとかあるのかな?」
「ああー・・・ステータスの方には温泉ってあるものね、ウィード知ってる?」
「俺らは湯に浸かるのすら知らなかったんだぞ? 知ってるわけねえだろ」
知らないのにこの態度である。それがウィードらしいので、ツッコミはしないけど。
「この森の中に都合よくあればいいんだけどねえ・・・、ちょっと探してみようか」
「母様、この森の中に1カ所該当する場所がありますが、沸いておりませんね」
「ああ、まだ地中に留まってる感じなのね、掘っちゃう?」
「やっちゃおう! あ、そういえばここって精霊さんはいるのかな?」
シュミカがそう言うと、小さな光がチカチカっと現れては消えていく。どうやら精霊自体はいるようだ。上位の精霊ではなさそうなので、会話が出来るかどうかと言われればできないが。
「ちっちゃい精霊さんならいるっぽいけど、ウレインに居たような子達は上位だからねえ、ちょっとここにはいないっぽいかな」
「そっかー、でもいるのはいるんだね! ちっちゃい子達でも力を合わせればなんとやらよ! 協力してもらってもいい?」
そんな都合よく協力してくれるもんなのかしらね? と思っていると、先程の光が更に集まってきているようだった。協力してくれそうな感じよねこれは。
「じゃあシエル、その反応のあった場所に案内してくれる? 温泉掘っちゃいましょ」
「分かりました母様、では早速向かいましょう」
(某もお供を!)
「はいはい、シンゲンは私が抱っこして連れてってあげる」
勇ましくお供を申し出たシンゲンをそっと抱き上げる。抱き心地は中々よろしいようだ。
「俺も見物しに行こう、お前らといると面白いからな」
まあ、文化の違いは面白いからね、しょうがない。決して私達が突飛な事ばかりしているわけではない。多分。してないよね?
シエルに案内された場所は、狼の森の北の端の方だった。温泉が沸けば、ここがシンゲンの為の魔石を付けておく場所になる。つまり、シャリオン種のカピヴァラさんの原産地になるということね。
「反応があるのは、この地中ですね、そこまで深くは掘らなくてもいいとは思いますが」
「ふむふむ・・・ほんとね、これなら直ぐにでもなんとかなりそうね」
いきなり掘り当てると、ここがお湯浸しになっちゃうから・・・先に温泉のガワを作っていく事にしよう。温泉と言えばごろごろした石が周りを囲っているような感じがそれっぽいよね。よくある露天風呂をイメージすると、沸きポイントの上に露天風呂っぽいものができあがる。
「おおっ、なんか露天風呂っぽい! おさるさんとかが来るアレだ!」
シュミカ、語彙力・・・まあ気持ちは分かるけど。
真ん中に管を地中深く通すイメージでズンズン掘っていく。穴に嵌ってしまわないように、ちゃんと格子で蓋は用意してある。もう少しで届きそう・・・あ、温泉ゲットしたっぽい!
掘っているといっても、土はちゃんと管として利用しているので、泥水が噴出してくることはない。ちゃんと考えてやってるからね!
「おぉ、これが温泉ってやつか・・・風呂だな」
「まあお風呂なんだけどね、自分達でお湯を沸かさなくても自然に沸いているお風呂って感じになるのかな? 私も原理とかはあんまし考えた事ないけど・・・」
専門家じゃないしね。とにかく温泉が狼の森の範囲内に出来た事はよろこばしいし、シンゲンの仲間を増やしてあげる事がこれで出来るようになった。まあ一年後になるけどね。
「母様、先程の魔石をここに入れてもよろしいですか?」
「ええ、入れてちょうだい」
色とりどりの魔石が温泉に入り、キラキラと輝く温泉といった感じでとてもいい雰囲気だ。一年間浸けて置いたらどういう風に変わるんだろうか?
「あまり手に入れる機会はないんだが、見つけたら俺もここに持ってくるようにしよう」
「そうね、ここを貯蔵庫代わりにするのもいいかもね、手狭になってきたら連絡頂戴ね、拡張するし」
「ああ、そうする」
(一年後に、某の子がここから生まれるのか・・・感無量である)
既に親の心を持ち始めているシンゲンさん・・・気が早すぎるのでは? 何はともあれ喜んでくれているようなので良しとしましょう。




