シャリオンへの帰還
「シュミカ、あんたねえ・・・」
「てへっ」
「てへっじゃないわよ! 事前に連絡くらいしなさいよまったく!」
「サプライズになんないじゃな~い」
祭りの最後を飾ったシュミカの”お礼”、あまりの規模の大きさに思わず抗議してしまう。いや、そりゃ実り豊かになるのはいいんだけどね? でも、2倍はやりすぎだとおもうのよ? せめて2割増しくらいがいいところじゃない?
でもそのような抗議をしたところで、シュミカからはお礼の気持ちがそれだけ大きいし、アイリーンが帰ってきたのが嬉しいのって言われたらそれ以上は何も言えなくなった。まあ、1年の期限付きだし・・・いいか。
「農業の神様になってから初めての大仕事だから、ちょっとだけ緊張しちゃったぁ」
「そもそも神様の仕事自体初めてなんじゃ・・・」
「それは言わないお約束だよ~?」
「約束した覚えはないわね」
こんな軽口を叩き合えるのも、無事帰ってきたおかげだ。ロクスト主催のお祭りまでにはまだ少しありそうだから、ちょっとだけシャリオン覗いてこようかな・・・?
「あー、じゃあ私も行きたい行きたい!」
「じゃあシエルと3人で行きましょうか」
「ここの仕事はギルとサージェスに任せるの?」
「そうね、サージェスにはそろそろ仕事始めて貰おうかな」
というわけで、初めてのお仕事はお留守番である。白い部屋のようなシャリオン用の部屋を作ってもらい、そこに繋げて貰ったので、これからはいつでも移動可能だ。
空いた時間にシャリオンへと向かう事をギルに告げ、その間トリルの管理をサージェスと二人で頑張って貰う事になった。割と心底嫌そうな顔をしてたけど、仲直りできるかもしれないじゃん? がんばれ!
「主よ、き・・・気を付けて行ってくるのだぞ」
なんと、あのサージェスから気遣いのお言葉を頂いてしまった。ここへ来てからの数日間は刺々しいオーラを醸し出していたサージェスも、今ではまあなんというか、丸くなった? といった感じで、ギルとはまだ和解はできてないっぽいけど、前よりは関係改善がなされていると感じた。
「それじゃトリルをよろしくね~、緊急性の高い案件あればすぐ知らせてね」
「はいはい、そんな事態は起こらないとは思うけど、気を付けていってら~」
やる気のないお手振りをギルから貰い、シュミカとシエルと私の3人はシャリオンの管理ルームへ移動する。そういえば、時間の流れが違うって言ってたよね。私の管理下になったからには、トリルと時間軸を合わせておこうかな。
そう思ったら、即座に時間の進みが緩やかになった。操作要らずになっちゃったのかぁ、便利っちゃ便利だけど・・・やたら軽く変な希望をしないように心がけよう・・・。
と言っても、私が帰ってからの間一体どのくらいの時間が流れたんだろう・・・。ウィード達は元気にしているんだろうか。一応検索かけて、狼の森の位置を出すと、ウィードの名前は・・・あった。
「良かった、ウィードは健在みたいね。まあ、寿命長いんだしへーきかぁ」
「なになに? アイリーンの想い人?」
「んー、まあ人ではないけど・・・それに近いかも?」
シエルが探しに来なければ、もしかしたら一生を共にしたかもしれない相手だ。好きだよそりゃ。
「ますます会いたくなったぁ~、早くいこ~」
「はいはい、じゃあ狼の森の私の像が設置されている所へ向けてしゅっぱーつ!」
「「おー」」
まあ、一瞬で着くんですけどね?
惑星シャリオンの中にある狼の森、その中に過去人間がいたであろう砦の跡地がある。その跡地の中心部には、女神の像が置かれている。それは狼達が崇拝し、愛してやまない女神だ。
その女神の像へと空から一筋の光が差し込み、周りにいた狼達は慌てて自分達の王へと知らせた。今までこういう不思議な現象は起きた事がなかったため、狼達は狼狽えた。
狼達の王であるフェンリルのウィードが女神像の前へ到着すると、光は収まりつつあり、その光の中に3人の人影が見えた。
「アイ・・・リーンなのか・・・?」
光が完全に収まると、そこには女神像の姿通りの人物と、この女神像を作った少女、それに見た事もない耳の長い女性が立っていた。
「ウィード・・・! ただいまっ!」
ウィードの姿を確認するや否や、アイリーンは走り出し、ウィードに飛びついた。久しぶりのモフモフタイムを堪能し、もう会えないと思っていたから余計に感じる嬉しさを噛み締めた。
「ああ、おかえり・・・俺の女神」
感動の再会を邪魔しないように、ほろりと涙を零しながら、シュミカとシエルはその抱擁を見守った。
「地球時代でもあんな姿見たことなかった・・・ほんとに好きなんだねえ」
地球に居た頃は、恋愛関係をシュミカにほとんど見せる事が無かったため、アイリーンの今の姿を見てシュミカが驚くのにも無理はなかった。感情豊かなのだが、一枚フィルターを挟んでいるような、本心を見せないと言うか、見せれないというか。つまりは不器用だったのだ。
今の彼女は本来の彼女の姿だったのかもしれない。シュミカはそう思ったのであった。




