サージェスがやってきた
「で、例のアレはいつ来るんだ?」
「んー、ギルが手続きとかしに行ってくれてるから、その後とかじゃない? あと、名前で呼ぶようにしようね、色々煩そうだし」
「あー、そうだな。サージェスだっけか、イマイチ名前で呼び慣れてないからなぁ・・・」
「ま、今すぐ来るって事は・・・無いと思うけど」
「その間がこえーわ・・・」
今までフラグ的なものが割とすぐ実現されてしまう傾向があるため、なんとなく口に出すとダメな気はした二人だったが、既に遅かったようだ。
「お二人さんや・・・」
ひどく疲れ切った声で現れたのはギルだった。ついさっき行ってくるって出て行ったような気はしていたのだが、もう戻ってくるとは、手続きとかは簡単なのだろうか? と疑問に思い尋ねてみると・・・。
「なんか既に手続きとか終わらせてあったんだよ・・・返事してからするはずだったものが既に」
「んんん? それってどういう事・・・」
「貴様はあの星がどのような条件でも欲しがると思ったから先に済ませておいただけだ」
ギルの陰から現れたのは、アイリーンにとっては暫くぶりなサージェスだった。相変わらず偉そうな物言いである。
「久しぶり・・・だけど、これからは私の使徒になるのだから貴様呼びはダメなんじゃないの?」
「普通に部下としてはダメだな」
そう、これからは他の星の神ではなく、アイリーンの使徒として働くことになるのだ。上司である神を貴様呼ばわりは普通に考えたらダメである。
二人から即座にダメ出しをされ、ぐっと言葉に詰まってしまうサージェス。それを見てギルは少し驚いたような表情を浮かべた。
「へえ・・・」
「なんだ、何か言いたい事でもあるのか」
「いや、なんでもないけど、そのアイリーンの上司に当たるんだけど? そんな態度が許されるとでも?」
「ぐぬぬぬぬぬ、貴様っ!」
「とりあえずサージェスは黙って、ここに来たからにはここのルールに従ってもらいます! ついでにいつもの使徒教育はギルよろしくね?」
「なっ!? えっ!?」
「当たり前でしょ、いつもやってくれてたじゃない? 私もシエルも復活祭やらなんやらで忙しくなるもの、ギルも忙しいでしょうけど、頼まれてくれるよね?」
「うっ・・・はい・・・分かったよ」
そのやり取りを見て、なぜか勝ち誇ったような笑みを浮かべるサージェスだったが、そのギルから教育されるという事実は見えてないようだ。
「いつもの別部屋でよろしくねー、どうにもならなかったら呼んでくれていいから」
「さて、俺もネルの御用聞きでもしてくるかな」
「アンタ本格的にネルちゃんの下に・・・」
「そっ、そんなわけ・・・」
ないとも言い切れないのが何とも切ない。ネルに必要な物を聞いてそれを用意する、そんな状態がここのところずっと続いているのだ。このままでは、本当にネルの下についていると思われてしまうと焦ってみても、特に打開策もなく、コーマのポジションはほとんど決定しているようなものだった。
居た堪れない思いをしつつも、これ以上弄られては割と本格的に傷ついてしまいそうなので、コーマはさっさと退散した。
「まったくもう・・・、さて、サージェス、貴方にはこれから使徒としてトリルの知識というか、私達の価値観を学んでもらいます。ギルは地球に居た事もあるからその辺は多分分かってると思うので、しっかり言う事を聞いて頂戴ね?」
「ふん、俺を誰だと思っている、そんなものは朝飯前だ」
「じゃあまずはその偉そうな物言いと態度をどうにかしてね? 私の使徒がそんなのだと私もそんなのだと思われちゃうもの」
「ぐっ・・・わ、わかりました我が主」
「ギルもほんと大変だろうけど頑張って・・・」
「う、うん・・・耐えられなくなったらシュミカのとこにでもいってご飯食べてくるよ」
あからさまに肩をガックリと落としながら、サージェスと共に使徒の教育部屋へと移動していったギルを見送ったアイリーンだった。
シュミカの存在はギルにとって癒しなのだろうか? それとも美味しい食事が癒しになっているのだろうか・・・。ひと段落ついたら、みんなで魔物の星の狼の森でわいわいやりたいなぁとか考えているアイリーンなのであった。
「これで、あの星が母様の星になったわけですよね?」
「ん? そうね、そういえばあの星って名前なんていうのかしら?」
帰ってきたときにシュウにでも聞いておけばよかったのだが、色々バタバタとしていて、つい聞きそびれてしまっていた。自分達は常に魔物の星と呼んでいたので、すっかり忘れていた。
これからはアイリーンが担当する星になるのだから、名前を知っておきたいところだと思うので、早速手紙でシュウに尋ねてみると、即座に返事が返ってきた。丁度机の所にでもいたのだろう。
『アイツは自分の名前すら俺に教えてくれなかったから、星の名前も聞いてないんだよなぁ。ま、好きにつけといて!』
そういえば、シュウからサージェスの名前を聞かないと思っていたら、教えてすらいなかったというオチだった。なんという怠慢・・・。
アイリーンはシエルと顔を見合わせて、小さくため息をついた。
「二人で考えようか・・・」
「そうですね・・・」




