さよならとただいま
「ううっ、寂しくなるなぁ・・・」
「おいバカ、泣いてんじゃねえよ!」
「おっおまえだって泣いてるじゃねえかよー」
「笑って見送るって皆で決めただろぉ・・・ぐすっ」
狼達はそれぞれ涙を浮かべたり、号泣していたり、無理やり笑顔を作ろうとしておかしな顔になったりしている。最後の日を楽しんだが、それでもやはり寂しいものは寂しいらしい。
「アイリーン、こいつらの事は気にしなくていいぞ、お前が居なくなったら代わりにあの像に向かってお祈りでもし始めるだろーよ」
「あ、あはは・・・それはそれでちょっと・・・」
実に照れ臭い。
「ああ、そうだ。持ち物は持って帰れるんだろ?」
「定員とは聞きましたが、物については何も説明もなかったので、身に着けている物は大丈夫だと思います」
帰還用アイテムについての説明をその場で聞いていなかったアイリーンではなく、シエルが代わりに答える。ギル達の上司のチャラい神様から頂いた帰還用アイテムは、帰りの人員だけ指定されたのみだった。
「これ、持ってけ」
どこからともなく取り出したのは、美しい光を放っている宝玉だった。無造作に投げられて、アイリーンは慌ててそれを受け取ると、その美しい輝きを見て驚き、ウィードを見返す。
「こ、これって・・・」
「フェンリルにのみ作る事の出来る宝玉だ。まあ、あと100年もすりゃまた同じもんが作れるから気にすんな」
「ひゃっ、百年・・・! そんな大層なもの・・・」
「だーかーら、気にすんな! お守りみてーなもんだよ! もし、もしな・・・俺らがそっちの星に行くのとかできなかったりしたら、新しくそっちでフェンリルでも作ってやれ。そんでもって、その宝玉渡せばいい、俺の魂が多少は入ってるからな」
「ウィード・・・ぐすっ、ありがとう・・・」
「あーもう、泣くんじゃねえよ。泣かせるために渡したんじゃねえ!」
「あーあー、王がアイリーンちゃん泣かしたー!」
「お前らうるせぇっ!」
いつものようなやりとりに、流れ落ちそうだった涙も踏みとどまる。心が温まるような宝玉の輝きをもう一度見て、大事にそれをしまう。何の装備も持たないアイリーンにシエルがマジックバッグを拠点から持ってきてくれたのだ。
「では、母様宜しいですか?」
「うん、いつまでもこうしていたいけど・・・そういう訳にも行かないからね」
シエルと手を繋ぎ、シエルを見て頷く。名残惜しいが、自分の帰りを待つ人もいるのだ。
「ウィード、皆、元気でね! 今までありがとう! 大好きだよ皆!」
「カピヴァラさんもお達者で」
(応!)
帰還用アイテムを作動させると、二人の体は光に包まれ、やがて光の球になり、そしてふわりと浮かび上がった。その光の球が天高く昇っていくのを、狼達とカピヴァラさんは見えなくなるまでずっと見上げていた。キラキラと、光の粒が空から降り、狼達へと降り注ぐ。その幻想的な光景を見て、狼達はアイリーンの事をそれぞれに想い、涙を流したのだった。
「またな・・・アイリーン」
光の球になって、魔物の星の遥か上空へと舞い上がった二人は、そこからは一瞬で見覚えのある大陸が見える星の上空へと転移した。
アイリーンにとっては20年ぶりのトリルである。感慨に浸る暇もなく、そこから再び視点が切り替わり、見覚えのある白い部屋へと舞い降りた。
二人を包む光が徐々に収束し、ゆっくりと瞼を上げると、そこには20年前と変わらずあるトリルの模型。
とうとう、帰ってきたのだ。
「ただいま・・・トリル」
慈しむ様に、愛おし気にトリルの模型を一撫でする。その様子をシエルは黙って見つめている。一撫でした後、シエルに向き直り
「ただいま、シエル」
そう言うと、シエルをぎゅっと抱きしめた。
「おかえりなさい・・・母様!」
シエルはアイリーンを抱きしめ返すと、溢れる涙を抑えきれず泣き出してしまった。見た目は少女なのだからなんら違和感などはないのだが、使徒となってから、感情などを表に出す事が無かったシエルが大泣きなのだ。
魔物の星でシエルに感情が芽生えた事を感じていたアイリーンは、特に慌てる事もなかったが、きっとコーマ辺りが見たら、驚いて狼狽えるんじゃないかしらと思う余裕すらあった。
「泣くの落ち着いたら皆に連絡しよっか?」
アイリーンの胸に顔を埋めたまま、シエルはコクリと頷く。そんなシエルも超可愛いと思っているあたり、通常営業復帰である。
泣き止んだシエルは、少し目がはれぼったくなっていたが、そこは取り戻した使徒の力でなんとかした。泣いたことを知られるのが少し恥ずかしいと思ったのかもしれない。
「あー、この通信も使うの久しぶりだわ・・・懐かしい・・・っと、浸ってる場合じゃないわ、ちゃんと連絡入れとかないと!」
通信欄に、ギル、コーマ、シュミカの3人の名前が表示されると、本当に帰ってきたのだという実感が湧いてくる。アイリーンは深呼吸を一つつき、息を整えた後
「みんな・・・ただいま!!!」
一斉送信で久しぶりの仲間へと帰還を伝えるのだった。




