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あっさりと

 「貴様・・・今やただの人間になりさがった分際でこの俺をここまでコケにするとは、余程死にたいようだな?」


 「あー、またそうやって口で勝てないと暴力に訴えようとするとか、ほんと最低!」


 ビキビキッと青筋が立つ音が聞こえてきそうなほど、例のアレは表情を歪ませた。今この場でこの二人を始末することは容易ではあるのだが、それをすれば自分の器が小さいと言っているようなものだと例のアレは必死に怒りを鎮めようとしている。


 「私はね、記憶を奪われただとか、この星に無理やり転生させられただとか、そういうのはもう済んだことだし特に恨むとかそういうのはないの。でも、アンタが何の反省もしてないと思うと腹が立つのよ! シエルを傷つけておいて!」


 「そこの使徒を傷つけた事の何が悪い事なんだ、邪魔な羽虫を駆除しようとして何が悪い」


 「あんたがなんで神様なのか理解できないわ、最低すぎる」


 「神など皆似たようなものだ」


 「あーそうですか、じゃあ最低な神ばっかりの中でもアンタは反省も出来ない馬鹿で最低な野郎ってことね、もうそれでいいじゃない、さっさと寝直せばーか!」


 もう、目の前にいるこの男に何を言っても無駄と判断したアイリーンは捨て台詞と共に、この場を立ち去ろうとする。シエルはアイリーンの激高した様子に圧倒されたようで、口を開けたまま固まっている。


 「もういこいこ、シエル。この馬鹿と話してると馬鹿が伝染るわ」


 「あっ・・・ハイ」


 呆気に取られていたシエルは、ハッと気を取り直しアイリーンに返事をするが、わなわなと怒りに震えている例のアレが気になって、素直に扉へと行くことが出来ない。


 「待て」


 「何よ、私達は忙しいの! アンタに消された記憶を戻す方法を探すのにね! 時間が勿体ないから話しかけないでくれる?」


 ビシッと例のアレを指さし、今の目的をぶっちゃけてしまった。このような所に来ているのだから、大体の目的は察せられていたのだが。


 例のアレはアイリーンに向けて指を動かした。何をしているのか理解できないアイリーンは、次の瞬間崩れ落ちたのだった。


 「アイリーン様!!!!」


 倒れこむアイリーンをすんでのところで支え、地面に倒れこむのを防ぐシエルに例のアレは告げた。


 「悪いとは思っていない、だがいつまでも馬鹿にされては気分が悪い、記憶の封印は排除しておいた。さっさとここから立ち去れ」


 神の気まぐれか、罵倒されたのが余程堪えたのか。割と繊細だったのか・・・。ともあれ目的は果たせてしまった。


 「その女が起きたら伝えておけ、俺はアンタじゃなくてサージェスだとな」


 シュウもギルも名前を知っていただろうに、一度のその名前を口にしたことがなかったため、シエルも例のアレとしか認識していなかったその名前が、こんなところで明らかになろうとは。


 「分かりました、これは謝罪として受け取っておきます、それでは失礼します」


 アイリーンを抱えたまま、設定してあったポイントへと移動する。まだまだこの地下には色々と眠っていそうなのだが、そんなものには興味はない。それに、アイリーンが今は動けない。


 ポイントにて、アイリーンを横たわらせた後、シエルはアイリーンの中にある封印の有無を確認したが、封印は綺麗に取り払われていて、記憶は戻ったのだろうと思われる。

 だが、アイリーンが何時目覚めるのか不明だ。このままここで目覚めるのを待つ事は出来ないと判断し、再びアイリーンを抱え、狼の森へと帰還する事にした。


 「母様・・・」


 サージェスの気まぐれなのか何なのか分からないが、記憶は戻る。だが、意識が戻るのが何時になるかはまだ分からない。言いようのない不安がシエルに襲い掛かる。


 唇をキュッと噛み締め、ポイントを幾つか経由しながら狼の森を目指す。二人分の移動なので、いつもより消費が多いが、帰るまでの魔力は持つだろう。


 狼の森が視認できた頃には、シエルの魔力はほとんど空っぽになってしまったようで、抱える腕にも力が入りきらない。狼の森の手前のポイントに辿り着いた時、シエルはとうとうその場に膝をついてしまった。


 『ウィードさん・・・母様を・・・お願いします』


 その念話を最後に、シエルは意識を手放した。



 眠っている間、ふわふわと柔らかく暖かな物に包まれているような、そんな夢を見たような気がした。シエルが目覚めたのは、最後に意識を手放してから、三日が経った頃だった。


 「う・・・」


 ずっと眠っていたせいか、体は固まっていて動かしづらい。魔力の方は回復したみたいで、問題はなさそうな感じだ。うっすらと開けた目には見覚えのある部屋の風景が映し出されていて、最後に飛ばした念話を受けてウィードが保護しに来てくれたのだろうという事が分かる。


 「っか、母様は・・・」


 同じように意識がなかったアイリーンの姿は近くにはなく、この部屋に現在は誰もいないようだ。ギシギシと軋む体をゆっくりと起こし、寝かされていた場所に座ると、誰かがこの部屋に近づいてくるのが分かった。


 「シエル・・・! 起きたのね!」


 扉を開けたのは、涙を目に浮かべたアイリーンだった。

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