そこで眠りについていた者
魔法で封じられていた扉を開けると、そこは今までに見た部屋とは違い、華美な造りになっていた。今までの部屋が学生寮だとするならば、ここは王族などが使うような部屋という感じだろうか。
手前には柔らかそうなソファが向き合っておかれており、その間には艶やかなテーブルが置かれている。クローゼットや書棚などもあり、やはり高貴な身分の人の部屋なのだろうと思われた。
奥には天蓋付きのベッドが置かれていて、お姫様でも寝ているのだろうかとベッドに近づいてみると、本当に人が寝ているようなこんもりとしたふくらみが見られた。
「あれ・・・人って絶滅したのよね・・・?」
手分けして探索しているので、ここにシエルはいないのだがつい独り言を言ってしまう。答えは当然かえってはこないのだが。
声に出してしまった今更だが、そろりそろりと足音を気にしながらベッドに近づいていくと、そこには人形のようにピクリとも動かずに横たわる男性の姿があった。
「ひ・・・人・・・っ」
またうっかり声を出してしまい、慌てて手で口を押えるが、その横たわった男性は何の反応も示さない。いくらなんでも数百年経過していて生きているということは考えづらい。きっと亡くなってからも状態保存の魔法の効果でそのままの姿を保っているのだろう、そうアイリーンは結論付けた。
「生きて・・・ないよね?」
恐る恐るその男性の頬に手を伸ばし、触れてみる。
「う、うそ・・・生きてるの・・・?」
生きていたとしたら、この星の人類は・・・滅亡していないのか? この部屋の他にも同じような人間がいるのか? 色んな考えが浮かぶものの、何の情報もない。一人で考えて行動するのは良くないと、シエルに念話を飛ばしてみる。
『シエル、ちょっといいかな?』
『なんでしょう? 何か問題でもありましたか?』
『問題っちゃ問題なんだけど・・・人が・・・眠っているようなの』
『えっ・・・!? すぐそこへ参ります!』
参りますの「す」の辺りでシエルがアイリーンの前に姿を現した。文字通りすぐきた。
「この・・・人なんだけど、亡くなってるのかと思ったら、体温があるのよ・・・」
ベッドに横たわる人に目線をやると、シエルは前に進み出てその男性を見た瞬間、大きく目を見開いた。そして、その顔色はどんどん青ざめていく。
「だ、大丈夫? シエル」
「この・・・この人は、人ではありません」
「えっ、人に見えるけど・・・人じゃないの? 人型の魔物ってこと?」
「いいえ・・・その・・・」
言いづらそうに口ごもっている、こんなシエルは初めて見る。この星でシエルと会ってからそこまで時間が経っているわけでもないのだが、こんな狼狽えているシエルは見た事がない。常に落ち着き払っているイメージしかなかったのだ。
やがて意を決したようにシエルはアイリーンに向き直ると、その重い口を開いた。
「私を殺そうとし、アイリーン様をこの星に追いやった張本人です・・・」
「は・・・? え・・・、てことは・・・神?」
「はい・・・現在は罰を受けて眠りについていると聞きましたが・・・まさかこの星で眠っているとは・・・」
「ど、どどどどうしよう? 見なかったことにしちゃう・・・?」
寝ている今、きっと何もできないであろうこの神に復讐をするなら絶好のチャンスなのだろうが、それによって生じる様々な問題を考えると、迂闊な事はできない。
一度破ってしまった扉の封印も、全く同じとはいかないまでもし直す事はできる。起きた時に気付かれるだろうが、それまでに記憶を取り戻し、この星から去れば問題ないのだろう。
「そうですね・・・私達にどうこうできるようなものではありませんから」
二人でこの部屋で見た事は無かった事にし、扉に再び封印をしようという事でここでの処理が決まった。そうと決まればさっさとこの部屋からは出よう、二人が扉に向かって歩き出したその時・・・。
「俺の眠りを妨げておいて、ただで帰れるとでも思っているのか?」
先程まで死んだように眠っていたはずの男・・・いや神から発せられた声に二人は引き留められたのだった。シエルにはその声に覚えがある。3年も前の話だが、それに殺されかけたのだ。忘れるはずもない。
「ちゃんと部屋に鍵はかけておきますよ、どうぞお眠り下さい」
「ほう、耳元で煩く囀っておきながら、鍵をかけるだけとは」
「私達は忙しいの! いいからもっかい寝なさいよ!」
例のアレの言葉の途中に割り込む様にアイリーンが怒鳴った。罰を受けるために眠っていたと聞いたのに、自分のやったことを何も悪いと思っていないその態度に腹が立ったのだ。
「私の記憶を奪ったらしいくせに、なによ! 全然反省してないじゃないの!」
「反省だと? なんでそんなものをこの俺がする必要があるんだ」
「人を傷つけて、人のものを奪っておいて反省しないほうが有り得ないんですけど? そんなの子供の狼でもできるわよ!」
「子供の狼以下だと、俺を馬鹿にしているのか?」
「ちっさい子でも悪い事したら反省くらいするわよ! そんな事もしらないで何が神よ!」
神をも恐れぬこの言動、すっかりアイリーンはおかんむりであった。




