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派遣開始

 「戻ったぞー」


 やはり予告もなくいきなり現れるコーマ。もはや二人は驚きもしなかった、毎度の事なので。


 「おかえりー、早かったね」


 「もうツッコミもなしか・・・まあそれはいい。ぼっち耐性の強いカピヴァラさんをゲットしたぜ」


 「ぼっち耐性て」


 (よろしくお頼み申す、拙者の事は何と呼んでいただいても結構)


 「うお、なんかすげえ武士っぽい喋りすんなこの子」


 「ネルがなんか独特な喋り方してるって言ってたけど、確かにこれは武士っぽいわ」


 「地球人の日本人くらいにしか通じないんじゃない? 僕は分かるけどさ」


 ギルにも地球の知識はあるので、武士っぽいという二人の評価はわからんでもないが、堅苦しい時代錯誤な喋り=武士というのは、きっとテレビなどの影響だろう。多分シュミカも同じ反応を示すだろう。


 「で、そっちはどうなんだ?」


 「こっちは準備オッケーだよ。手紙と、それを入れる物も作ったよ」


 「新しく作った地図も、色々注釈付け足して出来上がったぞ」


 「おー、んじゃいよいよか・・・」


 ぼっちヴァラさんに首輪(と言っても首がどこにあるのか怪しい体型なのだが、首輪としておく)を取り付け、その首輪に付属している入れ物に手紙と地図をしまい込む。


 「あとはなんか、便利アイテムでもあればなー」


 「例えば?」


 「いや・・・なんか結局魔法で解決しそうだからやっぱなし」


 「「ですよねー」」


 首輪を装着したぼっちヴァラさんは、心なしかキリッとした顔つきになったような気がする。気がするだけなのだが・・・やはりドヤ顔に見える。


 「既に誇らしげになってるところ悪いけど、これから君には重要なミッションに挑んでもらう。いいかい?」


 (神々に選ばれしカピヴァラとして、誉れ高き事! 如何なる使命にも応える所存!)


 「う、うん。意識高くて結構だね・・・。今君の首輪に入れた手紙を、女神の使徒であるシエルという少女に渡してほしいんだ。カピヴァラという種族はあの星に居ないから、見たらきっとこちらの送り込んだ者だと分かると思うけど。手紙を読むように伝えるのが君の使命だ」


 (相分かった! 必ずや必ずや・・・!)


 会話だけなら、時代劇でも見ているようなやりとりだが、神とカピヴァラさんである。シュール。


 「その意気や良し! というわけで、今から君を別の星へと転移させる。気を付けて行ってくるんだよ」


 そう言った後、ぼっちヴァラさん改め、武士ヴァラさんは光の球となってふわりと浮かんだ。そして一瞬で消えた。


 「多分座標は間違えてはないと思うし、上手くいったはず。後は・・・祈れ」


 「お、おう・・・この場合、何に祈ればいいんだろうな」


 「神様・・・はここに二人もいるしな」


 「かみさまはこころのなかにいるもんなんだよ」


 超棒読みで返すギルに、二人は自然と笑いが漏れる。これで上手くいってくれれば、アイリーンがこの星に帰って来る日も近いのだ。



──魔物の星、セントール砦──


 魔物の星に光の球が舞い降りる。荒廃した砦の跡地にふわりとその光は浮かんでいる。やがて、光はどこかで見た動物の形を形成していった。


 (ここが・・・魔物の星! ここに使徒であるシエル殿がいらっしゃるのか? 何もないように見えるが)


 武士ヴァラさんは、廃墟のような砦跡地を見て、生き物の気配がないように思えた。くるりと周りを見回すと、女神を象った木像がそこらじゅうに置かれている。きっとこれは、使徒であるシエルが作った物なのだろうと予想するが、その使徒シエルを武士ヴァラさんは見た事がない。少女と言われていたとしか、記憶にないのだ。


 (ううむ、どこかに拠点としている小屋なり部屋なりあれば・・・)


 とことこと歩き、砦の跡地を見て回る。小屋などの建物と言えるものはなく、ここには建造物と呼べるものがないのだ。あるのは多数の女神像だけ。


 (女神像の配置は適当なのか? 何かヒントは・・・)


 女神像はきっちり整列されていて、乱雑に置かれているわけではない。整列されている、その先に何かがあるのではないかと武士ヴァラさんは考えた。動物のくせに中々の洞察力である。


 (おや・・・何やら床に穴が)


 武士ヴァラさんは、地下空間への入り口を見つけた!(テッテレー)


 (もし中に誰も居なかった場合は、ここで暫し待たせていただくとしよう)


 武士ヴァラさんは迷うことなく地下へと侵入する。地下の空間はいくつもの扉があり、いくつかは壊れている。きっと無事な扉は何かしらの部屋があるに違いないと考えるが、ここで武士ヴァラさんは重大な事に気付くのであった。


 (扉が・・・開けれん!)


 今まで通り過ぎた扉は、ドアノブのようなものか、手前に引く形のドアだったのだ。押して開けれるものだったならば、体でぐいとやれば開くのかもしれないが、これでは動物である武士ヴァラさんには開けることが出来ない。


 (ううむ・・・一つずつ扉を叩いてみるか)


 脳筋かと思いきや、意外と武士ヴァラさんは賢かった。通り過ぎてしまったので、最初の扉の所まで戻り、軽く体当たりをしながらドンドンと音を立てて、誰かいないかを確認しはじめたのだ。


 最後の部屋となったところで


 「あら・・・貴方は確か・・・お風呂の子ですね」


 後ろからシエルが姿を現した。

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