ぼっちのカピヴァラさん
「というわけで、そっち行くから」
『なーにーが「というわけ」なんですか! アホですか、バカですか! ちゃんと説明してください!』
連絡しても、怒られました。説明をほとんどすっ飛ばしての訪問予定を伝えただけなので、ネルがおかんむりになるのも当然だった。
「とりあえず、そっち行ってから説明するわ、長くなるし。今から行っても平気か?」
『はいはい、いいですよもう・・・現在は特に何もしていないので手は空いています、どうぞ』
お許しが出たので早速ロクオウ村のネルの居場所へと移動する。ネルが座標になっているので、移動は簡単だ。コーマも幾度となくこの移動をしているため、もう慣れたものだ。
「顔を合わせるのは久しぶりですね、コーマ」
ちょっとだけにこりと笑うと、すぐさまその表情は険しい物へと変化していく。
「あらやだ大魔神じゃないの」
「いいから説明!」
「はい」
シエルが旅立った先で、きっと困っているだろうという推測から、念話のできるカピヴァラさんを派遣するという流れになったと説明する。
「全然長くないし、あと色々端折ってますよね? もうちょっと詳しく説明!」
「へい・・・」
ギルが目覚めた事、人や魔物はあちらに飛ばす事はできないが、動物程度なら可能だという事。動物などを飛ばす場合、こちらの思うようにシエルに伝える事ができるのは、念話の出来るカピヴァラさんだという結論に至った事を追加で説明した。
「ギル様がやっとお戻りになられたのですね。なるほど、そういうことでしたら、この村のカピヴァラさんに伝えて、適切な個体を探すのを協力してもらう事にします、コーマはここで待っててください」
「え、俺も一緒に行かないのか」
「貴方一応神なんですよ、ほいほいその辺を出歩かれると困ります」
「はひ・・・」
もはや、どちらが上司か分かったものではない。渋々ながらもここで待つことにしたコーマは、大人しくネルを見送った。
「適当にベッドでゴロゴロしとくか・・・」
ネルは、早速この村のカピヴァラさんの元へと駆けた。思えばこのカピヴァラさんと初めて念話を交わしたのだ。その後は毎回カピヴァラさん関連の事について世話になっている。入浴剤についてもだが。
「カピヴァラさん、ちょっと協力してほしい事があるんですが」
(ネル様の頼みならどんとこいですよ~)
念話の出来る個体で、別の星に行っても大丈夫なメンタルの持ち主がいるかどうかを尋ねると、しばし考えた後、精神的に強めの個体に、自分が念話を教えると答えが返ってきた。
カピヴァラさんを抱き上げ、野生の個体が居る場所へと向かう。さほど遠くはないが、普通にてくてく歩いていけば結構な時間が掛かってしまうため、村を出たところからネルは全力で駆けた。カピナビは念話で行われているので、口を開かずともいいところが便利。
「この辺りに、メンタル強そうな子はいますか?」
(そうだねえ、大人しめの子が多いけど、一匹だけメンタル強そうな子がいるねー)
「おお、では早速行ってみましょう、案内よろしくです」
再びカピヴァラさんのナビでその強メンタルカピヴァラさんの元へと向かう。群れからはちょっと離れたところにいるようだ。
(この子は、群れるのはあまり好きじゃないみたいで、ぼっち耐性がついてるのー)
「なるほど、それなら別の星で一人で居ても大丈夫そうですね」
(ちょっと交渉してみるねー)
「あ、はいお願いします」
ネルは抱き上げていたカピヴァラさんを地面に降ろすと、ぼっちヴァラさんへと向かうその姿を見守った。念話で何やら話をしているようだが、あちらの念話を拾う事は流石に出来ない。喧嘩になったりしないように、あちらの様子を良く観察しておく。
やがて、お互いに頷き合った(ように見えた)後、ネルの居る所へと2匹が向かってくる。
(交渉成立~、あと念話も覚えたよ~)
「はっや、カピヴァラさん流石有能ですね・・・」
(それほどでも~)
(よろしくお頼み申します)
微妙に堅苦しい喋り方をするぼっちヴァラさんであった。
「こちらこそ、無理お願いしてすみませんね。では、早速コーマが待っている所へ一緒に行きましょう」
(は~い)
(承知仕った)
やはり微妙に堅苦しい喋りである。カピヴァラさんにも色々いるんだなぁ・・・とか思いながら再びネルは村へと全力疾走した。初めての超スピードの移動に若干ぼっちヴァラさんが目を回したが、村に着く頃には慣れたようだ。中々環境適応能力が高いらしい。
「じゃあ、カピヴァラさんありがとうございました。また何かあれば宜しくお願いしますね」
カピヴァラさんの職場である公衆浴場の前に降ろすと、ペコリと頭を下げ挨拶をする。ネルは礼儀正しい子。
「コーマ、カピヴァラさんを連れてきましたよ・・・ってなんで寝てるんですか!」
抱かれているぼっちヴァラさんがちょっとだけ体をビクリとさせた。お怒りのネルを見るのは初めてなので、ちょっと驚いただけだ。すぐ慣れる。
「おー、おかえりー・・・で、それが選ばれしカピヴァラさんか」
「ええそうですよ、ぼっち耐性が強く、念話も使えますよ」
「ありがとう! 流石ネルだな! 有能!」
「感謝しているなら、きちんと進捗を報告しなさいコーマ」
「善処致します」
こうして、着々と準備が進められていった。




