正座で話を聞く
「まあいいや、このまま説明するからよーく聞いとけよ?」
ギルは素直に正座しつつ頷く。自分がどれだけの間寝ていたのかもわからないのだが、話を聞かないと何も始まらないのだから仕方ない。
コーマはギルが居なくなってからの事を要所を掻い摘んでギルに説明する。シュミカはあれからずっと結界を張り続けていること、ギルが居なくなってから暫くして、通信に障害が出た事、そしてそれを解決している間にアイリーンが直接襲われたこと。
シエルが犠牲になりかけて、3年眠っていた事、アイリーンはそのまま行方不明になり、シュウが以前管理していた星に記憶を奪われ強制的に転生させられた事・・・。
「んで、シエルが今その星に行ってる。記憶を取り戻す方法はまだ見つかってないから、何かの切欠で取り戻すか、説得してこっちに連れてきてからどうにかするかってとこだ」
「そうか・・・そんな事が・・・」
悔しそうに顔を歪ませて、言葉少なに呟く。眠りにつくことは罰としての事なので仕方ないとはいえ、アイリーンが犠牲になってしまうとは。やるせない気持ちでいっぱいだった。
「お前の上司だっけ、なんかノリのめっちゃ軽い奴が例の星まで転移するのと帰ってくるアイテムくれたんだよ、お前が眠りについてることも、例のアレも眠りについてることも教えてくれた」
意外だった、とでも言いたそうな顔でギルが目をぱちくりさせている。顔を合わせばふざけた事しかギルに言わないあいつが、コーマ達にそんな親切な事をするなんて、何か裏でもあるんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。
「あんましいい印象は持ってないけどさ、例のアレの暴走のお詫びっつってたし、まあ・・・俺らも藁にもすがる思いっつーかさ・・・」
出来る事はなんだってやってきたトリルの面々は、その一縷の望みに賭けたのだ。胡散臭い喋りの神からのお詫びの品とはいえ。
「で、だ」
コーマがいつになく真剣な表情でギルを見つめる。
「例のアレに消されたアイリーンの記憶は、戻す方法はあるのか?」
「あるには・・・あるけど」
何やら歯切れが悪いようだ。方法自体はあるようだが、ギルが言い淀む程度には難しい方法なのだろうか?
「あるけど、できないのか?」
「いや、出来ない事はないんだけど、この場にアイリーンが居ればできる。本人に直接触れないとできないんだ、あと、星と星との移動は禁じられている」
「バレないように・・・って無理か。神様相手だもんな」
下唇を噛み締めながら、悔しそうにギルは無言で頷いた。方法はあるのに、そこへ至るまでのところで躓いている。トリルの中での転生ならば、どうにでもできた事なのだ。
神の力をもってしても、記憶と言うのを完全に奪う事はできない。人生を終えて、魂の状態になったのならリセットは可能だが、それでも、前世を覚えていたりするのだから、記憶がどれだけ人の魂に刻まれているのかが伺える。
アイリーンは今は転生して人間となっているが、例のアレに襲われた時は神だ。神の記憶を消すなんてことは、どれほど力のある神でも不可能だ。アイリーンの現在は一時的に記憶が封印されている状態と言っていい。
「シエルが現地に行ってるけど、シエルにもその方法は行使できるのか?」
「可能だと思う・・・でも伝える手段がない」
「はぁああああ、やっぱそこか・・・」
「シュウの星の魔法文化がどれだけ発展してたかは分からないけど、その手の文献とかが残っていれば、ヒントくらいは得られるとは思う・・・でもあの星の人間が滅亡してから恐らくかなりの年月が経っていると思うんだ。朽ちた遺跡の中から見つけ出すのは相当困難だと思う・・・」
「例のアレが協力さえしてくれればな・・・有り得んが」
大きなため息だけが白い部屋にこだまする。結局は、シエル任せなのは変らないという事実。
「前にさ、例のアレが魔物飛ばしてきたろ」
ふと思い出したように、コーマが尋ねる。
「同じようにあっちの星に飛ばすとかは無理だぞ、魔物では力が強すぎてバレる」
「いや、魔物じゃなくて、人間ならどうだ? それか動物」
「人間はちょっと厳しいな・・・魔力持ってる存在は気配で見つかる可能性があるんだ」
「カピヴァラさんくらいの小さな魔力でも無理か?」
「なんでまた・・・個体の性能にもよるけど、デフォの状態なら多分大丈夫だと・・・」
「実はカピヴァラさんの中に、念話が使える個体が生まれてるんだ、それ使えないか?」
「飛ばしたところで、あちらでは生き残れないだろう・・・どこが安全かも分からないし」
「そこでだ。シュウに色々と話を聞いてさ、何百年か経っても残ってそうな施設とかあれば、もしかするとシエルと会えるかもしれないだろ?」
話だけ聞けば、突拍子もないし、成功する可能性は極めて低い。無駄なあがきかもしれないが、やってみる価値はあるように思えた。まずは、念話の使える個体をこちらに確保して、シュウに話を聞きに行こうという事になった。
ちなみに、話をしている間中ずっと正座したままだったギルは、立ち上がった瞬間にこけた。




