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話は纏まる訳もなく

 シエルから話を聞いた一同は、話が終わった後も言葉を発することが出来なかった。とてもじゃないが、信じられるようなものではなかったからだ。


 赤ん坊の頃から狼の群れで育ってきたアイリーン、それを見ているおじーちゃん狼とウィード。ウィードはこの話を聞くのは2度目だが、相変わらず突拍子もない話だとは思う。だが、アイリーンの出自は分からないし、魔法の使い方も魔物達とは違う。他の星では女神だったと聞いても、そうだったのかと思ってしまうほどには、そう思える要素がいくつか思い当たってしまう。


 「私が・・・女神なの? 本当に? 別の人じゃないの?」


 信じられないという風に、沈黙を破ったのはアイリーンだ。狼の群れで育ち、この森の外へも出た事のない自分がまさか他の星で女神をしていたなんて、荒唐無稽な話を信じられるわけもない。


 「現在は記憶を無くされている状態ですが、私が見た限りでは、アイリーン様のお持ちの力は・・・女神の物で間違いないと思います。このような話は信じろという方が無理なのは百も承知です」


 「アイリーンの魔法は確かに俺らとは質が違うってのは分かるぜ」


 「えっ!? そうなの?」


 「俺ら魔物というか、この星にいる魔物達はそれぞれ属性を持っててな。その属性の魔法しか使う事はできねえんだ、結界だって、風の結界だぞ。ここの森のは」


 「し、知らなかった・・・」


 「そりゃ教えてねーし。教えてもねえのにお前はほいほい思った通りに魔法を使いこなしてるだろ?」


 「使いこなしてるかは別として、確かに思った事を実行しようとして力は使ってる・・・気がする」


 「儂が見た遠い記憶の中の人間たちも、各自属性を持っていたように思ったのう」


 これは、アイリーンだけが知らなかった事。特に気にしてなかったので、知ろうともしていなかったともいうが。


 「それより、女神として崇められてたってほうが、俺には信じられんがな」


 「ぶー、どういう意味よ!」


 「そういうとこだよ!」


 夫婦漫才的なやりとりが始まると、すかさずシエルが間に入る。


 「この星へ来た際に、ラプールで各集落に置かれていたアイリーン様の像を模したものを作成いたしましたので、お見せします」


 そういうと、どこからともなく女神の木像が現れた。ドスン、と重たそうな音をだし、女神像は応接間の床に降り立った。シエルの渾身作だ。


 「これが、アイリーン様の転生前、女神として奉られていた像です。各集落には神殿があり、その最奥に鎮座しておられるものと、同じように作成いたしました。この星へ来てから幾つか作成した分は、今まで見つけた砦や城の跡地に既に設置済みです」


 「えっ・・・こ、これと同じものが幾つもあるの!?」


 「いやそこかよ? これが私? みたいな反応するとこじゃねえのかよ?」


 「ほぉぉ、これは中々麗しい像じゃのー、これはここの寝床の中央にでも飾っとくかの?」


 おじーちゃん狼は、にこにこと女神像を眺め、そのようなことを言い出していた。女神像は現在の人間として転生しているアイリーンと良く似ていた。この現物を見ながら作成しましたと言われても、何の疑いもなく信じてしまうほどに。


 見目麗しいだけではなく、その慈愛に満ちた表情。まさしく女神といった風体だった。


 「飾られるのならば、こちらは差し上げますよ。私はいくつでも作れますから」


 「そうだな、アイリーンがもし帰るってことになっても、これがあれば思い出す事もできるしな」


 「ちょ、ちょっとウィード! 私はまだ帰るだなんて言ってないんだけど!」


 「ん? 帰らないのか? この子もそうだが、ラプールだったかの大陸の全員がお前を待ってるんだろ?」


 「そ、そうだけど・・・私は・・・何も覚えてないの、その大陸の人達の事も、シエルさんの事も」


 傷つけるかもしれないと思い、チラっとシエルの方を見るが、シエルは優し気にアイリーンに向かって微笑んでいる。覚えていないのは、記憶を奪われたせいだというのは理解しているからだ。


 「記憶を取り戻す方法は、見つける事が出来ませんでした。私との出会いが刺激となり、思い出していただけたらと、淡い期待はしていましたが。すぐに記憶が甦るなんて都合のいい事は思っていません。あまり時間を掛けたくないというのは私達の都合です、アイリーン様がご納得頂けるまでこの星に留まる覚悟はしております」


 「あーまあ、記憶が消されてんなら、女神の仕事? もできねーかもな」


 「失われた記憶を呼び起こすといった魔法には流石に儂でも心当たりはないのう・・・」


 「ここの部屋みたいに、なんか人間が残した本とかに書かれてたりしねーのか?」


 「分からんが、既に数百年経っておるんじゃぞ。ここのような部屋が幾つ存在しておるかもわからんのじゃしなあ・・・」


 「ま、まだ私は帰るなんて言ってないじゃない! 勝手に話を進めないで!」


 「記憶さえ思い出せば、俺は帰るべきだと思うぞ。お前と一緒に居たい気持ちは無くはないが、お前を待っている人間が大勢いるんだ。俺は王としてそういうのは見過ごせん」


 「私は・・・王じゃないもん・・・!」


 そう言うと、アイリーンは部屋を飛び出していってしまった。

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