アイリーンとの再会
「アイリーンちゃん! お客さんがきてるって!」
いつものように、地下空間の部屋にあった本を読み漁っていると、狼達が大慌てで駆け込んできた。しかし、深刻な顔ではなく、満面の笑みを浮かべている。
「お、お客? ここって結界の外から他の種族が来れないようになってるんじゃなかった?」
「そうなんですけどね! 今王が一緒にこちらに向かっているんです!」
何の説明にもなってないが、そのお客とやらがこちらに向かっているという事だけは分かる。
「うーん、私ここの他に知り合いなんていないけどなぁ・・・」
首を傾げて色々今までの人生を思い返してみるも、特にこれというものに思い当たるわけもなく。人生の中に登場はしていないが、夢の中で見た、あの女の子がふと浮かんだが、あれは夢の中で出てきた人物であって、アイリーンのお客と言われると、これも違うような気もする。
「ま、まさか・・・ねえ?」
一度浮かんでしまうと、もうそれしかないような気になってくるのは不思議。そんな事を考えながらも、読んでいた本を元の場所へと戻し、地下空間から地上へと向かう。
アイリーンが地上へと出た時、丁度ウィードの姿が遠目に確認できた。何やら誰かと話をしながら歩いているようにも見えるが、ウィードの体に隠れて、その相手の姿は確認できない。
「んー? 誰かと話をしてる・・・?」
まあ、待っていればここにやってくるのだ、慌てる必要はない。やがて、ウィードはアイリーンの姿を確認すると、後ろに居るであろう客とやらに何かを伝えた。
そしてウィードの後ろから姿をちょこっと現したそれは、夢の中で見たあの女の子だったのだった。
「うそ・・・ほんとにあの夢の中で見た子だ・・・」
呆然と立ち尽くし、シエルを凝視しているアイリーンに、ウィードは告げる。
「なにぼーっとしてんだ? ほら、お前にお客だぞ」
「この星ではお初にお目にかかります、アイリーン様。私はシエルと申します」
シエル。その名前に聞き覚えはないのに、なぜか懐かしさを覚える。そのふわふわした髪の毛も、こちらを真っ直ぐに見据えるその瞳も、夢の中ではなく現実では初めて見るはずなのに。
なんでこんなにも懐かしくて、愛おしく思えるんだろう。
「あ、ええっと・・・初めまして、アイリーンです・・・」
しどろもどろになりながらも、挨拶を終えると、シエルと言ったその女の子は、静かに涙を流した。
「え!? えっと、どうしたの? どこか痛い?」
慌ててその子に駆け寄り、どこか怪我をしていないかと尋ねるが、こちらを見たまま首を横に振るだけだった。
「すみません、違うんです。嬉しくて・・・嬉しくても涙は流れるものなんですね」
ついこの間まで、涙を流した事すらなかったシエルは、悲しい時に流れる物だと理解していた涙を、アイリーンと会った嬉しさで流した事に、自分でも驚いていたのだ。
「嬉しいって・・・私、貴方と初めて会うのよね・・・?」
夢の中での事は、会った事にはならないので、初対面という事になる。なのに何故、シエルはアイリーンに会った事が嬉しいのかさっぱり理解できないといった様子だった。
「ええ、こちらでは初めてになります。詳しい話をしたいと思うのですが、長くなりますからどこか落ち着ける場所で・・・」
「んじゃアイリーンがいつも本読んでるとこでいいんじゃねえの? あそこなら座るやつもあるだろ」
すかさずフォローしてくれるウィードは結構空気の読める魔物だ。流石王。
「そ、そうね。案内するわ、ここの地下に部屋があるから、そこで話を聞くわね」
「分かりました。ではそちらで」
アイリーンは先程まで居た部屋にシエルを案内することになったが、後ろにぞろぞろと目をキラキラさせた狼達がついてくるのだ。流石にこの数の狼を部屋に入れるわけにもいかない。というか、入らない。
「お前らは待機! 話はあとで教えてやるから! 散れ散れ!」
ぶーぶー言いながらも、大人しくウィードの言う事には従う狼達。この場に残る狼は居なかった。後で教えてくれるんならいっかー! と楽観的な性格の者ばかりなので、素直に従うのだ。
「爺くらいは連れてくか。他の星の話なんて、聞きたいって言うだろうしな」
こうして、応接間には、アイリーン・シエル・ウィード・おじーちゃんの4名で向かう事になった。おじーちゃんは相変わらず寝ていたが、話を聞くことを伝えると、がばっと起きて「こんな面白い事聞かないわけはないじゃろ!」と、いつもの3割増しくらいで元気になっていた。
応接間に着くと、テーブルをはさんでソファが向かい合っているところで、シエルに座るよう促す。どうぞといえば、ありがとうございます。と返事が返ってくるのが、とても新鮮だった。ここに人間が来るのは初めてなのだ。
「ここには、書物が色々と置かれているのですね。私が見つけた砦にはこのような部屋はありませんでした」
「他にもこういうとこがあるんだ? そりゃそうか、人間は色んなとこにいたらしいもんねえ」
他愛のない話をし、この場に居る者全員が向かい合う。
「では、どこから話をしましょうか・・・」




