シエル、狼の王と対面する
※シエル視点です
とうとう母様のいる森の結界の手前までやってきてしまいました。結界の外から中を探る事は困難かと思われましたが、以前のネズミを使っての偵察を行い、問題なく完了しました。
どうやら母様は狼達に保護されているようですね。
ちらほらと狼達の姿は見られるのですが、母様はどうも外には出ていないような感じなんですよね・・・。もう少し奥まで探ろうかと思ったのですが、狼に見つかってしまい、ネズミは食べられてしまいました。病気とか大丈夫なんですかね、私が言うのもなんですけど。
ともあれ、一緒にいる魔物の種族は分かりました。
しかし、狼はそんなに強い種族でしたでしょうか・・・? 魔物にそこまで詳しくはないので、基準などはわかりませんが、動物型の魔物は大型でもなければそこまで強くなさそうな印象なんですよね。
群れの中に強い個体でもいるのでしょうか? ネズミ偵察で見た限りでは、普通の狼の魔物って感じでしたけどね。全容を見ていないので、まだまだ油断はできませんね。
さて、今日はもう時間も時間なのでこの地点にマーキングポイントを設置しておいて、また明日来ることにしましょう。いくつかのポイントを経由すれば、それほど多くの魔力を消費することはないでしょう。
いよいよ・・・明日。
魔力の回復を睡眠で得る事を想定して、帰りは直に帰ってみましょうかね。どのくらいの差が出るかも一応検証しておきましょう。何回か来ることを覚悟しておいた方が良いでしょうし。
1回で拠点へ帰ってくると、かなりの魔力が消費されたことがなんとなくわかりました。体の中からごっそり何かが抜け落ちた感覚。倦怠感にも似たような・・・。使徒として活動している時には感じられることの無かったものですね。
ここへ来てから、色んな感覚を得る事ができています。人間の体を知る事も、これからトリルを発展するにあたって大事なことなのだと思えます。
さて、一応空腹を満たしておいて、寝るとしましょう。
睡眠はバッチリとれました。起きてすぐ、母様の像へ祈りを捧げ、食事をとりました。ラプールの人間の様式をまねてみました。なるほど、一日の始まりを母様の祈り、というのは中々良いものですね。気分がすっきりしたような気持になります。
今日は昨日の魔力消費とどの程度差が出るかを検証しながら、今までに設置したマーキングポイントを経由して目的地へと移動します。
まずは一つ目、これはほとんど魔力を消費してないような感覚です。昨日の帰りの消費を100とすると5くらい・・・でしょうか。かなり消費が違うような感じですね。
次に二つ目に移動。こちらは先程よりも更に少なく感じますね。もしかして、回数を経るごとに消費が減っていくとかあるんですかね・・・。慣れ、と言ってしまえば簡単なのでしょうけど、熟練度と言い換えた方がいいでしょうか。
ここまできたら、最終地点までポイント経由しなくても大した消費ではなさそうなのですが、念には念を入れて、一応ポイント経由で行くとしましょう。
昨日のポイントまでやってきました。結界の外は静かなものですね・・・。中もまあ静かと言えば静かなんですけど。
ここまできたら、小細工はせずに中にいる狼達と接触してもいいのではないかと思います。母様がここに飛ばされてきて、ずっと一緒に居てくれる種族なのですから、きっと話の通じる種族なのではないかと思います。
覚悟を決めて、ゆっくりと結界へ近付いていきます。すると、結界の上空の方から視線を感じました。視線を感じた方向へ目を向けると、そこには宙に浮かんだ大きな狼がいました。
「おい、ここは狼の森だ。お前は何しに来たんだ?」
なんと、この狼空に浮くだけではなく、喋りました・・・! 驚きですね。昨日見た狼達とは毛色も違うようです。この群れのトップでしょうか?
「私は、惑星トリルからやってきました、女神の使徒シエルと申します。こちらにいる人間の方に会いに来ました」
ペコリと頭をさげ、相手の出方を見ます。こちらが丁寧な対応をしたことに驚いているのか、それとも、自分を恐れない事に対してびっくりしているのか不明ですが、何やら驚いた様子です。
「お、おう。別に悪さしようってんじゃないなら、結界の中に入る事を許可してやってもいいが・・・そもそも女神の使徒って一体何なんだ?」
「話せば長くなるので、私がそちらに向かうか、貴方がこちらにいらっしゃるかして欲しいのですが」
「長くなるんなら、俺がそちらに行こう。変な気は起こすんじゃねえぞ」
「大丈夫です、元々攻撃などするつもりは毛頭ありません、貴方がたと話をしにきたのですから」
私がそう言い終わると、大きな狼はふわりと、私の目の前に降り立ちました。近くで見ると、更に大きさが際立ちますね。
「俺は、この狼の森の王、ウィードという。まあ、フェンリルってやつだよ、他の狼の上位種だ」
「改めまして、私は惑星トリルのラプール大陸を守護する女神アイリーンの使徒、シエルと申します」
「は? め、女神アイリーン?」
なんでしょうか、そこに反応するのは分かるのですが、そこまで動揺されると反応に困ってしまいますね。




