なんだかんだで女神が好き
※シュウ視点です
女神の使徒シエルが旅立ってから、あれを教えておけば良かったとか、これも知らせておくべきだったかとか、もっと綿密に話し合ってから向かわせれば良かったとか、ぐるぐるしてる。
いかんいかん、今俺のやるべきことは、この町を、この星を発展させることじゃないか。女神の奪還はシエルに任せたんだ、後は祈るだけしかできないよな。ここで俺が気を揉んでても何かが変わる訳じゃない。
女神が居なくなって割とすぐに、この大陸で乗り物が誕生した。当然俺もそれに関わっている。神様やってた頃は、下界の人間に丸投げしてたからなー。異世界転生もののお約束を盛り込んだ星づくりだったけど、発展はそれなりにしたんだよな。
だから、この星で乗り物を作る事に携わった時、考える事、試す事って大事なんだなって再認識したっていうか・・・。
地球の発展の経緯を見ても分かる事だったのにな。
今は自分がその発展の歯車の一つになっているのが、嬉しく感じる。設計図を書いておしまいってものじゃないし、色んな職業の人達が関わってくる。優劣を語るべきところではない。
以前の俺には見えてなかった、人の関りがここでは良く分かる。
設計書を書けば、それを何人かで見て、技術者と相談する。必要な材料を集めるのに、材料を集める人とかかわる。材料を集めれば今度はそれを加工する人と関わる。
かかわった人全てに家族が居て、その家族がその人を支え、その人が家族を支えている。
試作品が出来れば、試す人が必要になる。試してどこが悪いかをまた相談するの繰り返しだ。この繰り返しを続けていくと、副産物も出来たりするんだよな。これがもの作りの楽しい所だと思う。
工夫して、より良い結果を出す事で、次にまた向かう事ができる。
最終的には自動車を目指したいところだけど、この大陸には動力資源がないんだよな。うちの星だと魔物から取れる魔石で色々動かしてたっけか。
ここだと強い魔物もいないし、そもそも武器がないから狩るとかそういうのしないんだよな。
今のところは、動物に曳かせる乗り物の初期型を各地に広める方に注力した方が良さそうだ。女神が居れば、神託やらなんやらで伝える事もできたんだろうが、無い物ねだりだな。
この乗り物を使って、各地を回り、この町を宣伝して回ろう。乗り物に興味を示せば、この町に来て作り方を学べばいい。乗り物には、この町で作られた色んな錬金術でできた物を載せて行き、物自体も広めればいいな。
その過程で道路も整備すればいい。
今、その計画はじわりじわりと進んでいる。実際に行く実行部隊に俺も入っているから、来年の春にはしばらくこの町を空ける事になるな。妹と離れるのがちょっと、いやかなり寂しいだけで、やる事自体には思うところはない。
いっぺんに広めるのは技術が追い付かないから、何から広めるかを今話し合ってるところなんだよな。結構これが悩ましいというかなんというか。
とりあえず、現在のアルケミスタの地図は出来上がった。シエルにあげた地図を書いてて思いついたんだ。町の地図を作って、他の町へ町の地図を作る事を勧める事を。
町の地図からその地域の地図へと変わり、果てはこの大陸の地図を作る事も俺の夢の一つになった。
いつかは妹を連れて、色んな町へと旅をしたいなとか。両親にも、色んな地域の食べ物を食べさせてやりたいだとか。以前ならささやかな楽しみだったんだろうけど、今の俺には人生をかけた夢みたいになってる。これが結構心地いいんだ。
ま、今は伝導の為の人選と、伝える物や技術をしっかり選んでいかないとなあ。農業も、結構進んできたし、魔法も割と増えてるはずだ。一応記録はつけてるけど、全部教えるとなるとちょっとな・・・ってくらいの量にはなってる。帰ってきたときに女神がびっくりするかもな?
農業部門は、従来の農作から一歩進んだ農法を伝える事が決定している。農業は結構気長にやるものだから、段階を踏まないと一足飛びでは失敗する可能性があるんだよな。素人がいきなりプロの技を扱えることはないからな。会議で色々聞いたけど、結構奥が深くて難しいよな、農業は。
魔法は相変わらず平和な魔法ばっかりなんだよなぁ・・・驚くほど平和なんだよ。マジで攻撃魔法がないんだ。誰かを傷つけようとする人間がいないんだなっていうのが良く分かる。魔法に関しては、罠魔法を広めようかっていう話は出てる。
食肉を得るためのは勿論だけど、一番は魔物対策だよな。動きを止めて避難する。逃げて生き残るのが大事だということは、この大陸の人間ならきっと理解してくれるはずだ。
女神は、この星に住む者達が理不尽に襲われたり傷つけられたりするのを嫌うからな。
大体、なんでも女神基準なんだよ。女神様がこれをしたら喜ぶのではないかとか、これは悲しむのではないかとか。ご機嫌取りで言ってるんじゃなくて、女神の愛するこの大陸の為により良い結果を残そうとしているだけなんだよな。
俺も、女神の喜ぶ顔は見たいと思うよ。




