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アイリーン、人間の遺跡を見つける

 「ふわぁ・・・」


 「どうした? でけー欠伸なんかして」


 誰も見てないと思って、大きな口を開けて欠伸をしていると、ウィードがニヤニヤ笑みを浮かべながらこちらへやってきた。しっかり見られていたらしい。


 「別に、ちょっと変な夢見たっぽいだけだもん」


 恥ずかしさを隠したくて、ウィードからプイッと顔を逸らすが、きっちり返答はする律儀なアイリーンであった。

 昨夜、綺麗な人間の女の子がこちらをじっと見つめているだけの夢を見た。特に会話をしたわけでもないし、自分以外の人間は初めて見るのに、なぜか懐かしさを感じた。


 「ふぅん、まあいいけどよ。あんまし眠かったらひと眠りしとけ、寝ぼけたままじゃその辺ですっ転んだりしそうだ」


 「転びはしないと思うけど、ま、眠かったら寝るわ」


 ウィードの中ではアイリーンはまだ子供だ。姿かたちは成人女性のものなのだが、人間を見た事がないウィードにとって、赤ん坊からちょっと成長しただけのように感じているので、何時まで経っても子供扱いなのである。

 可愛いとも思うし、赤ん坊から皆で育てたため、愛おしいとも思う。大事にしたい気持ちは大いにあるが、今のままでいいのだろうかという疑問も感じてはいた。


 アイリーンは狼ではない、変化でフェンリルの姿になる事はできるが、本物ではない。群れの狼達はそれでもアイリーンを嫁に貰えばいいと言うが、果たしてそれがアイリーンの幸せに繋がるのかと考えると・・・答えは出ない。


 「なに考え込んでるの?」


 「いや・・・なんでもねえよ」


 素っ気ない返答ではあるが、声色は優しいものだ。アイリーンは自分には関係のない事で悩んでいると思っているが、ばっちりアイリーン関係で悩んでいる。


 「ラブの波動を感じる」


 「王にも春が訪れる」


 「フェンリルになったアイリーンちゃんは可愛い」


 悩みを知らぬ狼達は、好き勝手に言う。


 アイリーンは赤ん坊の頃からこの群れで育ったため、群れの狼達からは皆の娘のように思われている。狼達はアイリーンがウィードのつがいになる事に忌避感は感じていない、寧ろはよくっつけと思われている。アイリーンもウィードの事は父親のようにも思っているし、兄のようにも思っている。恋人という単語はこの集落には存在していないので思った事は無いが、つがいになってもいいとは思っているのだ。


 ずっと一緒に居る事を疑問に思った事は無い。


 「そういえばウィード、この前行った場所になんだか変な岩? みたいなのがあったんだけど」


 「あー・・・それはめちゃくちゃ昔の・・・なんだっけな、人間の住んでた砦だったか? なんかそんなもんの跡地だな。それがどうかしたか?」


 「うーん、なんか・・・あの下に何かがありそうな感じがするのよ」


 「あの下? まあ、人間が住んでた頃の話は俺は知らないからな、気になるんなら掘ってみたらどうだ?」


 「いいの?」


 「掘るくらいならいいだろ」


 「じゃあ、ちょっと行ってくる!」


 「はいはい、気をつけてな」


 (((そこは一緒に行ってあげるんじゃないの?)))


 狼達の心の声は二人に届く事は無かった。


 そんな事は知らぬアイリーンは、早速人間が居たという跡地の場所へ向かう事にした。以前、狼達と散歩をしていた時に変な形の岩があるなーと話をしていたのだが、どうにもそこが気になっていたのだ。そこには、何かがありそうな気がする。でも無断で地面に穴をあけたりしたら、叱られるかもしれないと。


 ウィードの許可を得たので、喜び勇んでその場所へ向かう。ここからは然程遠くはない。森の中でも比較的若い木が多く生えているその場所。


 「なんでか分からないけど・・・気になるのよね」


 もしかしたら、人間の残した何かが見つかるかもしれない。一体ここに住んでいた人間はどんな生活をしていたのだろう。動物の毛皮を纏い、超原始的な生活をしているアイリーンには想像もつかなかった。


 目的の場所へ到着すると、早速気になっている箇所へと向かった。本人は魔法だと思っている神の力を使い、その場所を調べてみる。


 「やっぱり、地面の下に空間があるみたいだわ」


 シエルが見つけたセントールの砦と同じようにここにも地下空間が存在していた。周りに影響のない程度に地面に穴をあけると、薄暗い石造りの廊下が続いているのが見えた。


 「うわぁ、暗いなあ・・・明るくなる魔法使わないと、転んじゃいそう」


 息をする様に灯りの魔法を使う。廊下は奥に続いていて、左右に扉がある。


 「壁が所々変なとこがあるわね、なんだろう?」


 建造物を見た事のないアイリーンには、扉が理解できなかった。壁の色違い? 素材違い? くらいの感じでしか見れていなかったので、普通に素通りして奥へ奥へと歩いていく。


 「特に何もなかったら、変な壁を調べてみようかな」


 突き当りまで行くと、一層変な模様の壁が現れる。そこは他の扉とは違い、装飾が施されていた。


 「うわあ、なんだか派手な壁ね・・・」


 そう言いながら、恐る恐る装飾のついた壁(扉)を触ると、特に力も込めていないのに、扉が観音開きに開いたのだった。


 「わわっ、壊しちゃった!?」


 いや、扉が開いただけだ。

あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします

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