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にんげんのからだ

※シエル視点です


 お腹が空いたという事は、食物を摂取しなくてはいけないということ。摂取を怠れば、能力の低下を招くことになるでしょう。

 ですが、ここで重大な事に気付いてしまいました・・・。私は、私は料理という物をしたことがないのです。見た事は当然あるのですけど、自分で食材を選び、調理するという事をしたことがありません。

 シュミカ様の所へ行くと、よくご馳走してくれたのですが、それも出来上がった物を頂いただけなので、調理の過程を見ていないのです。


 火を扱う・・・ということは分かっています。ラプールの民の生活を見守っていたのですから。


 幸い・・・と言っていいのでしょうか、ここには保存食も十分に備蓄されていますので、移動の際に口にするものには困りませんが、流石にそればかり食べるわけにもいきません。栄養が偏るのは良くないって母様も言っていました。


 栄養学にはあまり詳しくはないのですが、とりあえずここにある物で組合せを考えておきましょう。果物と野菜、それに穀物類。あとはお肉や魚などですね。


 今現在の空腹を満たすのには果物を食べておきましょう。これなら調理せずとも摂取できるはず。


 りんごを手に取ってみましたが、ふわりといい香りが鼻をくすぐりますね。それにつられて私のお腹も再びくうぅと鳴りました。なるほど、食物の匂いからの情報で体が反応を示すわけですか。中々興味深いですね。


 状態保存されているので、ほこりなどはかぶっていませんが、一応布で拭いてから食べてみましょう。


 かぷり


 シャキシャキと心地よい音を立てながら咀嚼していると、リンゴの爽やかな香りが口の中に充満し、砕けた欠片から液体が溢れ出してきて喉を潤します。


 「これが・・・美味しいという感情ですか」


 母様やシュミカ様達と食事を共にすることはあっても、味を感じる事はあっても、美味しいと思ったことはありませんでした。

 ですが、今この瞬間、私は美味しいと思えたのです。これが、人間としての反応なのでしょうか? 貴重な体験です。


 リンゴを丸々一つ食べ終わると、芯の部分が残ります。ここは食べるところではないようなので、ゴミの処理を考えなければいけません。この砦の周囲は森に囲まれているので、周囲のどこかに穴を掘って、食事で出たゴミを捨てる事にしましょう。


 ゴミの処理をしたら、次は寝床を決めましょう。最初の倉庫の隅の方に毛布を敷いて、そこで寝る事にしましょう。ベッドなどは朽ち果てていて存在しませんし、こればかりはしょうがないですね。毛布は備蓄倉庫に沢山ありましたから、何枚か拝借しておきましょう。


 睡眠は、とった事があります。ですが、目を閉じているだけで、意識がなくなるようなことはありませんでした。使徒の体は疲れを知らず、休むことが必要でなかった為、睡眠を必要としていませんでした。

 母様は、人間の感覚を忘れないために、睡眠をとるようにしていると仰ってましたが、私は人間としての記憶自体がないため、それがどうにも理解できませんでした。


 今、上下を毛布に包まれていると、ふわふわとした感じがとても心地よく感じられます。これが眠いという感覚なのでしょうか・・・?

 ラプールの人間たちも夜になると、ベッドに入って眠っていました。私は今、その体験をするのですね。明日は、この拠点からどの方角へ捜索するべきでしょうか・・・魔物の分布図も作らなければ・・・やる事が山積みです・・・ね。



 母様・・・母様・・・早く・・・早く貴方に会いたい・・・。



 ああ、これは・・・これが夢というものですか。先程眠りについたような気がしていたのですが、私はどこかの森の中にいるようです。体がフワフワと浮かんでいるような感覚で、とても不思議です。


 ラプールの人間に夢で神託を下すと仰っていたのは、こういう風に眠りについた状態で神託を見る事なのですね。夢も見た事がなかったので、とても新鮮です。


 今いるセントールの砦の周辺の森の雰囲気とは、少し違った雰囲気の森ですね・・・。ここはどこなのでしょうか?


 歩いていても、地面を踏む感覚はありません、なるほど、夢とはこういう感じなんですね。


 そのまま、誘われるように森を歩いていくと、チラホラ狼の姿を目にするようになってきました。狼に私は見えていないようで、眠って居たり、小さな狼同士で遊んでいたり、何か会話をしているようにも見えたりします。

 なるほど、ここは狼の森なんですね。ああ、これは夢なのでシュウの地図がありません。これでは確認ができませんね・・・夢は不便です・・・。


 そんな事を考えながらも、歩みを進めて行くと、今度は少し開けた場所にでました。沢山の狼がいます。集会場のようなものなのでしょうか? 中心部分に、大きな狼がいます・・・この狼達の長みたいなものでしょうか。毛並みが随分と違って見えます。


 その大きな狼の隣に、少し小さめの狼が寄り添っています・・・なんでしょうか。微笑ましいこの光景、なのに・・・寂しい。そう、感じてしまいました・・・。



 そのまま意識は途切れ、現実世界に私は舞い戻ってきました。目を開くと、なにやら視界がぼやけています。顔に何か冷たい物が流れたようで、空気にその流れた跡が触れるとひやりとします。


 「これは・・・涙・・・?」

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