奪還のための準備
逸る気持ちを抑えつつも、目的を遂行するためにはまず情報収集からだ。シエルはそう思いつつも、急ぎでシュウの元へ向かった。
「シュウ、母様・・・いえ、アイリーン様の元へ行く方法が見つかりました!」
いつもなら、落ち着いた声で話しかけているのだが、気持ちが全面に出てしまったのか、ついつい大きな声で呼びかけてしまった。
「うおっ! びっくりした・・・で、マジかよ」
いきなりの訪問にも驚いたが、あのシエルが大きな声を出している事に一番驚いたのは言わないでおこうと思ったシュウだったが、その言葉の内容にも驚かされていた。
別の星へと行く方法が見つかったというのだ。
シエルは、まず、方法が見つかった経緯を説明し、そこへ行くにあたって、元その星の担当であったシュウに星の情報を教えて欲しいと伝えた。
「その上司の上司の言ってることが正しければ、あいつは今眠ってるのか・・・ま、それはいいや。でも情報って言っても、俺は人間が滅亡するまでの情報しか持ってないからなあ・・・。こっちとあっちでは時間の流れも違うだろうから、それから何年経過してるかまでは把握してない。それでもいいのか?」
シュウは人類が滅亡し、魔物だけの星になった時点で、ゲームからは脱落している。その時点での情報は今でも一応覚えてはいるが、その後放置されていたであろう魔物の星は、現在どうなっているか想像もつかない。
シュウが転生して、下界の時間で十数年。あちらの星での時間の流れとか考えた事もなかったので、まさか数百年も経過しているなどとは知る由もない。
「ええ、その時点の情報で構いません。何もないよりは断然良いと思います」
「そうだな、一応の魔物の分布図を簡易的な地図に描くから、ちょっと待っててな」
シエルは了承し、地図と分布図が出来上がるのを大人しく眺めながら待つことにした。シュウは今でも地図が書ける程度には覚えていた。紙にペンを走らせ、出来るだけ分かりやすいようにさらさらと描いていく。
この男、意外と絵心があるのかもしれない。
「魔物だけになって、きっと弱肉強食の世界になってるだろうから、恐らく弱い魔物は絶滅してそうだな・・・。そういや夜叉鵺は元俺の星から来たんだっけか。・・・となると、種族同士で交わった事があるのかもしれないな」
考察を交えながら、注意書きもしておく。結構マメである。
独り言のような考察を聞きながら、ふむふむと頷きながら、シエルはその作業を眺めていた。
「よし、とりあえずはこんなもんだろ。ここから何年経ってるかで事情は大分違ってそうっていうのは頭に入れておいてくれ。何せ人間の居ない世界だ、どうなってるか想像も付かん」
「分かりました。肝に銘じておきます」
出来上がった簡易地図を受け取り、深々とお辞儀をする。
「そんな畏まらなくてもいいって、俺も女神に救われたんだから・・・色んな意味で」
アイリーンが創ったこのラプールのおかげで、愛する者達が出来た。それによって、自分の人生が充実している。それも恩だとシュウは思っている。
「それはそうと、もし記憶がないとして、取り戻す方法はあるのか?」
「いえ、それはまだ・・・ですが、魂に刻まれた記憶をそう簡単に消せるものなのですか?」
「それは分からないが・・・完全に消すのは無理だろうな。普通の人間ならまだしも、一応は神格を持っている存在なんだしな」
「では、記憶を呼び起こす手助けができる様な魔法を考えておきます」
「精神に干渉する系統は、気を付けて使うんだぞ? ああいうのは、脳に負担がかかるもんだっていうのが定番だからな。相手が落ち着いている事、了承を得る事。そのあたりを気を付けた方が多分良いと思う」
地球で生きている頃、小説やゲームなどで見聞きした情報を元にしているので、あてにならない情報なのかもしれないが。
それでも、慎重にやる事に越した事は無い。何事も安全第一なのだ。シュウは自分で魔法をかなりの数開発している。その際、周りに与える影響などをちゃんと考えて、慎重に開発するのだ。
「まあ、言わなくても分かってるとは思うけど、一応な一応」
「ありがとうございます、貴方は優しいのですね」
「前はそうでもなかったけどな、俺が今こんな感じになったのもこのラプールの生活のおかげだ。多少でも恩返しができればと・・・だから、女神を頼む・・・!」
シエルをまっすぐに見据え、真剣な眼差しで女神の事を託す。今頼れるのは、目の前の小さな少女しかいないのだ。
「勿論です、全力を尽くします。必ず・・・必ず母様をこの星へ連れ帰ります」
たとえ記憶を失っていようとも、きっと取り戻してみせる。静かなる決意を胸に、シエルはシュウの元から天界へと帰っていった。
「しかし・・・なんでまたあの星に転生させたんだろうな・・・単純に嫌がらせだけなのか? それとも他に意図があったのか・・・? 罰を受ける事になるなんて思わなかったってこともないよな。あいつとはそこまで仲良くしてたわけじゃねえし、さっぱりわからん。人間が滅亡した時も、舌打ちしただけだったしな・・・」
誰も居なくなった部屋で、シュウは首を傾げて例のアレの行為について考えるのだった。




