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シエルの帰還

※シュウ視点です


 女神が消えた。そう聞いてから3年が経った。すぐ後に生まれた俺の妹がもしや、とは思ったがそんな事は無かった。あいつがそんな優しい真似するわけないな、俺も随分とここに毒されて考えが甘くなっていたようだ。

 女神がいなくなったことは、ここの人達は知らない。知りようがないからな。


 妹は3歳になり、可愛い盛りだ。誕生日には魔法を貰いに神殿に行ってきた、家族全員で行き、初魔法のお祝いをした。

 妹はとても可愛い。地球に居た頃は弟しかいなかったから、余計に可愛く思えるのかもしれない。女神がいたら、きっとかわいいかわいいってはしゃぐんじゃないか? 使徒の子もかなり可愛かったし。そういえば、その使徒の子も居なくなったみたいだ。


 あれから、あいつがちょっかいを掛けてくる事は無くなったらしい。ここは当然何もないが、他の大陸にも掛けてきてないって、わざわざ下界用の器を用意したロクスト大陸の担当がそう言ってた。


 ラプールのここ3年の間に生まれた子を集落一つずつ回って確認してるらしいけど、一向に見つからないとのことだ。

 俺も行ける範囲内では探したが、手がかりになるような情報すら見つからなかった。


 あいつが女神に直接手を出したとして、素直にここの大陸に転生なんてさせるだろうか・・・?


 ふと考える。


 あいつの性格の悪さは、ここの星の担当の誰よりも俺が良く分かっている。なんせ元上司だ。いくら記憶を消したとしても、ここの星のどこかに転生させるだろうか? システムを上手く使えばすぐに見つかりそうなもんだと思うし・・・。



 「まさか・・・な」


 俺を自分の担当ではないこの星に転生させたことが、脳裏に浮かんだ。それって逆もあるんじゃないのか? 俺を別の星に転生させたように、女神も・・・。

 だとしたら、ここで探していても絶対に見つからないよな。あいつは、友達とかいないタイプだし、知り合いの星に転生とかはほぼないだろう。そんなことしたら、その星の奴に文句でも言われそうなもんだ。


 まさか、そんな、ありえない? 今の自分の考えは憶測でしかない。


 これは・・・天界に言うべきだろうか。下界の一市民が考えた憶測を・・・話すべきなんだろうか。


 他の星の、自分の部下でもない神を強制的に転生させるなんて、きっとルール違反だろう。俺の場合は用済みだったからお目こぼしして貰えたんだろうが、今回の件についてはダメだろう。


 そういえば、この星の神の上司も戻ってきてないって話だったよな。


 「一体どうなってるっていうんだよ・・・わけわかんねえぞ」


 「シュウ・・・」


 不意に背後から声がする。聞き覚えのあるような気がした声の方へ振り返ると、そこには女神の使徒がいた。確か・・・シエル・・・だったか?


 「どうしてここに・・・? 居なくなったんじゃなかったのか? 女神は、女神は一緒じゃないのか?」


 「母様・・・母様はどこにいるのですか・・・」


 「その様子じゃ、女神は一緒じゃないんだな・・・」


 シエルから、居なくなった時何があったのかを聞いた。シエルはあいつに殺されそうになって、命からがら下界に逃れたらしい。だから、女神が何をされたかまではわからないと。

 そして、女神が3年も行方知れずになっているという事を告げると、酷く傷ついた顔をしていた。使徒である自分が盾になって死ぬべきだったと。涙を流しながら、絞り出すようにそう言った。


 「女神は、自分の盾になって使徒が死ねば、きっと泣くぞ」


 「そう・・・ですね。母様は・・・優しいからっ・・・うっ・・・くっ・・・」


 ポロポロと涙を流しながら、母を思うその姿は、見た目の年相応の女の子にしか見えなかった。いつも無表情で、女神にしかその笑顔を向けなかったその存在が、酷く小さなものに見えた。


 「シエル、君と女神が居なくなってから3年の間、コーマさんやシュミカさんも必死に探して回ってる。けど、なんの手がかりも得られていないんだ。・・・ちょっと俺の考えを聞いてくれないか? そのうえで、コーマさん達にそれを告げるべきかどうか君の意見を聞かせて欲しい」


 ゆっくりと、子供に言い聞かせるようにシエルに告げると、シエルはぐいっと涙を拭き、コクリと頷いた。

 俺はさっき考えた、別の星に転生させられている可能性をシエルに話した。


 「それは・・・話すべきと考えます」


 「あー、それで、コーマさんと連絡を取りたいんだが・・・天界に行く力なんかは消えてないか?」


 女神が転生させられたということは、今シエルは使徒としての力が使えなくなっているのではないかという懸念。

 ヘタすると、あちらからのコンタクトがあるまで、シエルをここで匿わなければならなくなる。


 「ここへ来るのに、普通に力は行使できていたので、恐らく大丈夫かと思います。ですが、少し不安ですので、試しに天界に行ってみます」


 「ああ、そうしてくれ」


 一つ息を吐き、こちらを見て頷くと、シエルは静かに目を閉じた。その瞬間、シエルの体が光になってふわりと浮かんでいった。


 「大丈夫・・・みたいだな」


 女神の力が残っていたのか、それとも不在の間も使徒の機能は失われないということなのか、俺には判断できないが、今はただ、成功を祈るしかなかった。

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