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新たな生

 鬱蒼と茂る木々の中、赤ん坊の声が木霊する。赤ん坊の周りには、沢山の目が光っている。


 光り輝く沢山の目は、全て赤ん坊に向けられており、少し困惑すらしているようだった。


 「なあ、これは一体何なんだ?」


 「毛がほとんど生えてないぞ」


 「大昔にいたゴブリンとかいうやつか?」


 「いや、婆さんの話だとゴブリンは緑色をしていたらしいぞ」


 「じゃあこれは一体なんだ?」


 「俺が知るかよ、でもずっと泣いてるぞ」


 口々に思い思いの事を言う。毛むくじゃらの者達は、この森の主だ。彼らは群れを成し、王を擁き、自由に暮らしている。

 彼らは人間ではない。この森に人間は存在しない、彼らも人間を見た事がない。


 「なんだなんだ? 凄い声だな」


 「王! なんだか良く分かりませんが、赤ん坊らしいですよ!」


 「赤ん坊・・・?」


 王と呼ばれた者がその場に現れる。そして未だ大声で泣き叫んでいる赤ん坊の傍へと歩み寄る。


 「これは・・・」


 王の次の言葉を待つ他の者達は、ごくりと唾をのんだ。


 「わからんが、可愛いな! あとメスだな! 臭いで分かる」


 泣いている赤ん坊に顔を近づけると、赤ん坊はその顔を見て、ピタリと泣くのを止めた。


 「お? 泣き止んだぞ? なんだ? 俺の事が好きなのか?」


 「おぉ・・・流石は我らが王だ! 赤ん坊を泣き止ませたぞ!」


 「いやそれは王とか関係ないんじゃ・・・」


 赤ん坊の涙の跡をぺろりと舐め取り、頬に口づけをすると、王は宣言する。


 「よし、この赤ん坊は俺達で育てよう」


 キラリ。王の緑色の目が光ると、ふわりと赤ん坊は宙に浮かんだ。そして、そのまま王と毛むくじゃらの群れは自分達の巣へと帰っていった。赤ん坊を連れて。



 巣へ帰ると、王は群れで一番の長寿の個体の元へ赤ん坊を見せに行った。ふわふわと宙に浮かんだままの赤ん坊は、今はすやすやと寝息を立てて寝ている。


 「おや、久しく見ていなかった人間じゃないか」


 「人間・・・? そんなもの俺が生まれてから見た事もないぞ?」


 「そりゃそうだ、儂がまだ若い頃に一匹も居なくなったんじゃからな」


 「へえ、じゃあ500年くらいは前の話か?」


 「いいや、700年くらいじゃな」


 「ふーん、そんな大昔に滅んだやつがなんで今ここにいるんだ?」


 「そんなこと儂が知る訳ないじゃろが。この星は人間が居なくなって久しい、新たに生まれる事はないはずじゃがなあ」


 「だよな、生まれるってことは親がいるはずだしな」


 「その赤子が居た場所には他の臭いはあったかえ?」


 「いいや、こいつだけだ」


 「なら、神の仕業じゃないのかのう? 何もないとこから生命を生み出すなぞ、神以外にできることではなかろう」


 「まあ、神の仕業だろうが何だろうがいいや。こいつは俺らが育てる、別にいいよな?」


 「いいんじゃないかのう?」


 軽いノリで決められてしまった赤ん坊の進退。だがそこにツッコミは存在しない。ここに人間はいないのだから。


 この森は、この王と群れしか存在しない。ここは狼の森。


 毛むくじゃら達は狼の魔物だった。群れの大半は灰色の毛並みに茶色の瞳。王は銀色の毛並みに緑色の瞳。人間が居た頃は、彼らの事をフェンリルとグレイウルフと呼んでいたと言われている。


 赤ん坊はグレイウルフの乳を飲み、群れの全てから可愛がられるようになった。


 フェンリルはその名をウィードと言い、赤子の名前を「アイリーン」と名付けた。


 「なんか、これ! って浮かんだ」


 とのことで。


 赤ん坊は皆に世話を焼かれ、愛情を受けすくすくと育った。最初は四本足で歩いていた赤子も、しばらくすれば二本の足で立ち、群れを驚かせた。

 頭のてっぺんにふさりと生えた毛は伸び、今では腰までになり、美しい毛並みだと群れを喜ばせた。


 ウィードはアイリーンに魔法を教え、長寿の狼はこの星の事を教えた。


 「ここには、わたしみたいなのはいないの?」


 「ああ、そうじゃ。とうの昔に居なくなったんじゃ」


 「ふうん、へんなの~」


 「そうじゃなぁ~、へんなの~じゃ」


 アイリーンは森を駆け回り、狼の子達ともよく遊んだ。種族が違う事でのいじめなどということもなく、平穏に幼少期を終えようとしていた。


 「今日はウィードはいないの?」


 「ああ、王は縄張りの結界を見に行ってる」


 「そっかー、じゃあ魔法のお勉強はまた明日だねえ」


 「じゃあ今日は俺達と泉に行こう!」


 「うん! そうしよう!」


 狼の森はフェンリルのウィードによる結界で守られていた。人間がこの星から居なくなってから、魔物達は弱肉強食を繰り返し、弱いものは淘汰されていった。星全体でみると、魔物達の数はさほど多くない。爆発的に数が増える事もなく、現在は小康状態になっている。

 ある程度種族の数を減らし、お互いの縄張りが決まったのだ。種族の王達は各自で縄張りに結界を張り、他の種族との関りを絶った。


 以前、種が混じり過ぎて生まれた禍々しい魔物が大暴れしたから。突然消滅してしまったが。


 そう、ここはシュウが神として管理していた星。アイリーンが強制的に記憶を奪われ転生させられたのはシュウの管理から外れた魔物のみが存在する星だったのだった。

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