コーマ、初めての下界
シュミカがウレインに旅立って、暫く経った。すぐに会いに行くのはちょっと恥ずかしいので、そろそろいいかな? いいかな? とチラチラ気にしながら毎日を過ごしている。
報告会でもコーマとギルと私とシエルしかいないのは、ちょっと物足りないんだよ。やっぱ、ずっと一緒だったからね・・・。
「シュミカの様子はどう?」
この質問も日課みたいなもんだ。ギルは一応毎日様子を見に行っているようで、と言ってもこちらの毎日はあちらの数日おきといったところなのだけど。
「畑が拡張されてた。昨日見に行った時は、根菜類が植え終わったから次葉物類が欲しいんだってさ。」
農業生活をエンジョイしているようで何よりだ。最初に作ったのがトマトとか胡瓜とかだったよね。中々の欲張り畑になっているようだ。そのうちお米でも作り始めそうで怖いわ。
「何しに行ったのか、若干忘れそうになるわね・・・。ま、元気そうで良かった。そろそろ会いに行ってみようかな。」
「母様は、このところいつもシュミカ様の事を気にかけておられますからね、お供しますよ。」
外から見ても分かるほどだったのか・・・、なんかちょっと恥ずかしいわ。でも、一回見に行って、私の頭もリフレッシュした方が、ラプールの事に集中できていいかもしれない。気になってることがあると、手に付かないものね。
「よし、じゃあ今から行くとしますかね。ギルの予定は大丈夫かしら?」
「僕の方は平気、というか、元々この後行く予定だったから別に構わないよ。」
「コーマはどうする? まだ一度も下界に行ったことなかったわよね?」
「そうだな、いつも仲間外れにされてたからな・・・。」
コーマが遠い目をしている、だってしょうがないじゃない。温泉に男を連れて行くわけにはいかないわよ、ギルは神様だからノーカンだしね?
「じゃあ下界バージンは今回消失するわけね。」
「嫌な言い方すんなよ! 初めてだから優しくしてね!」
「乗るんじゃん。というわけで、今回はコーマもよろしくね。」
「はいはい、もし何かあれば、僕の方で分かるから、ここが不在になっても大丈夫だよ。」
ちょっと気になってた事だったけど、大丈夫なようだ。さすがギルだね!
姿は・・・このままでいいかな? 温泉の時もそのまま行ったし平気だよね。ギルは最近例の美少年人形を使ってるけど、コーマはどうするんだろ?
「コーマは入れ物の姿でいく? それともそのままでいく?」
「一度入れ物も体験してみたいところだが、初めての下界でいきなりっていうのはちょっとな・・・。」
わかる、わかるよそれは・・・。初めてのステージって使い慣れたキャラでいきたいよね。初ステージを初キャラで行くの怖いもんね。ゲームやってた者として物凄くわかるよ・・・。
「なんか心の中で理解された気がする。ま、ご想像通りだよ!」
私ってそんなにわかりやすいの? ギルは兎も角シュミカやコーマにも大体心の中がバレている気がするわ。それなりに付き合い長いから、そんなもんかもしれないけども!
「お待たせ、そのままでいいんだね、二人とも。」
「うん、初めてだから優しくしてあげてね、コーマのお願いらしいから。」
「気味の悪い事言わないでくれる・・・? うっかり手元が狂ったらどうするの。」
「お前らひどすぎない?」
それはさておいて、シュミカの元へゴーですよ。下界の時間で1か月くらいは経ってると思うから、あちらからすれば結構久しぶりに感じるはずだ。
相変わらず一瞬で視界が変わる。目の前にはどでかい樹が、これが世界樹ってやつですか。シュミカの大陸は相変わらずファンタジーだねえ、自然派ファンタジー。精霊やら妖精やらもいっぱいいるしね。
「おぉ・・・ここがウレインなのか。目に優しい場所だな。」
「もうちょっとマシな感想なかったの・・・。」
「俺に語彙力を求めるんじゃない、食レポも無理だからな!」
「それは求めてないわよ、まあいいわ。初めての降臨はどう?」
「なんか空気が旨い気がする。久しぶりのシャバの空気ってやつなのか。」
「天界がムショっぽい言い方止めてくれるかな! 否定はしないけど。」
「「いやいや、否定しろよ」」
そんなやり取りをしていると、遠くから声が聞こえる。そしてその声はだんだん近づいてくるようだった。当然ながら、シュミカだろう。
その声のする方へ視線を向けると、農具を片手に担いでダッシュしてくるシュミカが見えた。
農民エルフ・・・。
「久しぶり、シュミカ。元気そうね。」
ちょっとだけ吹き出しそうになるのを堪えながら、久しぶりの親友との再会を味わう。社会人になりたての頃、あまり会えなかった時、会うたびに久しぶり! って言ってたなぁ。今はその感覚に近いのだろう。
「アイリーンも元気そうだねっ! あら、珍しくコーマも来たんだ? ようこそ! ここはウレイン大陸の中心地だ! ゆっくりしていってくれよな!」
「村人NPCかお前は。ま、元気そうで良かったよ。」
環境が多少、いや大分変ったとしても、私達の関係はあまり変わってないんだなぁと改めて思う。このまま何もせずに例のアレが諦めてくれるといいんだけどねえ。
なんでもない話をしながら、農業を体験したりしてたらあっという間に時間が経ってしまった。楽しい時間はすぐ過ぎてしまうのは、どの世界に居ても一緒だね。




