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大自然とシュミカ

シュミカは考えていた。

どうにかこの楽園に足を踏み入れることができないか、と。


「というわけで地上に降りたいです」


「どういうわけか分からないけど、神の直接関与は・・・」


「ポイントに関わるようなことしないから!自然を満喫したいの!」


人と触れ合いたいわけではない、大自然を体で感じたいだけなのだ。

リアルでは実家の農家の継ぐつもりで手伝いをしていたので、閉ざされた空間にずっといるのは

短い期間であるにも関わらず既に限界にきていた。

外に出ることが叶わないのならば自分の作った世界に降り立ち、その息吹を感じたい。

そう思ってしまうと、もうその事しか考えられなくなる。


シュミカの作った大陸は既にシュミカの中で完成されていた。

過度な文明は必要なかった、自然を受け入れ、自然に受け入れてもらって成り立つ世界。

ゲームの趣旨は考えられていない。だってシュミカだもの。


シュミカの作った大陸にはエルフと精霊妖精の類しかいない、エルフは魔法が使えるが、使えるだけで

特にそれを人類発展のために使おうなどという考えは持ち得なかった。

自然を守り、精霊を大事にし、その子供のような存在である妖精も大切にし、慎ましやかに生活をする。

それがシュミカの大陸に住むエルフだった。


「ギルだって私たちの世界に存在して私達とゲームで遊んだじゃん!」


「うぐっ!」


それを言われてしまうと、シュミカの望み程度のものは認めざるをえない・・・。

シュミカが現時点で大陸の発展を望んでない以上、そのくらいは許容すべきだろうとギルは考える。


「深入りしすぎは絶対ダメだからね、特定人物への入れ込み禁止だよ?」


子供を諭すように釘を刺す。


「大自然満喫したら普通に帰ってくる!」


特に深く考えての事でもなさそうだし、我慢の限界を迎えての暴走・・・ということになるリスクを避けるためにもギルは許可を出すことにした。


「連続滞在時間は、そうだな・・・6時間だ。それを過ぎると強制的にこの部屋に戻されるってことでいい?」


「わーい!ありがとギル!んでどうやって降りるの?」


目を輝かせて、子供のように強請る。

黙っていればクールビューティーなエルフお姉さん(ただし絶壁)なのに本当に残念だ。

見た目年齢より実際年齢より若返っている気がする。


「じゃあまずは・・・・」


降りたい地点を拡大して、そこに自分が存在している様子を思い浮かべて───

と説明を聞きながらシュミカは実行に移す。

すると、風で草木が揺れる音が聞こえ、離れた場所からは川のせせらぎが聞こえた。

ふわりと優しく花の香りが鼻腔を擽り、陽の光に照らされた体がほんのり暖かくなる。


『目を開けてみて』


頭の中にギルの声が響く。

そっと少しずつ目を開いていくと、そこには拡大して自分が下りようと思っていた場所の景色が広がっていた。



「わあ・・・!」


感激の声を上げ、満面の笑みを浮かべる。

体感の時間としてはそこまで経ってはいないのだが、久方振りに味わうこの空気の香りに酔いしれる。


『限界の時間までに帰りたくなったら自分の部屋を思い浮かべたら帰れるからね』


既に聞く気もなさそうなシュミカに一応声をかけておく。

限界まで絶対いるなこれは、と思いながらも嬉しそうなシュミカを見ていると自然と笑みが漏れる。



「健全な世界の運用は健全な精神からってね・・・」


ポツリと呟くと、少し悲しげな表情を浮かべた。

自分たちの都合で巻き込んでしまった3人の人の子。

そう、このゲームは神々のゲーム。

暇を持て余した神々の選んだ子らを競わせるゲーム。

他の神達の選んだ子らは優秀な子らだ、どういう風にこのゲームに参加させるかは自由。

突然召し上げて強制的にやらせている神もいるみたいだ。

人の命は神から見れば一瞬にも満たない、生まれているのにも気付かないまま終わっている。

一人一人の命の価値など無いに等しいのである。



神々の戯れを、穢れた神々をあの子らが目にすることなくこの世界を愛せますように・・・。


「僕が言えた義理でもないけどね」


悲しげに自嘲し、今は誰もいない白い部屋に浮かぶトリルを優しく撫でた。

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