02.朝のごちそうさまからお昼まで
「「「「ごちそうさまでした」」」」
やがて、食事の時間は終わりを迎え、最初と同じように挨拶で締めくくられる。
「それじゃ、おれは仕事に行くね」
兄がそう言い、まず最初に立ち上がり家を出ていった。
「わたしも洗い物しちゃうわね」
次の母親が立ち、机の上の食器を重ね台所に向かう。残ったのは、父親とマリスの二人であった。
「ぼくは成人の儀の時間まで忘れ物が無いか荷物の確認をしようと思ってるけど、父さんはどうするの?」
「おれはお前への餞別の用意だな。いい弓が手に入ったから、それをお前用に調整しといてやるよ」
そう言ってニヤリと笑い、期待していろと声を掛け父親も席を立った。
「餞別なんて用意してくれてたんだ。父さんは冒険者に成るの反対みたいだったから、思ってもなかったよ」
「お前が絶対に譲らない事なんてわかってはいたからな……今でも出来ればもっと安全な職について貰いたいとは考えているんだぞ? まぁ、でもお前は止まらないだろう。それにだ、息子の成人の儀に餞別の一つも渡さないなんて情けない真似は駄目だろ? どちらにせよ、渡すつもりではいたのさ」
不器用なウィンクを残し、父親は仕事用の離れへと歩いて行った。
「ありがとう、父さん」
そんな父親に感激し、マリスは精一杯の感謝の気持ちを込め、そう呟いた。
所変わってマリスの部屋である。
マリスは今、少し前から準備をしていた荷物の最後の確認を行っていた。
目の前にどんっと置いてあるリュックの中には、毛布や寝袋、それに着替えなどが綺麗に折り畳まれて入っている。他には火打ち石や湿らないように皮の袋に入れた着火用の木屑などの小物類、それらがリュックに左右にあるポケットの中に入れられている。それとは別に用意された腰に巻くタイプのポーチには、ポーションなどの錬金薬が数本入っていた。ちなみに、ポーション用の瓶は木製で割れにくくなっている。
それと、冒険者として忘れてはいけない装備品。
まずは採取や解体用の短刀。依頼をこなすのに必須といってもいい基本中の基本の道具だ。
次はダガー。こちらは補助用の武器となり、障害物の多い狭いところで使うのに適しているし、場合によっては投げる事も可能な装備となる。そして、接近戦でのメイン武器であるロングソード。まだ幼い頃、冒険者であった母親に毎日ぼろぼろになるまで訓練させられたのは、当時はともかく今ではいい思い出だ。半端な気持ちではとっくに投げ出してしまっていただろう。
「思えば、あの厳しさは母さんなりの試験みたいなものだったんだろうなぁ」
それくらいで挫けてしまうような人間が、冒険者になどなれるはずがない。乗り越えてみせろ、そういう意味も在ったのかも知れないと、今さらに考えるマリスであった。
実際、母親のシゴキを乗り越えて一本が取れるようになった頃には、冒険者になることを心配するような発言をすることが無くなっていったのだ。
今更ながらに感謝をするマリスであった。
「後は弓だけど、こいつは置いて行くか。父さんが餞別で用意してくれているみたいだし……愛着はあるんだけど、さすがに弓を二本は背負えないしね」
リュックの横に剣と一緒に並べていた弓を手に取り、名残惜しそうに弦を弾く。ビィンという音が部屋に響き、ィィンという音の余韻が消えるまで、マリスは目を閉じ静かに聞き入っていた。
「今までありがとうな、相棒。次は、弟のカリスをよろしくな」
笑みを浮かべ、愛弓であったそれを部屋の壁に立てかけた。
「さて、こんなもんか……」
窓の外を見ると、意外と時間が掛かっていたようで、すでに太陽が高く昇っていた。
もうすぐ、昼となるだろう。
「昼ご飯を食べたらすぐに成人の儀に向かって、それが終わったらこの部屋ともお別れか……ずっと決めていた事だけど、いざとなるとしんみりとするものだなぁ」
壁を手で撫でながら、そう呟く。
マリスが出て行った後、この部屋は成長した弟の物となることが決まっている。もう、直に部屋は自分の物では無くなるのだなぁっと思えば、意外と感慨深いものがあった。
「まぁ、でもしばらくは町を拠点にする予定だから、いざとなればすぐに帰って来れるし……いやいや、そういう考えが甘えになるんだ。しっかりしろよ、ぼく」
思い浮かんだ考えに、首を振り否定する。
冒険者となるからには、家に戻るのは一旗上げた後だ。せめて、ベテランとも言えるランクにまで上がるまでは帰るつもりはないと、決めているのだ。
「お昼まで、母さんの手伝いにでも行こうかな……」
そう考えたのは、家を出る前の最後の孝行と考えたからかもしれない。
これ以降は現在執筆中となります。
連載投稿ちゃんと出来てるかな?(汗