01.朝の目覚めから食事まで
新しく、今度は連載として書いていく為の練習作を書き始めてみました。よろしくお願いします。
「朝だ!!」
日が昇ると同時に、少年はベッドから飛び起きた。
余程朝が待ち遠しかったのか、余り眠れてはいないようで目の下には僅かに隈が出来ている。
「父さん! 朝だよ、起きてよ!!」
寝巻のままに部屋を出て、両親の部屋へと移動した少年は、父親を起こそうとユサユサと布団を揺らす。
「う……はぁ、勘弁してくれよ、マリス。まだ日が出たばかりじゃないか……」
薄く目を開けた父親は、少年ーーマリスを落ち着かせようとその頭を押さえる。
「まだ教会は開いて無いし、成人の儀は昼からだろう? 興奮するのはわかるけど、急いだってどうにもならないぞ……というわけで、父さんはもう少し寝る……」
それだけ言って、父親はまだまだ重い瞼を落とし、すぐに寝息を立て始めた。
その様子を見てマリスは「む~」っと唸るが、実際に時間としてはまだまだ早いので諦め、自分の部屋へと引き返す事にした。
「よし、日課のランニングでもしよう。冒険者に必要なのは、壱に体力・弐に体力、とりま体力って教本にも書いてたしね!」
寝巻を脱ぎ、ちゃんと畳んでベッドの上に置くと、すぐにランニング用の薄手の服に着替える。寝ている父親に気を使い「いってきまーっす」と小さく言うと、そのまま家を飛び出し、日が昇ったばかりの村へと飛び出した。
走るのは何時ものコースだ。
家を出て、村の外周をグルっと周るコースだ。さほど大きい村でも無いので、距離としてはそう長くは無い為、とにかく周回を重ねる必要がある。
「おはよう、マリス。毎日がんばるねぇ」
時折、マリスと同じく早く目を覚ました近所のお年寄りから声が掛かる。
「おはようございます!」
その度に、軽く手を振り笑顔で答える。
これがマリスの日課である。
やがて、日が高く上り始めると、村の中で朝の準備を始める人達がちらほらと現れ始める。それが、マリスの日課の終了の目安となっていた。
「ただいまー」
もう両親も起きているだろうと、今度は普通に声を上げ家の中に入る。
「おぅ、お帰り!」
「おかえりなさい、もうすぐご飯だから汗を拭いてきなさい」
「はぁ~い」
そのまま家の裏手に向かい、大きな壺から水を桶に移すと、手拭を浸し汗の浮かんだ身体を丁寧に拭いていく。火照った身体にひんやりとした手拭が気持ち良く、自然と鼻歌が漏れていた。
「お腹空いたー」
汗を拭いた手拭を水で軽く洗い、絞って水気を切り、近くの木の枝に掛けてから家の中に戻る。
中に入ると、焼き立てのパンの良い匂いが漂ってきた。まだまだ育ち盛りのマリスのお腹からは、ぐぅっという音が響いた。
「ふふ、早く席に付きなさい。もうすぐ、お兄さんも来ると思うから」
そんなマリスの様子に小さく笑うと、母親は早く椅子に座るように促す。ちなみに、マリスの家庭は父親と母親、それに兄とまだ生まれたばかりの弟と5人家族となっている。
「うん。今日は何時もより早起きしてしっかり走っちゃったし、もうお腹ぺこぺこだよ」
そう言うと、マリスは何時もの椅子に座る。
目の前には、焼き立てでまだ湯気の出ている柔らかそうなパン。思わず手が伸びそうになるのを、必死で抑える。
「……くっ、静まれぼくの右手……つまみ食いしたら母さんの説教から朝ごはん半分の刑になるんだぞ……」
どこぞの中二病の患者のような台詞を吐きながら、左手で右手を押さえる。
「はは、マリスは相変わらずだなぁ……でも、今日で成人かぁ、正直まだまだ子供で父さんは心配だよ」
そんな様子を見、父親は苦笑を漏らす。実際に15歳というのはまだまだ子供であり、自分も通った道とはいえ親としてが心配なところだ。
実際、15歳で成人というのはまだ色々と不安定だった頃の因習であり、最近では18歳を成人の目安にするのはどうだろうか、という意見が増えて来ては居るのだが、まぁ今この時には関係のない余談である。
「兄さんだって15歳で家を出て、立派にやってるんだし、ぼくにだって出来るよ」
そんな父親の様子に、心外だとばかりにマリスが文句を言った。ただし、右手を押さえつまみ食いをしたいという気持ちを必死に抑えている姿で説得力はないがーー。
「そうだな……でも、やっぱり心配するんだよ。アルスは村で仕事を見つけて傍に居てくれるから安心できるが、お前は冒険者に成るんだろ? 命の危険だってある仕事だ。心配するに決まってるだろ?」
深々と溜息を付きながら、父親は言った。
そう、成人したマリスの目指す職業は『冒険者』である。
冒険者とは、冒険者ギルドに移籍し、そこから出る依頼をこなし金銭を得る仕事であり、村や町の中での雑用から、薬草の採取、魔物の討伐や商人などの護衛と多岐に渡る仕事をこなす職業となる。
当然、討伐などは命の危険が存在する。
親としては心配になるのが当然の職業である。
「大丈夫……とは絶対に言えないけどさ、その為にずっと父さんの仕事を手伝って来たし、母さんの訓練も耐えてきたんだよ? 今さら諦められないよ」
そう、マリスはこの日の為に狩人である父親の仕事を手伝い、弓の扱いや短剣の使い方、獲物の解体方法などを学んでいた。そして、元冒険者であった母親からは、剣の使い方や冒険者としての心構えといった基本を学んで居たのだ。
マリスは幼い頃から冒険者となる事を目指していた。
切っ掛けは、文字の読み書きがそれなりに出来るようになってから初めて読んだ、一冊の絵本であった。一人の男が冒険者となって成長し、多くの人々を救い、時には助けられ、やがて強大な魔物を倒す。そんな有り触れた物語。
しかし、有り触れたそんな物語が幼いマリスにはとても面白く感じたのだ。やがて、小遣いを貯めては本を買うというサイクルを繰り返すようになっていた。買う本は全てが英雄譚であり、マリスの部屋の本棚にはその手の本が沢山並ぶようになっていった。
そんなマリスが冒険者に憧れ、やがて冒険者を目指すようになるのは当然の事だった。
「まぁ、マリスは昔からそればかりだったからな……母さんも乗り気で、父さんの話なんて聞いてくれなかったし」
当時を思い出しては、父親はがっくりと頭を落とす。
「男の子だもの、仕方ないわよ。それに、この狭い村に余ってる仕事なんてそうそう無いし」
料理を盛った皿を持ち、母親が会話に混ざってきた。
「それに、昔とは違って、今の冒険者ギルドはしっかりとしてるのよ? 依頼料から天引きされちゃうけど、その中にしっかりと保険料も含まれてるから、怪我した時なんかは程度によってはお見舞い金も出してくれるし、何よりも依頼者からの信頼を大切にしてるから、変な人も少ないし」
皿を机の上に並べながら父親にそう説明する。
漂ってくるカリッと焼いたベーコンと目玉焼きの匂いに、ごくりとマリスは唾を飲み込んだ。
「そうは言ってもだな……っと、もう何度もした話だな。マリスが冒険者になると言ってるのだから、引き留めても仕方がないというのは解ってるんだけど、やはり親としてはなぁ」
諦めたようにそう言うと、意識を切り替えるように頭を左右に振る。
「なんだい、まだ父さんはそんなこと言ってるのかい? おはよう。それに成人おめでとう、マリス」
そう言って誰かがドアを開け家の中に入ってくる。マリスの兄のアルスである。ちなみに、弟であるカリスはまだ保育用のベッドの上ですやすやと眠っているようだ。
「今日も母さんの料理はいい匂いだなぁ……ふふ、マリスの顔はもう我慢の限界みたいだな。悪い悪い、すぐにおれも席に着くよ」
マリスの頭をぽんぽんっと撫で、アルスも指定の席に座る。
「さて、それでは頂くか……いただきますっ」
「「「いただきます」」」
家長である父親の挨拶の後に、他の家族も挨拶をし食事が始まる。
ゆっくりと食べる他の家族と比べ、マリスの手は早い。ずっとお預けを食らっていたのだから、それはもうガツガツと食事を始める。
「マリス、今日の成人の儀の後にそのまま町の冒険者ギルドに向かうんだろう? しばらく母さんの料理は食べれないんだから、もっと味わったらどうだ?」
その様子を見て、父親は呆れたように声を掛ける。
「はぐむしゃ、でも、もぐもぐ、おなかすいて、ごっくん」
「こら、口にものを入れたまましゃべらないの」
だが、マリスの手は止まらない。
まだまだ食べ盛りなのでどうしようもない事なのだ。と、自分に言い聞かせながらーー。
連載物を書く練習作品と言いますか、書いてたらどんどん長くなってしまいそうだったのでいっそ書いて行く事にしました。
なんというか、寝る前にふと頭に浮かんだ、自分が読んでみたいなーっという話の妄想をそのまま書いていってる感じです。
アナログな感じとなり、今風とは言えませんが、どこかに何か懐かしさを感じてもらえるような作品にしていけたらなーっと考えています。
もし、読んで下さる人が居るようでしたら、よろしくお付き合いお願いします。