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一章 7話 竜の襲撃

 朝になり、窓から差し込む陽気な光が俺に容赦無く降り注ぐ。


 もとの世界ではほとんどまともに眠ることなどできなかったからか、少しこの睡眠を手放すのを惜しく感じるが、そうも言ってられない。

 昨晩は隠風竜とやらに喧嘩を売ったからな、流石に何もしてこないということもないだろう。


 ふと、さっきまで自分がいたベットに視線を向けると………。


「うう〜ん。むにゃむにゃ」


 猫のように丸まった姿勢で寝る、竜の姫の威厳などもはや皆無の美少女がいる。


「ヒメ、起きろ」


 声をかけても起きないので、軽く頬を叩いてやるが微動だにしない。


「いいかげんに、起きろ」


 全く起きる気配のないヒメにゲンコツを喰らわせる。


「う〜ん」

 

 しかしそれを煩わしそうに身を捻ると、さらに丸まってしまう。致し方ないのでヒメに向けて軽く殺気を放って見る。


 すると、体をビクんと震わせると背を向けていた姿勢から反転して手加減なしの右ストレートが飛んでくる。

 俺は隠風竜のときのように拳を掌で受け風に撃力を伝え周囲に分散するが、その余波で宿の床に小さな亀裂ができる。


「馬鹿野郎!お前は宿を全壊させる気か!!」


 再び俺のゲンコツがヒメの頭に刺さる。


「うへッ!?………ラーシュが私に怒鳴ってくれた」


 ヒメは頭を抱えてうずくまるが、何故かその後に嬉々とした表情になる。


  

 うずくまるヒメを引っ張って部屋から出て宿にある食堂に行く。

 

 カンカンカンカンッ!!!


 その途中、鐘の音が喧ましく街の隅々に響き渡る。すると、周りの客や外の住民が慌ただしく動き出す。どこの家も窓や扉を固く閉じる。


 俺は隣を通り過ぎた宿の客を捕まえてこの鐘の音がなんなのか聞く。


「この鐘の音は街に大規模な魔物の群れや他国が攻めてきたときに鳴らされるもんだよ。あんたもさっさと部屋に戻りな!」


「そうか。呼び止めて悪かったな」


「おいっ!?あんたら……」


 俺たちは宿から飛び出し、街の門に向かう。

 上を見上げると無数の竜が街の上空を旋回しているのが見えた。


 するとその中の一匹の竜が俺の前に急降下してくる。

 

 ドゴオォーーーンッ!!


 その衝撃で数十メートルのクレーターが生まれ、周りの建物は粉々に吹き飛ばされた。

 無数の破片がラーシュたちに殺到する。ラーシュが腕を伸ばし魔法で発生させた突風で弾き、ヒメに迫った破片もともに吹き飛ばす。


 降りてきた竜は間髪いれず体を回し巨木の丸太のような尻尾をなぎ払う。

 虚を突かれたラーシュは刀で受けたものの踏ん張りきれず建物を貫いて吹き飛ばされる。


「ラーシュ!?」


「隠風竜のジジイが言ってた人間ってのはこの程度なのか?拍子抜けもいいところだ。とっとと姫さん回収して帰るとするか」


 ラーシュのもとに走るヒメの背中に向けて竜はその巨腕を伸ばすが……。


 シュィッ!


 その場にひとつの風切音が生まれる。その瞬間、不可視の刃がヒメの頭上を通り竜の巨腕の付け根に吸い込まれる。


 不可視の刃は誰にも反応されることなくただ切り落とした巨腕だけを残して虚空に消えていった。


「ぐうあぁぁぁぁ?!!!俺の腕があぁぁ、腕がアァァ!!!」


 いつの間にか切り落とされた腕を見て竜は叫び声をあげる。そして崩壊した建物からラーシュが『竜巻ツインスター疾走エスケープ』で両脚に竜巻を纏いながら空中に駆け出す。


 腕を切り落とされた竜は半狂乱になりながらもラーシュに向かって最強の武器であるブレスを吐く。


 街の街道を隙間なく灼熱が埋め尽くす。逃げ場のない街道を飛び上がり上空に逃げる、そして一閃。


 『春風』から無数の不可視の風の刃が現れ竜の体にまとわりその表面を切り裂き、無数の裂傷をつくる。さらにラーシュは膨大な風を生み出し一つの巨大な刃をつくり構える。


「どういうことだ?!この俺がここまで一方的に………」


 その疑問が言い終わる前に竜の首は地面に落とされた。

 

「ヒメッ!流石に離れられると守れない。上の竜を殲滅するついてこい」


 それだけ言い残しラーシュは感傷に浸ることもなく『竜巻ツインスター疾走エスケープ』を維持し高度をあげる。


「陽炎竜が……あんなあっさりと。信じられない……」


 ラーシュが強いのはわかっていた。でもそれはあくまで人間の範疇でだった。だから少なくとも全力をだせば絶対に勝てると思ってた。でもその考えは間違っていた。陽炎竜は巣では族長に継ぐ実力者だ。私が竜化してもここまで圧倒することはできない。

 今でも多く竜族に対して空中戦で圧倒的な立ち回りを見せている。


 さほど時間をおかず、上空にいた全ての竜が地上に落ちた。


「ヒメ、地上の方にいる冒険者の方にいくぞ」


「う、うん。でも大丈夫そうだよ」


 地上にいる地竜には冒険者のロンディたちが対応していた。すでに多くの地竜は地面で朽ちていた。

 地竜は翼と知性を持たないもちろん人化もできない上位竜に飼い慣らされている竜だ。とはいえ力だけをみれば中位竜と並ぶため決して弱くはない。

 そこは流石は白金等級冒険者といえる力だった。


 

 そうして街に迫った危機は瞬く間に鎮圧された。



 俺たちはロンディたちと合流し、宿に戻った。幸い竜の襲撃から免れたようで俺たちの宿は無事だった。


「空の飛龍をまかせっきりにしちまって悪かったな。罪滅ぼしってわけじゃないが、死体処理ぐらいはさせてくれ」


 と言うことで竜族の死体の処理はロンディにまかせた。


 ヒメの顔は終始浮かなかった。竜族がきたのは俺たちのせいだからな、きっとそれを気にしているんだろう。


「ヒメ、何も気にするな。あれはお前を連れてきた俺の責任だからな」


「違う!!……これは散々わがままを押し通してきた私の責任なの」


「ふっ、………なら俺ら二人に責任があるわけだな」


「え?」


「二人で責任をとりに行くんだよ。竜の巣にな」


「でも巣にはお父さんが………。この地域の氏族をまとめあげる最強の竜が」


 ヒメは絶望するように顔を俯かせる。


「明日にはでる体を休めておけ」


「ほ、本当にいくの?」


「しつこいぞ。俺は準備をするから別行動にしよう」


「あ、待ってラーシュ!」


「なんだ?」


 ヒメが逃さないとばかりに強い力で俺の腕を握る。そして今までにない真剣な表情で、俺に顔を向ける。


「ちょっと私に付き合って」

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