表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

一章 5話 謎の竜

投稿遅くなったので少し多めです。

 俺は門番に案内された風呂を軽く済ませ、すぐ組合に向かった。



 組合では大きな人だかりがあった。案の定人だかりの中心にいたのはヒメだった。

 俺は人だかりをかき分けヒメの元に行った。


「おい、なんだこれ」


「あ!ラーシュ、遅かったじゃない。なんかね、受付の人に袋を渡したんだけどね。そしたらすごい驚いちゃって………」


 ヒメが状況の説明をしようとしてくれるが、内容がぐちゃぐちゃで何をいってるのかよくわからなかった。俺は視界の端に豪快に笑う大男を見つけ、そいつに歩み寄った。

 

「ロンディ、何があったか説明しろ」


 俺はロンディの胸ぐらを掴み、睨みつけながら問いただした。

 正直いってあまりこっちの世界で目立ちたくないからな。何が原因だったか明らかにしないといけない。


「おいおい、ラーシュ何怒ってんだよ。あの人だかりはな。嬢ちゃんがとんでもねぇ量の魔物の素材を持って来たからなんだよ。あれやったのお前だろ」


「確かに素材は持ってったが、そんな驚くことか?弱い魔物の素材ばかりじゃないか」


「はっはっは、つくづく面白い奴だなお前は。お前が弱いと思ってる魔物は金等級の冒険者が倒すような魔物だぞ」


「な!?本気で言ってるのか?」


「あぁ、だから組合はお前を銀か金かどっちの等級にあげるか話し合ってるところだ」


 もう金に上がれるのか。しかしここまで有名になってしまうと色々面倒なことが増えそうだな。ヒメと相談しないといけないな。


「おい、ヒメいつまでもはしゃいでないで一回、宿を取りに行こう。野宿はごめんだからな」


「そう?まぁ、いいけど」


 ラーシュはヒメの手を引いて無理やり群がる冒険者たちを払い退け、組合の外に出た。ヒメの恋人のように振る舞うラーシュに冒険者たちは殺意の目を向けるが、ラーシュがひと睨みするとすぐに散った。

 ヒメははにかみながら、ラーシュは何故殺意を向けられたかわからず僅かに困惑しながら街道を歩いて行った。



 宿はすぐに見つかり、俺は一人部屋を二つ取ろうとしたがヒメがどうしても二人部屋にすると言ったので仕方なくそうした。

 その時の定員の微笑ましいものを見るような目がこそばゆく感じ飯も食わず部屋に向かった。ヒメも後ろをついてくる。


 部屋に入るとヒメが先に口を開いた。


「ねぇ、ラーシュ次は何の依頼を受けるの?」


「何を受けるって、さっきこなしたばっかなのにもういくのか」


「そ、そうよね………」


 ラーシュはヒメのなんだか落ち着かない様子に気付いたが、気の利いた言葉が思い付かずしばらく部屋に沈黙が続く。


「ヒメ、街を見て回ろう。今日は休んで明日依頼を受ける。いいか?」


「え?!う、うん」


「よし、いくぞ」


 ラーシュはヒメの手を取って引っ張っていくように外に連れて行く。通りがかりにニコニコの笑顔で宿の店員が「いってらっしゃいませ」と見送ってくれて、なんとも言えぬ気恥ずかしさがあった。


 まだ昼時ということもあり街道は人であふれていた。道行く人は老若男女関わらず、ヒメの人間離れの美しさに目をうばわれていた。


「ヒメ、あそこに串焼きの屋台がある。行ってみよう」


「うん!わかった!」


「おいっ、串を二本くれ」


「あいよ!」


 景気のいい声で店主が返事をする。串は程なくして焼き上がり店主からラーシュは串を受け取り、さっき組合で貰った金を店主に渡す。

 俺は串の肉に噛み付きながらヒメにもう一本の串を渡す。


「ほら、ヒメなかなかうまいぞ」


「うん。………美味しい!」


「………お前、喋り方変わったな。ヒメ」


「え?!……あ」


 ヒメは無自覚だったのか、目を見開いた。


「そんな気にすることないだろ。俺は素のお前の口調の方が好きだぞ」


「す、好き?!」


「口調がってことだぞ」


「分かってるっ!!」


 俺たちは少しだけお互いのことを知れ、その後の街まわりを楽しく過ごし暗くなってきたころで何気ない会話をしながら宿への帰路についた。


 

 しばらくして俺たちは異変に気付いた。周囲から不気味なぐらい音がなくなっていた。夜中とはいえエトーアはかなり大きい街だ。夜でも多少は人が出歩くため、何らかの音が聞こえるものだ。


「……ヒメ、気付いてるか?」


 俺は小声でヒメに話しかけた。

 

「うん。後ろの木にある影だよね」


「あっちから仕掛けるのを待つ」


「わかった」


 少し前から俺たちの後ろをこそこそとつけまわる影がいた。おそらく周囲に人がいないのもこいつのせいだろう。かなりのてだれだが、俺とヒメの感知からは逃れられなったようだな。

 しばらくすると影が動き出した。影は流れるような動作でこちらの背後に近寄る。

 影がラーシュの背後に腕を振り上げながら立った。その瞬間………。


「『広域ブロード転移テレポーテーション』」


「?!」


 影を含め、ラーシュたちは青い光に包まれた。影はまさか反撃をくらうとは考えていなかったのか困惑して動きを止めてしまった。そのまま三人は街道から姿を消した。


 そして三人が再び姿を現したのはラーシュたちが魔物を狩った草原だった。

 困惑したまま動かない影にラーシュが横蹴りを放つ。


「ごふぉ!?」


 そのまま影は紙屑のように吹き飛ばされた。しかし、影は空中で体を反転させラーシュに向かって突撃する。そして手に持った短剣を振りかぶるが、横からヒメのかかと落としをくらい地面に打ち付けられる。

 そこでヒメは影の姿を初めて捉えた。


「え!?あなたは……」


 ヒメが動揺し足の押さえが緩くなったその一瞬を狙い影がその場から抜け出し、短剣の突きをラーシュに放つ。

 ラーシュはその突きを体を逸らすことだけで回避し、その手首を掴み影を締め上げる。


「ぐうぅぅ」


 影は苦悶の声をあげる。

 ラーシュは影を見て、ヒメが拘束を緩めた理由を理解した。その影の頭には二本の短い角があり、その体にはうねる尻尾がついていた。

 

「人間如きに我が押さえ付けられるとは………ッ!」


「お前、竜人だろ。何のために俺たちを襲った。さっさと吐けば無事に返してやる」


「ラーシュ!!その人は……!!」


 ヒメの忠告がラーシュの耳に届くより先にことは動いた。


「竜人……だと。………我をあんな半端者どもと同じでするでないわッ!!」


 竜人は怒りと苛立ちを含んだ声で吠えた瞬間、体が影色の魔法陣に包まれ、全身から紫紺の激しい光を放つ。その光が徐々に形を変化させ、巨大な竜を形取る。

 そして光から数十メートルは優に超える竜の巨躯が現れた。


「グルオォォォォォォォッ!!!」


 巨大な竜の咆哮は大地を震わせ、まるで体を地面に縫い付けられかのような感覚に襲われる。たった一つの咆哮だけで圧倒的生物としての存在感を出す。

 しかし、ラーシュが感じたのは畏怖ではなく、ただこいつを殺すという使命感だけだった。そして滑らかな動作で『春風』に手を掛け、じっと竜の出方を見る。


 竜はラーシュを見て、完全に恐怖で体が動かなくなってしまったと勘違いして何の警戒もせずその巨躯を利用して飛び上がり後ろに激しい風を生み出しながら突進してくる。しかし、ラーシュはその場を動かない。

 ヒメが止めようとするがラーシュの手がそれを制す。


 そして、ラーシュの手にした刀と民家一つ分ぐらいの竜の頭が衝突する。


 ガキイィィィーーーーッ!!!!


 一瞬とてつもなく大きい衝突音がしたと思った瞬間、竜が鼻を潰し多量の血を顔中から撒き散らしながら仰反った。


「ぐふぅ!?」


 ラーシュは吹き飛ばされることもなく刀を振り抜いたまま静止している。

 竜はまさか自分が攻撃を受けると思っていなかったのかそのまま仰向けに倒れた。

 ラーシュは刀で風の流れを変え、風を挟んで刀に伝わる撃力をまた風に伝わらせて竜に返したのだ。そして竜は己の突進を自分で受ける形になってしまったのだ。

 そんなことをしているとは気づかない竜はただただ己の前にいる小さな生物に恐怖していた。ラーシュが近づいてきてもただビクビク震えるだけで最初の頃の存在感は皆無だった。

 ラーシュは今のうちに止めを刺そうとするが、こちらに近寄ってくるヒメの声に足を止めた。


「ちょっと待って、ラーシュ!」


「なんだ?」


「その竜を殺すのはやめてあげて、きっとこの人は命令されただけなんだと思う。その………私を巣に連れ戻すために」


「知り合いなのか?」


「うん。巣でおと……ぞ、族長の側近だった竜なの」


「………しかし、襲って来た相手に何もしないというのはなぁ」


 俺がどうするかと考えていると。いつの間にか人の姿に戻っていた竜はこそこそと翼をだし空に飛び上がった。そのまま逃げようとするので捕まえようとすると先に………。


「ちょっとッ!!せっかく私が殺さないように説得してるんだから逃げないでよ!」


 ヒメが手の魔法陣から出した炎の鞭で龍人の体を雁字搦がんじがらめにする。


「ギイヤアァァァァァ!!」


 炎の鞭は竜人の体を容赦無く焼き、体中に重度の火傷を作った。それを行った当人はそんなことになっているとも知らず竜の体を焼きながら話を続ける。


「だからね。ラーシュこの人は見逃して欲しいの」


「わかったわかった。……とりあえずそいつの拘束を解いてやれ」


 殺そうとして来た相手とはいえさすがに苦悶の表情で気絶しているのを見るといたたまれなかった。


 俺たちはこの竜人から話を聞くためその場でしばらく待つことにした。

 

 面白かったら星やブックマークよろしくお願いしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ