一章 4話 冒険者組合
俺とヒメは街に行くまでの間にロンディたちに冒険者のことを色々と聞いた。やはり新しいことを聞くのは楽しいのか、ヒメは胸を弾ませながら聞いていた。
「まずさっき言ったとおり、冒険者には鉄等級から虹等級まであって、それぞれの等級にあった依頼を選んで受ける。まずは鉄等級から始めて、依頼を達成し組合から信頼を得て次の等級に昇格できる」
「なら、俺たちは銀等級の依頼しか受けられないのか?」
「う〜んそうだなあ。まぁ俺が融通を利かせて高い等級にしてもいいんだが」
「いや、それでは他の冒険者も不服だろう。自分の力で上を目指そう。それにこれ以上お前の世話になるわけにはいかないしな」
それにすぐに上がれるだろう。今、上から初めて他の冒険者に目をつけられるのは得策とはいえない。遠回りの方がいいこともある。
「何言ってるのラーシュ。こっちは殺されかけたんだから別にいいじゃない。それに簡単な依頼ばかりじゃつまらないわ」
ヒメは納得いかないのか不満の声をあげる。
お前はもっと苦労を覚えろと言いたいが……。
「そう言うな。街の人と関わりを持つ時間だと思え」
「えーーー」
「ラーシュの言ってることは正しい。それにあなたたちならどのみちすぐ上にくると思うからそんなに変わらない」
ソルエがヒメを嗜める。ヒメはまだ不満そうな顔をするがその場は引き下がった。
「すまんな。世話のかかるやつで」
「別にいい。それにこっちの連中に比べれば彼女は可愛いほう」
「そうか」
ソルエはいつも一体どれだけ苦労してるんだ。
程なくして俺たちは街のついた。門で何か必要かと思ったがロンディたちがいたおかげでその心配も無駄だった。
「ここが俺たちの街エトーアだ」
「ここが街かあ」
ヒメは街に来るのが初めてだからだろう。胸を弾ませている。
「早速、組合にいこう。もう少ししたら依頼を終えた奴らで溢れかえっちまうからな」
「わかった」
組合は街に入ってすぐ右の場所にあった。今はほとんどが依頼に出ているのかガラんとした様子だった。
「あっちの受付で申請してこい」
「よし、いくぞ。ヒメ」
「わかったわ。……それにしても私が冒険者だなんて信じられないわ。これもあなたが連れて来てくれたおかげね!」
そう言ってヒメは満面の笑みを浮かべながらこっちを向いてくる。
「お前が勝手について来ただけだろ」
少し気恥ずかしさを感じてぶっきら棒に返事をしてしまう。
さっきもヒメのことを呼んでしまっていたし、自分でも無自覚の内にヒメのことを仲間だと思ってしまっているのかもしれないな。
俺たちは受付のカウンターにいきそこにいた男性に声をかけた。
「すまない。冒険者になりに来たんだが」
「冒険者申請を所望ですか。ではこちらの紙に簡単なことを書いてもらいます」
その紙には名前や年齢、扱う武器などをかく項目があった。違う世界だが言葉は俺のいた世界と同じだったから、特に読み書きに困らなかった。
「よし書けた。ヒメ書けたか?」
「ラーシュ、私文字が書けないんだけど………」
「そうなのか?じゃあ俺が書くから紙をくれ」
「う、うん」
ヒメは恥ずかしそうにしているが、別に文字がわからなくてもそう思うことはないと思うが。
「……その、ありがとねラーシュ。私やっぱりあなたがいてよかったわ」
「……こんなことで感謝されてもな。というかお前って何歳なんだ?」
「えっ?!そんなこと書かないといけないの……うぅん」
ヒメは俺の耳元に顔を近づけてきて小さな声で伝えてきた。そのときに長い髪が頬を撫でこそばゆい感じを残した。
「……じゃあ、16歳だな」
「ちょっと、言ったのと違うじゃない!」
「お前、そんな数字かけるわけないだろ。普通お前の見た目ならこのぐらいの年齢だからいいだろ」
「それなら聞く必要なかったんじゃないの」
「…………」
「あなた………、はぁ。ならあなたの年齢も教えなさいよ」
「そのぐらいなんともないが」
俺はヒメに俺に紙を見せた。ヒメは数字だけは読めるから問題ないだう。
「……にじゅう……に……?22に?!ラーシュってそんなに若いの?!」
「まぁ、俺の体は少しおかしいからな。本当はもう少し生きてるのだが。
とりあえず早く申請をだそう」
「えぇ、そうね。………ならラーシュとは沢山一緒にいられるわけね」
「何言ってるんだ、お前」
「へっ、聞こえてたの?!」
「そもそもお前が警戒しろと言ったから常に周囲に気を配るようにしてるんだが……。お前が俺といられるのはお前の覚悟しだいだな」
「覚悟………?」
「登録が完了しました。これからお二人は鉄等級冒険者です。その証としてこれ銀のタグを常に首にかけておいてください」
ヒメはどういうことかと聞き返そうとすたが、途中に割り込んだ受付の声にかき消されてしまった。
「それではこれからの冒険、頑張ってください」
「ああ、ありがとう。早速、依頼は受けられるか?」
「はい、そこの依頼板から依頼の紙を見せてもらえれば受けられます。しかしもう少しで暗くなる時間ですので依頼を受けるのは明日からにしてはどうでしょうか?」
「いや、俺もこいつも夜目は利く。問題ない」
ヒメは夜目が利くか知らんが、まぁ竜だし銀等級が受ける依頼の魔物に負けるとは思えん。
「はぁ、そうですか」
受付の男は呆れ半分心配半分といったようだった。
それから俺は依頼板の前に立ち依頼を見た。銀等級の依頼は他の等級の依頼と比べるとかなりの数があり少し数えただけでも50以上はあった。俺はそれらを全てちぎりとり受付のカウンターに置いた。
「これを受けるって………」
受付の男は絶句した。
「そんなの不可能です。できない依頼は受けるものではありません。それにあなたたちはまだ冒険者になったばかりです。そうやって無茶をして大怪我や中には死んでしまった人たちも沢山います。それに失敗すると………」
「問題ない。おいヒメいくぞ」
「うん!でもしっかり全部の依頼覚えたの?」
「当たり前だ。明日までには全て片付けるぞ」
俺たちは街中を疾走した。夜は街の門を閉めるので止めるように言われたが、「明日の朝に戻る」というと呆れ顔で通してくれた。
「明日の朝までかかるかしら?」
「そんなことないだろ。まぁ街の外で野宿すればいい。ヒメは竜だし平気だろ?」
「う〜ん」
ヒメは少し嫌そうな顔をしたが割り切り「やれやれ」と首を横にふった。
俺たちは依頼に書かれていた草原にいった、来てすぐに魔物が出てきた。出てきたのは………確かゴブリンとか言われる小柄な悪鬼のような醜悪な顔をした魔物だった。組合の評価は一般の男性でも倒せるような弱い魔物だそうだ。
俺が刀を構えたときにはヒメが伸ばした鋭い爪で切り裂いていた。悲鳴をあげるまでもなくゴブリンは絶命に至っていた。
「やるなら、やると言ってくれヒメ………」
「そんなこと言ったて、簡単な依頼といってもかなりの数があるんだから早くやんないと間に合わないわ」
「……それもそうだな。ならここに魔物を集めよう」
「えっ、どうするのよ」
「魔物は基本的に生物から発せられる魔力の大きさで襲う獲物を決める。……ヒメ、魔力を抑えてくれ」
ヒメはコクリと頷くとヒメから発せられる魔力がなくなった。俺はそれを確認すると、抑えていた魔力を少しずつ出していき魔物が好むぐらいに調節した。
ヒメは不思議そうに俺を見ている。
出してしばらくすると、魔物が出てきた。しかも一匹ではない、何十もの魔物の軍勢となって俺たちに襲い掛かった。
俺は春風から地面に水平に風の刃を放ち目の前の魔物を上と下で両断した。ヒメは手に魔法陣を描き竜のブレスをだし、魔物を焼き払った。
それぞれの方法で魔物を倒しいった。そんな時間が日の出が出るまで続いた。
「かなり、呼び寄せてしまったな。この様子だと森の魔物まででてきたんじゃないか」
「このぐらいで疲れるようなことはないでしょ」
「そうなんだが依頼達成の証としてその魔物の指定された部位を剥ぎ取らないといけないんだ」
そう言って俺は目の前にできた魔物の死体の山を指した。
「というか、お前なんで焼き払ったんだよ。全部灰になってるじゃないか」
「そ、そんなこと言われたって知らなかったんだからしょうがないでしょ!」
「悪かった悪かった。とりあえず、俺が倒したなかから剥ぎ取ろう」
怒ったヒメを宥めながら俺は部位の剥ぎ取りを始めた。
なんとか剥ぎ取りを終え、俺たちは街に向かった。
「ラーシュあなた、血の臭いがすごいわ……」
「しかたないだろ、死体の山にから魔物を引きずりだしたりしていたんだ」
「でも私、特に鼻が利くし……」
ヒメは嫌々といった感じで鼻を手で押さえた。
そんなこと言うなら、手伝ってくれればよかったじゃないか。俺だってこんな臭いは早く消したい。
俺たちが街に着くと昨日の門番がいて、心配していたのか嬉しそうに駆け寄って来た。
「あんたら無事だったのか………、ってすごい臭いだな」
門番はあまりの臭いに鼻を押さえた。
「あぁ、魔物の群れと格闘してな。この有様だ」
そこで門番は初めて俺の背負っている血塗れの袋に気がついたのか、それを見て目を見開いた。まさか本当に朝まで魔物を狩っているとは思っていなかったのだろう。
「そうか。とりあえずあんた、依頼のことはそこの嬢ちゃんに任せてその臭いをどうにかした方がいいぞ」
「あぁそうすりるよ。ヒメお前一人で報告できるか?」
「バカにしないで、そのくらい余裕よ!」
そう言ってヒメは俺から血塗れの袋を奪い取り組合へ向かって走って行った。道ゆく人々は血塗れの袋を持った少女の姿を見てギョッとしていた。
「ほら、あんたはこっちに来な」
門番は仕事を他の者に任せて、近くの風呂を貸している場所に案内してくれた。
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