一章 1話 新世界ヨドガルズ
やっとヒロインの登場です。
目を開ければそこはもう闇の世界ではなく、木々に囲まれた森に変わっていた。俺はここが別の世界だとすぐにわかった。
しかし、困ったことが起きた。俺の腰にいつもあった重みが一切感じられなかった。
………俺の二本の刀が無くなっていた。
「また、新しい刀を探さないといけないのか。………そもそもこの世界に刀は存在するのか?困ったな」
そんな俺の深い嘆息も束の間、その問題はすぐに無くなった。近くで俺の刀の気配を感じた。しかし一本の気配しかない。それぞれ別の場所に転移してしまったのか?
「………取り敢えず、この世界の情報収集は後回しにして刀を取りにいくとしよう。全く知らない場所で丸腰でいるのは危険だろう」
そう判断した俺はその場所に向けて歩を進めた。
しばらくして刀の場所まであと少しというところで刀以外の小さな気配があった。
不審に思い、足を止めた。………その瞬間。
「動くな。少しでも動けば、その頭に矢が生えることになるぞ」
俺の目の前に矢を番えた男が一人現れたと思ったら、周囲に無数の気配が感じられた。
警戒していなかった訳ではないのだが………、ここまで近寄られるとは流石序列が上の世界の住民だということか。目の前の男以外もかなりの練度の気配隠蔽だ。
「なんの目的でここに来た!この先は我らの里、怪しい男を入れるわけにはいかない!!」
「俺の刀がこの先にあるんだ。それを取ったらすぐに引き返す」
「刀…………ッ?!貴様、まさか我らの秘剣を狙っている賊か?!」
いきなり俺の前にいる男は、すごい剣幕になり周囲からの殺気も数段強くなったように感じる。何にそんな怒っているんだ?秘剣というのも何かわからんな。
「秘剣というのはなんだ?あれは俺の武器だ」
「戯言をッ!!あの剣は我らの里に代々伝わる者だ!!貴様のような人間のものではないッ!!!」
そう言いながら男は、番えた矢を放った。それを引き金に周囲の影からも一斉に矢が放たれた。
最初の矢はそのまま掴めたが。
なかなかの速さだな。全方位からの矢、一本一本対処していたら確実に間に合わないだろう。ならば………。
「風の秘技・舞風ッ!」
左足に重心を置き360度に回転する回し蹴りに風を纏わせることで短時間の風のバリアを作ることで矢を跳ね返した。
「なッ?!」
「バカな?!この量の矢だぞ!!」
目の前の男もまさか無傷とは思わなかったのか。驚愕に表情を染めている。
しかし、攻撃を防いだのはいいものもどうすべきか。彼らは情報源として利用したいところだが………。
俺が彼らをどうにかして説得しようかと、考えていると。
ドゴオォンッ!!!!!
森の奥、俺の刀の気配がするあたりから大きな音が聞こえた。まだ距離があるはずなのだが、かなり音が大きかったな……。
すると音がした方で火の手が上がった。
「リース様!里に秘剣を狙った賊が襲撃してきました!至急応援をッ!!」
男の隣に人が現れ早口に火の手の原因を喋った。
……あれは、人の仕業なのか。それにしては大きな魔力を感じたが……。さすがは他世界の住民ということか。
「お前らはここに残ってこの男を見張れ。我らは里の応援にいくぞ!」
そして三人だけ残し、森の奥に走って行った。
かなり速い、俺の世界の下位神などよりも上だろう。だが………。
「おい、お前らの隊長………、おそらく負けるぞ」
「なんだとぉ?貴様のような賊にあの方の強さなど測れん!」
よっぽど癪に障る触ったのか。一人が俺の顔を殴ってくる。だが余りに大振りだったためその体はスキだらけ。
「ふっ!」
体を逸らせ腕を掴み残った二人のもとへ投げ飛ばしてやった。そこで彼らのことをよく見ると耳が長くとても整った綺麗な顔立ちをしていた。
なるほどエルフか。この世界にも俺の世界と同じような種族がいるのか。まぁ、今はそんなことどうでもいいが……。
俺はその隙に彼らの里に向かって足を進めた。
しばらくすると燃えている建物が見えてくる。あれが彼らの里だろう。賊はどこだと視線を走らせると、すぐに見つかった。
動物の毛皮のようなものに身を包んでいる、人間が数人叫びながら逃げ回っていた。
すると、俺の横に賊の男が転がってきた。その体は火傷だらけでだった。
「おい、どうした」
俺が男に説明を求めると男は途切れ途切れに状況を説明した。
「エルフと……戦って………い……たら、空から……影が………み……んな………焼か……れ、た」
男はそこで力尽きてしまった。
なるほど空からの攻撃か。エルフは火の魔法を嫌う、第三者の攻撃と見ていいだろう。しかし、空からというと魔物か何かか?
その正体は確認するまでもなく俺の目の前に現れた。
グルアァーーーーーッ!!!
それは大きな翼を羽ばたかせ、全てを焼き尽くす灼熱の業火を口か溢れさせる金色の巨大な竜だった。金色の竜は目標を俺に定め灼熱のブレスを吐く。
隣に倒れた男を風の魔法で吹き飛ばし、俺も横に飛んだ。僅か横をブレスが通り抜ける。
素手ではあの鱗の防御は突破できないだろう。刀を見つけなくては。
「来いッ!竜よ、お前のその首切り落としてやるわ!!」
さっきリーフと呼ばれていたエルフが現れた。リーフは大きな声で竜の注意を引いていた。仲間に攻撃が行かないようにするためだろう。そして、その手には俺の刀が握られていた。確かにあの刀なら竜の首を切ることも可能だろう。だがそこから発せられる力はとても弱々しいものだった。本来の力が出ていないのは明白だった。
「貸せ!」
俺は奴から刀を引ったくり後ろに押し飛ばし竜の前に構えた。
「な、何をしてい………」
後ろから奴の咎めようとする声が響くがその声は途中で途切れることになった。
俺は再度放たれたらブレスを刀から放った風の刃にて切り裂いた。
「ばかな………。秘剣の力をあれ程引き出すとは。……何者だ?」
俺の刀、『春風』は刃紋が風の魔法陣になっている。そのため風との親和性が高い。しかし、ブレスごと体も切り裂くつもりだったがまさか俺の風の刃がブレス一つで相殺されるとは。
金色の竜は俺に自慢のブレスを防がれたのによっぽど腹の立てたのか。ブレスを乱れ打ってくる。
流石に俺も自分に向かってこないブレスを対処することはできない。このままでは里への被害が大きくなる。少し荒っぽいが仕方ない。
俺は刀を鞘に納め居合の姿勢をとる。
「『風の秘刀・狂風』ッ!!」
『狂風』は『荒風』よりは風が鋭利ではないが、強い風を生む。それによって竜の巨体も広げていた翼が功を奏して森の奥に吹き飛ばされる。
金色の竜の後を追いかけた。しかし空中でバランスが崩れグラグラしていた竜の体が突然巨大な魔法陣に包まれた。その瞬間、竜の姿が消えた。
「どこにいった?空中で身を隠す手段はないと思うが」
すると魔法陣があった場所の中心に人影が見えた。目を凝らすと少し燻んだ金色の長髪に青と緑のオッドアイズで少し幼さを感じる美しい顔立ちの少女が空に立っていた。
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