序章 2話 神の依頼
やっと起承転結の『起』が終わりました。これから主人公はどんな物語を作っていくのか。
はぁ、最後に油断したか………。なんて滑稽な死に方だ。……奴もそう思ってるだろうな。………まぁ、しかし全ての神は滅した。……これで……世……界も………多少は……。
そして、俺は光に身を任せた。
………が、俺の視界は突然、光から闇一面の光景になっていた。
「全く、アムシリス《・・・・・》はなんてことやっているんですかねぇ。せっかくの私が選んだ子だというのに」
目の前に一人の神がいた。その神は全身が漆黒の靄のようなものに包まれていたが顔に異常に口角が上がったホラーマスクを被っていた。その謎の神はヤレヤレといったように手を広げていた。
神?何故?全て滅ぼした筈だ。俺が死んでいないのは分からんが、神を野放しにする訳にはいかない。
彼は刀の柄に手をかけ居合の姿勢をとる。謎の神は彼をまったく警戒していないのか、彼が戦闘体勢をとっても何も反応を示すことはなかった。
「………『風の秘刀・荒風』」
神速の居合切りに荒れ狂う風が纏い謎の神の右肩から左腰にかけて必殺の一撃が襲う。それはあまりに静かであり、刀を鞘から解き放つときでさえ一切の音を立てない。
………しかし、その斬撃は空を切ることになった。決して彼の斬撃が躱された訳でもない、ましてや空ぶった訳でもなかった。彼の斬撃は謎の神の体をすり抜けていたのだった。
「ッ!」
ほとんど表情の変わらなかった彼に初めて驚きの表情が生まれた。謎の神は彼の方に体を向け。
「いやぁ、好戦的で結構結構。まったく本当に君はなんて素晴らしい子なんだろう。あぁ、ちなみに私は境界神テシャヌス……これからよろしく」
「…………」
「ん?さっきの攻撃のことが気になっているのかね?あれは私と君の間に境界を張ってお互いに干渉できないようにしたまでだよ。ここは私の世界だからね、そのぐらい造作のないことなのさ」
「どういうことだ?俺は最高神と戦っていたはずだ。それが何故お前の世界とやらにいるんだ」
どう考えてもおかしい。奴は神だ。魔力の感じからも神で間違いない。それが同族を滅ぼしている俺に何をするきなんだ?
「君は選ばれたんだ。この私に。そしてこれから君は他世界に行ってそこの最高神を倒して欲しいんだよねぇ」
「他世界?」
『他世界』とは聞き慣れない言葉だ。そんな単語は聞いたことがない。しかも最高神を倒して欲しいというのもよく分からん話だ。何故、神が神の討伐を依頼するんだ。神にも敵対関係などがあるのか?
「まぁ、急に言われてもよく分からないよねぇ」
「あぁ、全くだ」
「仕方がない。この私が懇切丁寧に教えてやろう」
マスクを被っていてもきっと気味の悪い笑み浮かべているのだろうと俺にはわかった。しかし、俺はそんなよく分からない神テシャヌスを不思議と嫌ではないと感じてしまっていた。
まぁ、今はこの神とは別空間に切り離されている、無理やり切り裂くことも可能だが、………取り敢えずこの神の話を聞いてからでも遅くは無いだろう。
そうして俺が刀を降ろし、戦闘態勢を解いた。そのことがこの神はよっぽど嬉しいのか、マスクを震わせなが笑った。
「いや〜、やっと話を聞いてくれる気になったんですね!!私は感激ですよ!!」
そう言ってこの神……いやテシャヌスは気持ちに悪いマスクをグイグイ俺の顔に近づけてくる。
俺はテシャヌスの靄がかかった体に巨岩すら砕く回し蹴りをみまうが、勿論それはテシャヌスの体をすり抜け空振りに終わった。
「おっと、嫌われてしまったかなぁ」
俺はコイツのとてつもなく面倒な態度のため息をつきつつ話を切りだした。
「俺が聞きたいのは二つだ。俺がここに呼ばれた理由、『他世界』とはなんなのか。説明してもらおう」
「あぁ、分かっていますよ。まず、あなたを呼んだのは私の依頼を受けてもらいたいのです」
「依頼だと?神からの頼み事など御免被る。冗談じゃない」
俺は世界のため世界から自由を奪う神を目の前のやつを除き全て滅ぼした。なぜなら神は下界の繁栄を望まない。自らが世界の頂点に君臨し続けるため。
そのために神々は大きく国や街に破壊の限りを尽くし、下界の者に恐怖を植え付け、その心を支配した。それが神々の真実、奴らは決して信仰されるような存在ではなく、下界の全ての者にとっての敵なのだ。
そんな奴らからの依頼など天地がひっくり返ろうとも受けることなどない。
「ふぅむ。しかしこれは君の目的を達するためには非常に良い提案だと思うのだが?」
「………」
俺は首を振り先を促した。
「取り敢えず、依頼の内容を聞きたまえ。私が君にやって欲しいのはねぇ。私が君を他世界に転移させ、そこの最高神、全ての神を滅ぼして貰いたい。この世界のようにね。この世界には実は今まで君の生きていた世界だけじゃないんだ。他にも存在する。そしてそれぞれの世界は序列で分けられ、その序列順に様々な権利が与えられるのだ。しかし!!この世界、ミドガルズは五つある全てのなかで最も低い序列に位置しているのだ!!実に……実に嘆かわしい」
そうテシャヌスは首をヤレヤレと横に振る。
「つまり、お前は俺に他の世界を滅ぼし、このミドガルズの序列をあげて欲しいという訳だな」
「まぁ、そういうことだね」
しかし、腑に落ちない。何故俺なのだ?見たところテシャヌスはさほど弱い神ではない。少なくともあの自爆最高神よりは強いと見える。
俺が訝しげにしているとテシャヌスは……。
「何故この境界神ならぬ最強神テシャヌスならば例え序列の高い世界の神だろうと潰せるのですが………」
「なんだ。なにか問題でもあると言いたいのか」
テシャヌスは勿体ぶるように首をねじり。
「基本的に他世界へ干渉は禁じられている。もしこの私がいこうものならその世界だけでなくその他の世界にも目をつけられて袋叩きにされてしまうのだよ。流石にそんな状況になれば、私は一瞬で滅ぼされてしまう。そこで君のような人間の出番というわけだよ」
なるほど確かに俺は魔力を完全に自分の中に抑えることができる。それならば他の世界の神々に気づかれることはないだろう。
しかし、俺の怪訝しているのはそこだけではなかった。
「………わかった。一度は死んだ身だ。しかし、全てが終わーーー」
「それでは早速、序列第四位ヨドガルズの旅にご案内しようッ!!」
「待ーーー」
目の前に『神の残光』のような閃光が現れ俺の制止はそれと共に掻き消された。あまりに眩しい光に俺は目を閉じることを余儀なくされた。
まぁ、やるだけやってみるか。
それが俺がこの世界で残した最後の言葉だった
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