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THE CHILDReN  作者: 京華月
17/24

第17話:「本性」

薄暗い乳白色の天井。

俺は自室のベッドに体を横たえながら、一心に天井を睨みつけていた。

ボーーン。ボーーン。

柱時計が伸びやかな音を発している。

一体……誰が、桑田さんを?

頭の中を支配するものは、ただそれだけだった。

もしも……この塔の中にモグリがいるのなら……。

次から次へと大人たちが無残に殺害されていくのではないだろうか?

頭の中が徐々に真っ赤に染まり行く。

もしも……この塔の中に共存の考えに反対する者がいたのなら……。

俺の目の前に、不気味な笑みを浮かべた「そいつ」が牙を向く。

鋭利な銀ナイフが俺の喉元に……。


「まつぞえさん」


えっ!?

心臓がドクンと脈打つ。

俺はベッドから跳ね起きた。

背筋に氷を入れられたような感覚だった。


しかし、目の前には緑色の制服姿の笑顔があった。

視界が徐々に冷静さを取り戻していく。

大垣真理恵。

視界が冷静な判断を取り戻したようだ。

俺はホッと胸を撫で下ろした。

彼女はかわいらしく、クスクスと微笑んでいた。

えっ? 何故笑われているんだ?

「申し訳ございません。扉が開いていたので、勝手に入ってきてしまいました。松添さんはベッドで横になっていらっしゃったので、寝ているのかなと思っていたんですけど、パチリと目を開いて何事かつぶやいていらっしゃったので。声を掛けてみたんです。驚かせてしまってごめんなさい」

真理恵は相変わらず律儀に一礼する。

突如、申し訳なさが胸を支配する。

「えっ!? ああ、いや……べ、別に大丈夫だよ!!」

もう……何だかやりにくいなあ。

どうも、真理恵の前だと狂わされる。

「いえ、申し訳ございません。それでは、昼食にご案内させていただきますので、ご準備をお願い致します」

その言葉に、俺はチラリと壁の柱時計を見た。

時計はてっぺんを刻んでいた。

そうか……もう、お昼になるのか。

俺はいそいそと靴を履いた。

そういえば……。

1つだけ気になることがあった。

未だに真理恵に聞いていなかったこと。

それは、真理恵が何故この塔にいるのかだった。

こんな清楚で真面目な人が、今の世界を恨んでいるなどと想像できない。

しかし、何かしらの理由がなければここにはいない。

気になる……。

聞いてみたいな……。

どっちにしろ、先の愛輝との約束では、俺は女性担当だ。

塔内の女性たちと世間話をして、何かしらの情報を引き出さなければならない。

それならば……むしろ、聞かなきゃダメだ。

そこで、俺は何気なく聞いてみることにした。


「大垣さんは何でこの塔に来たの?」


突如、真理恵の表情が曇った。

先程までの笑顔はどこかに消え失せてしまった。

あっ……聞いちゃまずかったのかな?

俺はひどい後悔の念に駆られた。

真理恵のこんな表情は見たくなかった。


「何故……ですか……?」


まるで、気の抜けたような真理恵の表情。

どうしたことだろう?

俺の後悔の念は焦燥感に変わっていた。

何とかして、真理恵の笑顔を取り戻したくなった。

ひとまず、今回は聞くのをやめとこう。

「あっ、ゴメン。やっぱり、無理に言わなくても……」


「私の姉を殺した子供たちが憎いからですよ」


ゾクッ。

獣のような野太い声に背筋がなぞられるような感覚。

え……?

今の、本当に……大垣さんの、声なの……?

俺の、知っている、大垣真理恵の声なの?

本当に、目の前に、俺のすぐ目の前に立っているのは、大垣真理恵なの?


突如、真理恵の真っ赤な唇が鋭利に曲がり、白い歯が剥き出しになった。


「ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャーーーーーーッ!!」


まるで蝙蝠の大群が無邪気に泣き喚いているかのような笑い声がこだました。


わからない……。

今、この状況を読み込めない。

目の前にいるのは、誰?

本当に「こいつ」があの大垣真理恵なのか?

戦慄のようなものが背筋を暴走する。

ドクン。ドクン。ドクン……。

鼓動がうねり出し、爆音を発する。

胸が苦しい……。


脳裏に焼きついた恐怖。

やばい……。

殺される!?


危険を察知した俺は、咄嗟に「そいつ」の脇をすり抜けて逃げ出そうと試みた。

が、「そいつ」はガッチリと強烈な力で俺の肩を押さえつけた。


「そいつ」の爪が俺の肩の肉に突き刺さった!!

刹那、鋭い激痛が両肩を蹂躙した。


「ぐわあああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


悶え苦しむような痛みの中、不気味な笑顔が、魔物のような笑みが俺の視界に飛び込んできた!!

真っ赤に血走った両目はパッチリと開かれ、口元が不気味に歪んだ「そいつ」の表情。


背筋が一瞬にして凍りつく。


「そいつ」は唾を飛ばしながら、狂ったように早口でまくし立ててきた。


「私の姉を殺したあいつらが……あいつらがいけないのよ!! ねえ?あいつらが何をしたかわかる?私の姉に何をしたかわかる?ねえ、聞いているの?私の姉に何をしたかわかるかって聞いているの!!」


爪が俺の肩を抉るようにして突き刺さる。

同時に、両肩が熱くなる。

「ぐわあああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


クククッ……と室内に不気味に響く「そいつ」の笑み。

怖い……怖い……。

こ、殺される……。

殺される……。

ふと、1人の少年が蘇る。

ま、愛輝……助けてくれ!!

助けてくれ!!

「こいつ」は、危険だ!!

まだ、俺は死にたくない!!

死にたくないよ……!!


「あいつらはね……何者かに刺された姉を無視して、救助しなかったのよ!! 見捨てたの!! 理由は23歳だからですって!! 何それ!? 23歳は救急車の公務の範囲に入っていないって言うの?許せなかった許してなるまい。許したら姉が浮かばれない……。私は奴等を裏山に呼び寄せたわ。メッタ刺しにして皆殺しにしてやったわ!! 犯人の女の子は逃しちゃったけど、私は諦めない。諦めちゃダメ。私は……ケヒャ!! 必ずこの手であいつを捕まえて、喉を引き裂いて息の根を止めてやる……」


ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケッ。


俺は怖気と痛みに襲われながら、脳裏にとある記憶が蘇ってきた。


まさか……まさか、あのときの……。

夕闇の教会通り。

湖から運ばれてくる水の香り。

ピンクのワンピースの女性。乳母車。

真っ赤に染まった頬を舐める殺人鬼。

真っ赤に染まって泣き喚く乳母車……。

まさか……まさか……。


そして、学校の裏山での5人惨殺事件。

誰だか判別できないほどに引き裂かれた犠牲者たちの顔。

まさか……そんな……?

「こいつ」があの時の犯人!?


そして、犯人の女の子って……。

栗色の髪の少女の笑顔が脳裏に蘇る。


ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ……ッ!!


目の前の殺人鬼はいつまでもケタケタと笑い狂っていた。

狂い笑いはとめどなく脳内にこだましていた。







気がつくと、やや赤らんだ乳白色の天井が眼前に広がっていた。

広々とした雄大な窓からは真っ赤な西日が差し込んでいる。

……。

寝汗がグッショリとシャツを濡らせていた。

気持ち悪い……。

いつの間にか、ベッドからは転げ落ち、床の上で寝そべっていたのだ。

何ともひどい寝相だな……。


突如、脳裏に浮かんできた魔物のような「あいつ」の不気味な笑み。


あっ!! 「あいつ」は……?


俺はきょろきょろと室内を見回す。

心臓の鼓動が止まらない。

ドクン。ドクン……。

両目を酷使して警戒にあたる。


誰もいない……。


ホッ……。


安全を確信したのか、鼓動が急速に緩くなる。

「あいつ」はどこかに消え失せたようだ。


カチッ!!


突然の機械音。

ビクッと体が痙攣する。


ボーン。ボーン……。


何だ……時計か……。

冷や汗が頬を伝う。

時計の針は5時を回っていた。



じゃあ、夢……だったのかな?

先程の恐ろしい光景。

血走った両目。真っ赤な唇からはみ出した白い歯。

ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!っという笑い声が脳裏にへばりついて離れない。

夢にしては、かなりリアルな夢だ。


そうだな。夢に違いない!!


しかし、起き上がろうと肩に力を入れた瞬間。その可能性は否定された。

ズキッ!!

「……っ!!」

両肩に鋭い激痛が走った。両肩には小さな穴が1つずつ開いており、どす黒い血液が滲んでいた。


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