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09☆おとぎ話

 ここはアテナイの町。ある施設ではソクラティスとサンドラがいつものように働いていた。


「ねーちゃん、遊んで遊んでー!」


「だーもう! わかったから髪を引っ張るなー!」


 相変わらず切れ気味のサンドラ。加減を知らない子供たち。


「ふふっ。サンドラはみんなに好かれているのですね」


「これのどこがそう見えるのよ!?」


 この施設でやることは大半が子供の相手で、その他はあまり多くない。初めは疲れやすかったサンドラは、今はこの生活にすっかり慣れ、あまり疲れなくなっていた。


「ヤケドなおってるー」


「つまんなーい」


 そうだ。傷も癒えた。後は何とかして王都の状況を把握、そしてどうにかして屋敷に帰るんだ。


「でも……」


 今ではコイツらも愛おしい。世話が必要な彼らを捨てていく気にはなれなかった。


「どうしよう……」


 悩むサンドラに、子供の猛攻が放たれる! 最初に出会った子供のトムをはじめ、サンドラは何人もの男の子に攻撃を受ける。


「スキありー!」


「ぎゃあああ!!!」


「男の子の遊び相手になってもらえて、助かります」


 ソクラティスはマイペースに微笑んでいるだけだ。


「向う脛を蹴るのはやめなさい……!」


 結局怒り心頭。そして子供に逃げ切られるのがいつものパターンだった。


「何であたしがこんな目に……」


 ソクラティスはおままごとの相手や、女の子の遊びを担当している。


 いったいこの差はどうして生まれたのだろうか。天才的な頭脳を持つサンドラにもそれは理解できなかった。


「は~い。おままごとの次は先生の読み聞かせですよ~」


 どこかふわっとした彼女は子供の前では先生を自称するが全然浸透していない。そのことを気にしない様子もどこか彼女らしかった。


 トムの妹、リンをはじめ、サンドラと遊んでいた子供もそちらへ向かった。


「…今日はこの国に伝わるおとぎ話です」


 いつも帰る前には読み聞かせをする。それ自体珍しいことではないのだが、今日のソクラティスはどこか物憂げだった。


「万物は流転する。それは川のように決して止まることはない。昔の王様はそれを知っていた」


 すぐ寝てしまった子の頭を撫でながら続ける。


「…」


 てか寝るのはやっ。


「王様は川の流れる場所に国を作った。それがこの国。グリース。いなかる時も王は止まらなかった」


「しかし、ある時王は気づく。みんなが自分についてこないことに。そこに天使たちが現れ、これを救った。めでたしめでたし」


「ははー。なにそれー!」


「くにをつくるー?」


「てんしさまはどうやって王さまをたすけたの?」


 子供たちは様々な反応をする。確かにこのおとぎ話にはいくつか肝心な部分が欠落している。


 ま、あたしにとっては神も天使も縁がないけど。王だって生まれが良くないと王にはなれない。大半の人間には何も成し遂げられない。


「ごめんなさい。この部分は先生もわからないの~」


「要するに、自発的に自由の創造をしろってことでしょ。あとやり過ぎるなって所かしら」


 幸せは生まれによる、なんて夢のないことは流石に言えない。


 このおとぎ話は貴族の頃から聞かされていた。賢いサンドラは子供の頃からこの教訓を十分に理解していた。


「んー? むずかしいー」


「うーん…」


 ふふん。子供にこの話を理解するなんて、あたし位頭が良くないと無理よね。


「大人になればわかるわ」


「そっか!」


 彼らは純粋だ。まだこの国の状況を知らない。これから革命が起きるとも知らない。


「……」


 自分は大人になったな、とサンドラは思う。他人を諭すなんて、貴族の頃のあたしだったら絶対にしない行為だ。あそこはもっと……いや、負の感情を抱くのはやめておこう。自分の心まで腐ってしまう。


 それよりも……再びちょっかいを出そうとしている目の前の悪童をどうにかせねば。


「そろそろ帰る時間ですね」


「やっとか」


 危うくもう一度蹴りを入れられる所だった。


 確か両親が出稼ぎに行っている子供たちがほとんどのはずなので、週末には子供たちは帰ることになっている。


 と思えばぞろぞろと保護者たちが施設に入って来た。


「皆さん。こんばんは。いつもお疲れ様です」


「やあやあ聖女様、いつもありがとねえ」


「本当に助かっているよ。はい、お礼」


「これ、お土産だよ」


「いいえ、別にいいですって……」


「「いいからいいから」」


 相変わらず断るのが下手な奴だ。これなら生活に必要なものを買う必要がない……ああ。いつぞやセリスが言っていたのはこういうことだったのか。


 しかもこの施設。子供を預けるのに保護者からお金は一切頂いていないそう。全て騎士団のポケットマネーで賄われているらしい。 


「じゃあねー! ねーちゃん! 聖女様!」


「どうかお幸せに……」


「ああ。じゃあね」


 今生の別れじゃないんだからさあ。


 最後に残ったトムとリンを見送り、ようやく彼女たちは一息つけるようになった。


 そして談笑しながら片付けが終わるころにセリスが顔を出す。


「やあ二人とも。元気にしてるかい?」


「はい。今日も皆さんは幸せそうでした」


「……」


 正直、用もないのに来てほしくない。サンドラはそんなことを思っていた。


「用があるから下りてきたんだよ」


 鋭い。思考が読まれているなんて。なんか嫌だ。


「キミたちもそろそろただの水浴びには飽きてきただろう?」


「……え?」

「ふみゅ?」


「サウナというものを作ってみた。一緒に入ろう」


「え。え?」


 セリスに引っ張られるがまま、二人は施設の近くの建物へと引っ張られていった。














誤字報告していただきありがとうございます。


20話前後で完結させる予定ですのでもう少しお楽しみ下さいませ。

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