19☆ふたりの結末
走り疲れたふたりは、石造りの町を歩いていた。このまま逃げ切れるとは思えない。今は彼女たちに残された最後の時間だ。
「サンドラ」
「何?」
「ありがとうございます」
「い、いきなり何よ?」
「記憶を思い出した時、あなたは最後まで私に手を差し伸べてくれましたね」
「ああ、そんなこと」
サンドラは照れ隠しにあまり気にしないフリをした。後ろでは城が崩れる音が遠雷のように木霊していた。
「ティスだって、ひとりぼっちだったあたしを救ってくれたわ。この前も。ずっと前も」
ずっと前。王だった彼女の前世の記憶である。
「なんだ、そんなことですか」
「……馬鹿」
「……うふふ♪」
仕返しだ、といわんばかりに彼女の顔はにやけていた。サンドラもまた、最後だというのに心中は穏やかだった。
音が消えた。城は崩れた。彼女は決意をした。
「次の命でも、また。また逢えますかね?」
「と、当然よ……! でも……」
普段自信家な彼女だが、確信はもてなかった。天使と大王が出会ったのは、気が遠くなるほど遠い過去。御伽噺の世界の話だ。記憶が滲み消え失せるような悠久の時を彷徨った。そして今。次はいつになるのだろう?
「サンドラ……」
「あたしはティスに会うまで、他人なんて気にしなかった。征服、支配。それが、それだけが王族の生き方だった」
「……」
「……あんたが初めてだったわよ。あたしに反抗したヤツはね」
「……サンドラ! まだ諦めないで……! お別れはイヤです!」
気づいてしまったのか、ソクラティスはサンドラに抱き着いた。
「あたしたちは、こうなる運命────」
「あのときだって────」
「また、逢いましょ?」
ソクラティスの頭を撫でるように、サンドラから光が放たれた。
「最後にこれをあげる」
ツインテールをほどき、彼女の瞳と同じ紫色をしたリボンを手渡した。
「そんな……」
「どんな時間だって、世界だって」
あたしは、あんたのそばにいるから────
ソクラティスは光となった。
サンドラの【願い】はソクラティスをこの世界から救うことだった。
次で最終話です
 




