16☆空の玉座
「ようやく…!」
二人は玉座にたどり着いた。皆で協力した作戦はうまくいった。はずだ。天使の襲撃は想定内。セリスとギーヴなら、足止め程度なら可能だろう。
「ここまで到達するまで長かった気がするわ…二時間が、二ヶ月に感じるような…」
しかし、玉座には誰もいなかった。ソクラティスの能力を使う相手がいなかったのだ。
「そんな……じゃあこの国は誰が…?」
「サンドラ…」
ソクラティスの震えた声が聞こえる。
やっとの思いで辿り着いた玉座。そこには誰も居なかった。ソクラティスを使い、王を操り革命を起こす。しかし玉座は空だ。最初から計画は破綻していたのだ。
一体誰が? 誰がこの国を動かしていたの? この閉鎖的な箱庭に無機質な石と壁を置いた犯人は?
「初めから、あなたたちを誘き出す為の罠なんですよ」
「貴様…!」
ボロボロの天使。翼からは赤い肉が剥き出しになっている。エンペドクレスが現れた。しかし、あまり消耗した様子は見られない。返り血の量が多いからだ。
「みんなを……どうしたの!?」
「殺しました」
「許さない!」
サンドラはソクラティスをかばうように身構える。このままではセリスに教えられた最後の手段に頼るしかない。
「クレスさん……ここには今まで……誰がいたのでしょうか?」
「……」
クレスは少し俯く。
「全ては……予定調和なんですよ。この国は造り物です。王は偶像。完全な天使を生み出す為のね」
「あんたの目的は、完全な天使ってこと……?」
「そうですね」
「……そ」
目の前にいるのは圧倒的な力を持った天使。勝てない。
「逃げるわよティス!」
「させません」
「ハッ! スピードじゃ負けないわ!」
クレスが操る火の魔法。──拘束の火の輪をさながらサーカスのように。サンドラは華麗に避ける。
「ティス! 捕まって!」
「はい!」
勝算が無いわけではない。こっちには逃げ足と、無敵の能力があるのだから!
「火、のみでは厳しいようですね。では風も操ります」
消耗を少なくしようとしているのか、その決断は速かった。突風のような威力の向かい風。広範囲の火。
「無駄よ! はぁぁぁ!」
ソクラティスを抱え、無駄のない動きで攻撃を回避する。風すらもうまく利用し。どちらが魔法使いなのかわからないほどだ。
「あの時を思い出しますね…」
「そうかしら? いつだって運は私に味方しているの!」
「……ちっ」
「あんたなんか余裕…ってえ!?」
「覚悟を。次は四属性、ですよ?」
「まずい…喰らうっ! これほどの範囲…間違いなく倒れる!」
エンペドクレスの真骨頂。先ほどヘラクレイトス、クサンティッペを撃破した程の膨大な魔力。四属性は台風のように周囲を巻き込み、膨張を続けていた。
「サンドラ!」
「ティス…」
お互いに抱き合う。極限状況が彼女らをそうさせるのだろうか。
「早く、命じて下さい…」
「いいえ。ティスは生きるのよ」
「え…!?」
気絶は免れない風の威力。あの夜受けた火傷以上の被害であろう火の勢い。床を破壊しながら。土、水のエネルギーも込められているだろう。
だが。
「この感じ…! いける!」
サンドラの掌から火の壁が生じた!
「何!? 火の魔法!?」
「サンドラ!」
「まだまだ!」
敵の勢いに合わせ、次々と生じる魔力。水、土、風。エンペドクレスの操るものと同じ威力だ。
「やはり。王の器ですね」
「あたしの真名は、アレクサンドラ。神話に存在した。王の一族の末裔よ。秘密だったけどね」
人々を導く力。それこそが天使から受け継いだ魔法の力。同じく神話にあるの完全な天使と共にいた、完全な人間である。
「これはセリスにも教えてない。知ってたかもしれないけど。ソクラティスを犠牲にして天使を倒すよりはあたしが戦ったほうが確実! あんたを倒して、この国を変える!」
「愚かな人間ですね。その力は元々は私たちのもの。返してもらいます」
最後の決戦。雲は晴れ、空は割れ太陽が顔を出した。
どんどんフラグ消化してる…と思います!




