15☆残酷な結末
「予想外だね。ここまでの強さを誇るなんて」
ボロボロになった剣を握りながらセリスは軽口を叩く。仲間を逃がし、二人で敵の足止めをする。目的は半分果たした。あとは奴を倒すだけ。
「そりゃあ相手は天使だもんな」
ギーヴも平静を装っているが、かつて伝説と呼ばれた男の動きに体がついていけていない。二人の軍隊ひとつに匹敵するといわれた体力も今は限界に近かった。目の前の天使一匹、足止めするのがやっとの状況だ。
「コロ…シテ…」
自身の能力に苦しみ、命を削って戦う敵。クレスの魔法によって操られているせいで、死にたいという願いすらも叶わないのであった。
「まったく。あと何回避ければいいんだか」
消耗品である天使を殺す方法はある。それは魔力を枯渇させ、文字通り命を使いきることだ。残酷だが、「道具」である天使には勝ち負けという概念がない。人間の争いの為の「道具」なのだから。
「次の攻撃、来るぞ!」
ギーヴが叫ぶ。命の塊を飛ばし、触れれば怪我では済まない威力だ。
「おおおっ! …っとまずいな」
もう駄目だ、避けられない! セリスは迫り来る死をあっさり受け入れた。自分が死ぬのは怖くない。ただ…隣にいる愛する人だけは…
「ああくそ、畜生ッ!」
間一髪。彼の助けが無かったら死んでいた。その代わりに彼が致命傷を負ってしまった。
「そんな……何で!?」
「ぐっ…わからねえ! 体が勝手に動いたんだ! 傭兵やってた時はすぐトンズラこくんだが……」
腹部から大量の出血。これは……助からない……
「そんな……あと少しで倒せるはずなんだ。あと、ほんの少し」
「あー、こりゃ動いたら死ぬやつだ。俺と奴、どっちが先だろうな……?」
彼もあっさりと死を受け入れるタイプなんだな。変な所で似ている。
「やれるだけやった。お前と一緒に逝けるなら悪くねえ」
「ははは……」
最後の口づけは土の味だった。幾度も戦場で噛みしめた嫌な味だ。だが、不思議と嫌な気もしない。
「クルシイ……キエテ!」
ソクラティスの声。複製なのだから当然だが、彼女にはそうなって欲しくないとセリスは思った。やや足りないが、最低限時間は稼げた。ボクたち人間は天使には敵わないけど、サンドラ。キミたちなら念願を果たせる。セリスは最後に祈ったのだった。
「オワリ……コロス!」
歪な翼。その姿はまるで東洋に聞くカゲロウという虫のようだ。彼女に罪は無い。はぁ……ここで終わる、か。きっとあいつらならうまく乗り切れるはずだ。ギーヴは何の心配もなく、天を仰いでいた。
「そうはさせません」
氷の壁が、二人を守った。凛とした佇まいに、いつ見ても眩しいメイド服。
「お前は……アリストテレス!」
「どうやらキミは氷魔法を使えるようになったんだね」
「ええ。敵に操られていた時から予兆はありましたが」
それも練度が高い。これなら瀕死の奴一体くらいなら。
「早速ですが、残念なお知らせです」
「何だい?」
「敵の天使は一体だけではないようです」
「……そうか」
瀕死の天使の他に二体。ソクラティスのコピーが現れた。
「既に一体、城の内部に天使の反応がありますが……こちらの戦力は限られています。玉座を守る為、ここは門を死守しましょう」
「ああ。わかった」
傷口は氷で固めた。どうやら、まだ舞えるらしい。
「三対三、最後の戦いといこうか。皆」
剣を手に、セリスは不敵に微笑んだ。
読んでいただきありがとうございます。
一度は筆を投げてしまいましたが、完結までもっていこうと思います。どうかもう少しお待ちください。




