14☆圧力
サンドラはソクラティスと共に走っていた。計画は破綻、殆どの者が撤退を余儀なくされた。まさかこんなことになるなんて。
「さっさと逃げれば良かったわ。あいつらは無事かしら」
「なんだかんだ言ってサンドラさんは優しいんですね?」
敵地だというのにソクラティスは呑気だ。
「勘違いしないで。死なれたら困るから心配してあげてるのよ」
「セリス様たちなら大丈夫です。私が保証します」
「…あんたが言うならそうかもね」
セリスとギーヴふたりで偽のソクラティスを相手しているのだった。
他の仲間は一時撤退させ、サンドラたちだけが本陣に突撃する。こんな手筈のはずだが、本当にうまくいくのだろうか。
「恐らくあたしたちは囮よ。何かをおびきだす為のね」
「囮?」
「孤立したあたしたちを狙って……そろそろ」
「……」
立ち込める殺気。どこからか人形たちが現れあっという間に包囲された。
「待っていましたよ」
「クレス……まさかあんただったとはね」
眼鏡を外した姿だが、声や仕草から彼女はクレスであることが分かる。
そして目的も。
「あなたたちを拘束します」
「先に行っておくけど無駄よ。こっちには天使がついてるの」
「……」
人形のみではない。城内の柱、絨毯、暖炉の炎まで操られている。
「あ、あんたも」
「そう。ソクラティスを模して造られた天使です」
天使同士の戦いは勝負はつかない。切り札と切り札の戦い。しかしサンドラたちには達成しなければならない目的がある。このカードは使えない。
「選択肢はない。そうでしょう?」
彼女に従って捕まるか、目的を果たさずにここで能力を使うか。
「サンドラ……」
ソクラティスはサンドラを見つめている。命令を待っているのだ。
「私は……」
できない。選べない。どちらも負け。結末は死か死。
人形が二人ににじりよってくる。待っているのは──
「ここで終わりです」
──────
「それはどうかな」
炎がひとつ、風がひとつ。
「あたいたちに逆らったらどうなるか知ってるな、裏切り者!」
新たに風魔法を会得したクサンティッペ。ヘラクレイトスと抜群のコンビネーションで人形を一掃する。
「おや、おや」
予想外といったようにクレスは呟く。
「火と、風ですか」
「そうさ! あたいにも時代がまわってきた! 2対1だ、諦めな!」
「ふむ──────」
火と風、そして水と土が一気に動き出す。
「私の真名はエンペドクレス。火、水、土、風。4属性を同時に操れます」
「何っ、く、ぐあああ!」
「ぐっ……成程」
助太刀に来たふたりが同時に吹き飛ばされる。
「予定が伸びましたがまあいいでしょう。玉座には誰もいませんから」
「チップ……ふたりで奴を倒すぞ!」
「おおともよ!」
玉座には誰もいない。それを聞かないうちにサンドラたちは進んでいくのだった。




