12☆睨み合い
時は進む。王都で二番目に立派な屋敷。サンドラ邸である。極秘で騎士団を派遣し、今や作戦本部となっていた。
「あたしの屋敷……」
「勝手に占領してすまない。だが王都の監視をかいくぐるにはこうするしかなかったんだよ。ここなら奇襲地点に近く、危険な武器も保管できる」
「身勝手な大人ね」
「神経質な子供だ」
アリスが拉致され、誰もいなかったこの家にまさか騎士団が住み着いていたとは。抜け目がない大人だ。
「では、革命を起こすとしようか」
その瞬間、火炎が屋敷の周辺を包み込んだ。
「この火は……ッ!」
サンドラの頬がズキンと痛んだ。
「よーお、久しぶりだなあセリス」
屋敷の外から男の声が聞こえる。
「傭兵団です。どうしますか?」
「想定内さ。丁重におもてなししてあげよう。クレスはうまく脱出して城に向かいなさい」
「はい」
「……炎で退路がふさがれた。家が燃えなきゃいいんだけど」
「本当に殺すつもりなら、わざわざ名乗ったりはしないさ。ボクひとりで行く。コーヒーでも飲んで待っていなさい」
そう言うと彼女は武器も持たず単身で玄関に向かっていった。
「大丈夫なのでしょうか……」
「……さあね」
「誰も争わない世があればいいのに……」
「おっと。そういうことは願わないの。何でも、まずは行動よ!」
「はい!」
そう言い、ふたりもセリスに続いて行くのだった。
────
「なんだい、ついてきたのか」
緊張しているように見えた。怯えているように見えた。死を覚悟した表情だ。言葉とは裏腹に彼女の様子は頼りないものだった。
「最後にお前と話がしたかった」
彼女の武器と同じ──大剣を背負った男性が話しかける。その後ろには因縁の──追いかけまわしてきた奴らがいた。
「やあギーヴ。元気にしていたかい?」
「おう」
旧友の再会──どこか影を差すふたつの光が、交差した。
「王都を裏切ったってな。そう聞いてるぜ。騎士の忠義はどこに行ったんだか」
「今の王は傀儡に過ぎない。キミも操られているのさ」
「……知らねえな。お前を信じうる証拠を示してみろ」
「……私にはできないな。残念ながら」
「じゃあ死ね!」
男は剣を振り下ろし、女の前で寸止めする。セリスは一歩も動かなかった。
サンドラの眼にはギーヴがアリスのように操られているようには見えなかった。彼女の言うことはどこまでが真実なのだろうか?
「キミはそういう男だ。知ってたよ」
「お前も昔っから相変わらずな女だな」
ギーヴは剣を収め、傭兵団は武装を解除した。炎に包まれた屋敷も嘘のように元通りになっていた。
「作戦は?」
ギーヴが訊いた。
「とっておきのものがある」
セリスは答えた。そこにはいつもの自信に満ちた彼女の雰囲気が戻っていたのだった。




