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10☆メイドの襲来

「なんでサウナに一緒に入らなきゃならないのよ……」


 サンドラ、ソクラティス、セリスの三人はそこそこ狭い蒸し風呂に入っていた。三人はタオルを着用し、くっつきながら座っていた。左から体が小さい順だ。


「なんかバカにされてる気がする……」


 一番左のサンドラは最初のうちは文句を言いたげだったが、久しぶりのサウナにすぐに機嫌を取り戻したくさん汗を流しリラックスした。


「…こういうのも悪くないわね」


 最近激しい運動が多かったからか、こういうまったりとした時間が身に染みる。


 とりとめのない話もそこそこに、ソクラティスはすぐにこう言いだした。


「うーん…暑いですぅ…」


 ティスはもうギブアップらしい。申し訳ありません、と短く呟き、蒸し風呂部屋を出ていった。


「…我慢くらべといこうか? サンドラくん?」


 セリスが軽く挑発してくる。汗をかき、タオル姿の彼女は妙に色っぽかった。


「…その勝負、乗ったわ」


 勝っても何かが得られる訳ではない。しかし、負けられない気がするのも事実だった。サンドラは本気で暑さに耐えた。不思議と身体は耐えてくれた。


「なかなか耐えるね」


 サンドラは沈黙で賞賛を受け取る。実際セリスよりもサンドラの方が驚いていた。


(何だろう。身体が熱と一体化したような、変な感覚だわ)


──この熱は、あの満月の夜を思い出させる。あたしにとっては屈辱の日だわ。


「うむ。勝負は預けるとしようか。まるで火に炙られている気分だね」


 大分消耗したのだろう。セリスはよろよろと立ち上がり、サウナ室を出ようとした。


「何言ってるのよ? 勝負をしかけたのはあんたの方で…っ!?」


「誰かがこの施設に近づいている。何者かはわからないが、相当の使い手だね」


 ピリピリとした冷たい殺気が全身に突き刺さる。どこか覚えのあるような、無いような。


「このままじゃティスが危ない!」


「そういうことだ」


 サンドラは急いで部屋を出た。タオルはしっかりと巻いて。



──


「ふうぅ…サウナの後の水浴びは格別でした…♪」


 少し遡ること、サンドラたちが意味のない争いを行っている間。ソクラティスはひとりでのんびりと庭を歩いていた。施設の周りは美しく飾られ、夜の光に照らされ様々な花が異なる色で飾られていた。


「ふみゅ? こんなお花咲いてましたか?」


 冷たい色をした花が気づかぬうちに咲いている。いつからここにあったのだろう。


「失礼します」


 そこには薄氷を散らせ輝く水色のロングヘア。露出のないロングスカートのメイド服。しかし服の上からでもわかる美しいボディライン。姿勢は非の打ち所の無いほど堂々としている女性が目の前に立っていた。


「あの、あなたは?」


 その女性はどこか悲しげに何かを呟いた後拳を振り上げる。


「え?」




 純白無垢な花。当たり前だが、踏みつぶされれば死ぬ。




 無慈悲な拳がソクラティスの身体を貫く。



──




 はずだった。


「いきなり暴力とは、乱暴なメイドだね」


 両手に持っても支えきれない重さの剣を片手で盾のように扱い、ソクラティスをかばいながらセリスは呟く。


「あなたは関係ありません」


「いいや──あるともっ!」


 数秒で、数十回。


 剣と拳の応酬が続く。


「バスローブ姿とは随分舐められたものですね」


「強引なのは嫌いじゃないが、彼女を狙うならせめて予約くらい入れておくものだよ」


 減らず口もそこそこに、体力を消耗していたせいか、セリスはどんどん劣勢に追い込まれていた。


(この獲物を使うのは何年振りだったかな? やけに重いな……)


「アリス!? 何でっ!?」


「お嬢様…!」


 遅れてきたサンドラが叫ぶ。何故メイドのアリスがソクラティスの命を狙う?


「今だ!」


 一瞬の隙を突き、剣を捨てセリスはアリスの体を組み伏せる。


「ぐっ…」


「馬鹿力だろうとこうしてしまえば無力化できるんだ。旅行ついでに極めた東洋の武術だけどね」


「ぐぐぐ…」


 まるで下手な操り人形のように、アリスは何度も体を跳ねさせている。


「あとは……サンドラ! 彼女の()()を…言うんだ!」


「え? え?」


「現状を打破するっ! 急げ!」


「「()()()()()()()…!」」


 サンドラが発言すると同時に、ソクラティスも同じ言葉を発する。


 空間、時間。あらゆるものから隔離された──あるいは干渉されない場が生まれた。そんな瞬間? 永遠? サンドラにはわからない。ソクラティス…一体何を?


「あなたを裁きます」


 裁く? そんな疑問と一緒にその空間は膨張し、消えた。


「あなたを許します」


 判決は一瞬だった。アリスは力を失ったようにぐったりと気を失った。


 その後、ソクラティスもまた、倒れた。サンドラが支え、彼女の体に傷がつくことはなかった。


「ふう。何とかなったね」


 冷や汗を拭いながら、セリスは言う。


「何を…したの?」


 サンドラは茫然と立ち尽くすしかなかった。


「おとぎ話の天使の力さ。うまく隠蔽されていたけど、名前さえわかればあらゆるものを操る能力。時間などの概念はもちろん、あるいは人間にかけられた暗示を解くことも容易にできる」


「そんな……ありえない」


「キミの知っている魔法だって天使の力の一部に過ぎないのさ。理解はしたね?」


 納得はできない。何故、ソクラティスが。


「この魔法には彼女の寿命を使う。だが彼女の命が無くなるのに比べれば今回はやむなしだったね」


「寿命……!」


 セリス。この女はソクラティスを使って何をするつもりなのか。彼女がしようとしているのは善なのか悪なのか。


 サンドラには分からなかった。


 





 







ストックが切れそうです。

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