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case.4 皇兄妹は戦いたい





「さて……ここが訓練場だ」



 城内……の地下に大きく作った訓練場(闘技場とも呼べるような)に俺たちはやって来た。



「まずは、白夜から鍛える。今日はこの世界に来たばっかだろうし、疲れもあるだろうから、ほんの基礎だけだ」



 スキル『剣技』……これは所有しているだけで基本的な剣技を使えるようになるというスキルだが、それと同時に人に剣術指導する時にも、説明すべき点がすぐに思い浮かぶという、まあなんとも都合のいいスキルだ。


 これはもともと自称転生勇者三人組のリーダー、勇斗が持っていたスキルだ。流石チート勇者よろしくのスキルだな。

 ちなみに、剣術を磨きまくれば、サタールのようにスキルを進化させることもできる。



「分かりました! 月夜はそこで見ていてくれ!」


「うん! 頑張っておにいちゃん!」



 妹に励まされた兄・白夜は俺の待つ訓練場中央へやって来た。



「白夜、お前職業は勇者だ」


「は、はい!」


「しかし、スキルが無かった。職業固有スキルや、初期配布スキルも、果ては能力値までもが無かった」



 ……こんなこと、確かにバグとしか言いようがないが、もしかすると他にも理由があるのかもしれないからな。

 ひとまずは静観するしかないだろう。



「だが、スキルが無いからと言って戦わなくて済む世界ではない。俺はこの世界に来て、自分の無力さを知った。結果的には、スキルが無きゃなんも出来ない雑魚なんだよ、俺は」


「兄貴……」


「だから、お前にはそうはなって欲しくない。少しでも、スキルに頼らなくて済むように鍛え上げたい。だから……多少厳しくいくかもしれないが…、着いてこれるか?」


「分かりました……! ちょっとチート出来ないってのは残念ですけど、でもいいんです! 月夜を守れるのは俺しか居ないからッ! お願いします! 兄貴……いや、師匠・・! 俺を強くしてください!」



 火の灯った目を向けてくる白夜。

 その目からは、確かな熱意を感じた。



「よし、それじゃあ訓練用のこの剣を使ってくれ」



 そう言いながら、俺は一本の鉄製の剣を投げた。

 しっかりと鞘に収まってるから、怪我の心配はない。


 俺から投げられたそれを、白夜は上手くキャッチした。そして、刀身を鞘から出し、その輝きを見て溜め息を漏らしていた。



「本当に……戦うんですね、俺」


「怖いか?」


「そりゃ……怖いですよ。でも、俺頑張ります。頑張って強くなります!」



 いい表情だ。

 さて……そろそろ始めようか?



「それじゃあ、まずは基礎訓練からだ。体力づくりと剣の構え方……そこから始めるぞッ!」


「はい! 師匠ッ!」



 かくして、俺と白夜の訓練は幕を開けた。





「さて、白夜にトレーニングメニューを与えた所で、次はお前だ……月夜」



 走り込みと、剣の素振りを命じて白夜は放置してきた。

 その間に、妹の月夜に魔法を教えようと思っている。



「さて、月夜」


「はい!」


「魔法で戦いたいって言ってたが、さらに細かく質問したい。お前は攻撃魔法メインか回復魔法メイン……どちらを主軸として戦いたい?」



 一概に“魔法”と言っても、種類は一つだけじゃない。俺の使えるスキル『大魔道』は、基本的にはあらゆる攻撃魔法を手足のように使えるという、これまた転生勇者が持っていたチーターよろしくのスキルだ。


 他にも、強化・弱体魔法が少し使える他、造形にも使える便利なスキルだ。


 このスキルも『剣技』同様、人に教える時に何を教えればいいかが直感的に分かるのだが……。


 まあつまり、何が言いたいかというとだな。




 ―――俺には攻撃魔法(+α)しか教えられない




 のだ。

 もし月夜が、回復魔法メインで戦いたいと言えば、それは俺ではなくアスモフィに指導をお願いした方が良い。



 まあ、今やってるのは、まじでただの基礎積みだから……本番はこれから、って感じなんだけどな。

 ここには色んな武器や術のエキスパートがいるからな……多少の基礎や感覚さえ掴めれば、あとは魔帝八皇達アイツらに任せた方が良いだろう。



「うーん……私が好きなのは魔法使いだから……」


「と、いうことは攻撃メインでいくか?」


「でも、おにいちゃんを助けられないのは嫌だし……」


「……? じゃあ回復メインにするか?」


「うーん……」



 さあ……どっちだ!



「決めました! 私は、どっちも使えるようになりたいです!」



 ど……っちも……?

 まあ、予想していなかった訳じゃないが……マジかぁ……。



 俺は目に手を当てて、少し考える。

 回復魔法の基礎を教えることは可能だろうか、と。



『んー、まあボクなら出来ると思うけどねー』



 すると、俺の中にいるアスモデウスが突然そんなことを言ってきた。



『と、いうかだよー? 君には回復が出来るスキルをあげたよね? 少し勝手は違うかもしれないけど、それを使えば出来るんじゃない?』



 スキル……『天使エンジェル』と『悪魔デーモン』か。

 ああ、確かそういえば―――



▶おいおい忘れたのか? 貴様のそのスキルはもう無いんだぞ?



 え……?



▶スキル『天魔アーク』、まあ無いとは言っても、その二つが合わさったスキルになったから、心配は要らないがな。



 あ、そうなのか。

 ならいいや。



 それにしても……そうか、回復スキルを応用すれば、教えられないこともない……か。


 よし……!



「分かった。それじゃあ二つとも使えるように頑張ってみようか」


「はいっ!」


「じゃあまずはこの訓練用の魔術杖を―――」



 こうして皇兄妹の、それぞれ剣と魔法の基礎訓練が始まるのだった。







 それから二週間。

 皇兄妹は、毎日十時間にも及ぶハードな訓練に励み、俺が教えて僅か数日でその鬼才の片鱗を見せてきた。


 俺じゃ足りなくなり、すぐさま魔帝八皇のエキスパート達にバトンタッチし、最強を目指した二人の訓練はさらに熱を加速させていった。



 隠れていたスキルも、いつの間にか解放されていて、職業固有スキルであると思われる物が見えるようになっていた。さらに他にもスキルを習得していたようだった。



 兄・白夜は勇者固有スキル『魔王探査』や訓練で得た『剣技』、他にも……恐らく初期配布スキルであると思われるスキル、『逆行』という物が解放されていた。


 対する妹・月夜は、巫女固有スキル『未来予知』や訓練で得た『魔道』、そして回復系魔法の万能スキルだという『医療』も手に入れていた。そして、これが初期配布スキルだと思われるが、『改変』という謎スキルも手に入れていた。


 能力値は、未だ不明のままだが。



 『未来予知』は、なんとなく文字通りの意味が取れるが、『改変』と『逆行』はよく分からない。




「でやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 白夜は、訓練相手であるサタールに斬りかかる。

 対するサタールは、それを軽くいなす。


 そのままサタールが白夜を蹴り飛ばし、その手に持つ刀を白夜の喉元に当てがった。



「くぅ……やっぱり勝てないか……」


「ヘッ、まだまだ詰めが甘いねェ? だが、これで戦い始めて二週間って……中々面白えなァ、お前さん」



 この台詞は、サタールの最近のお気に入りらしい。ずっと言ってるのを、ずっと聞いている。



「はぁぁぁぁぁぁっ!」


「そんなんじゃ魔力を操れないわよ!」



 隣では、月夜がアスモフィと魔力操作の訓練をしていた。

 兄の白夜と比べて妹の月夜は、驚異的で爆発的な成長をしており、もう恐らくレベルはルシファルナくらいには成長したのだろうと思われる。


 だがまあ、実戦経験がある以上ルシファルナの方が強いだろうがな。




「だいぶ、仕上がってきたな……」




 俺は、二人を見ながらそんな言葉を零した。


 もうもしかしたら俺より強いかもな?

 なんてことも考えたが、逆に俺も負けないように努力をしないと、という考えにもなる。



 スキルに頼らないで強くなる……か。

 いつかはそんな状況になるのだろうか。もし、スキルが封印されたりしたら……俺は自力で戦わないといけない。



 だが、今の俺にどこまでやれる?

 多分、保って数秒程度だろう。


 スキルがないと、ろくに戦えもしない雑魚……それが俺なんだから。




 一週間くらい前から、そんな自虐を始めた俺は、密かに自主トレをしていたりもする。

 誰にも教えてもらわず、ただ一人で黙々と己を鍛える。




 そんなことをしながら、俺は並行してもう一つのやるべきことをやっていた。


 それは、皇兄妹や魔帝八皇達に送る、俺特製の武器だ。

 もちろん、あげる約束は忘れていない。


 だが、どうせあげるなら強くてかっこいいやつの方が良いだろう?


 色々考えて、それを形にする。人数分揃えるのは結構大変だったが、意外と楽しかった。



 今から、その出来上がった品々を皆に渡しに行こうと思っているところだ。




「さて……」




 そう、振り返った時だった。



「兄貴ッ!」


「おにいちゃんっ!」



 皇兄妹に呼び止められた俺は、また元の方向を向いた。



「どうした?」


「兄貴! 俺たちと戦ってください!」


「私たち少し強くなったので!」



 なんて、目を輝かせて言ってきた。

 俺と、戦うだぁ……?



「それはマジで言ってるのか?」


「マジです! 大マジです!」


「そうか……」



 う……ん、どうしようかな。

 まあ、こんな期待の眼差しを向けられたら、致し方ない、か。



「わかったわかった。それじゃあ俺と皇兄妹おまえたちで実戦訓練といこうじゃないか」 


「「やったぁ!」」



 そんなこんなで、俺と皇兄妹との、実戦訓練が始まってしまうのであった。




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