case.21 慈悲の欠落と大罪の宴
「―――まさかこんな事になるなんてな」
見覚えのある鬼の風貌をした男が、そう言った。
「―――全くだ。しかし、我らの現界時間をこうして延ばすとはな」
見覚えのある執事風の男が、そう言った。
「―――うんうん。やっぱり面白いよね、キミ!」
見覚えのある天使級に可愛い女が、そう言った。
「どうやら…、上手くいったみたいだな」
「……あの……主様……? これは一体……」
隣のルインは、不思議そうにこちらを見つめてきた。
戸惑うのも無理はない。
なんせ、アスモフィ・ルシファルナ・サタールの三人が、普段と違う声のトーンで話始めたのだから。
「説明しよう、これはな―――」
これは、本当にさっき思いついたばかりの新技で、名を“大罪焉喚”と言う。
俺が理想としていたのは、触媒無しで俺の中にいる大罪たちを現界させる事。だったんだが、ベルゼブブ曰く、それは“まだ”不可能との事だったので、俺はコイツらの子孫であるサタールたち魔帝八皇を利用して召喚する事にした。
どうやらそれなら可能らしいので、成功するかは怪しかったのだが、やってみたら意外にも成功した。
三人……特にサタールとルシファルナ(の身体)は先の戦いで疲労が溜まっている筈だから、活動限界はすぐだろう。
さらに、ルシファルナに関しては、ベルゼブブの子孫ではないため、ベルゼブブの活動限界はサタンよりも早いだろう。
「―――なるほど……。七つの大罪を……」
「……おい。七つの大罪……だとッ!」
と、ルインが納得したかと思えば今度はハヌマーンが驚愕した言葉を零した。
「バカな……ッ! 七つの大罪は、我々が過去に……」
「―――ゴチャゴチャ煩え」
「―――時間も無いんだ。早く滅びるがいい」
「―――さあ、暴れようよ!」
ハヌマーンの言葉を遮って、大罪達はそれぞれ魔力を高めていく。
俺は、“神滅”を強く握りしめ、ハヌマーンに言った。
「―――お前が言ったんだ。「我を殺せ」と。だから俺は、また慈悲を捨てた。もう、これ以上お前と話して、心が揺らぐのはゴメンだ。これ以上は言わなくても、分かるよな?」
俺の、その言葉に。
ハヌマーンは、静かに目を閉じそしてこう返した。
「そうだったな。すまない……さあ……我と―――」
ハヌマーンが、言い切る前に俺は動いた。
「“飛影”……ッ!」
レベルが上がったことにより、大幅に上昇した攻撃力による一閃。
一瞬で距離をつめ、俺はハヌマーンの右手を、付け根の部分から勢いよく切り落とした。
「……ッグ……ァァァァァァァァァァァァァッ!」
そして、俺が攻撃したのを見て、大罪達も動き出した。
「おい魔王ッ! デカイの一発、俺らでぶちかますぞッ!」
「……了解したッ!」
「ククッ……! そんじゃァ行くぜェ……? “豪炎華・彼岸花”ッ!!!」
サタンは、そう言いながら一滴の血を床に垂らした。
すると、垂れ落ちた地点を中心として、赤い花……彼岸花が大量に咲き誇った。
「一点集中砲火……対象は、魔王の剣だァァァァァァァァァッ!!!」
そう叫ぶと、彼岸花の中央から一気に炎が放出される。
その炎は一気に俺の方へ襲いかかる。俺はその炎を、“神滅”で何とか受け止める。
「―――クッ……!」
やがて砲火が終わり、その頃には剣が焔を纏っていた。
「ぶちかませッ!」
サタンがそう言うと、俺の剣に纏わった焔は勢いを増していく。
それはもう、爆発しそうな勢いで強く。
今が……攻撃の合図かッ!
「―――合技……“神滅之焔”ッ!!!!」
俺は勢い良く飛び上がり、そしてまず剣を一振り。
剣に溜まっていた紅蓮は、大きな太陽のような熱量を持った魔力弾となってハヌマーンを襲う。
さらに、俺はその焔が残る“神滅”で、もう一振り。
今度はハヌマーンの左腕を狙った。
「……タダで殺られてたまるか……ッ!―――『神威』ッ!」
「無駄だッ!」
俺と太陽弾は、ハヌマーンがスキルを行使するよりも早く、ハヌマーンに襲いかかった。
太陽が上からハヌマーンに圧力をかけ、その隙に俺がハヌマーンの左腕を付け根から切断した。
「……グッ……グァァァァァァァァァァァッ!」
痛みで耐えられないと言った様子のハヌマーンに、今度はベルゼブブが容赦なく攻撃を仕掛ける。
「魔王……我にも合わせろッ!」
「ああッ!」
俺はすぐ後退し、武器を取り替えた。
今度は、“合神器伝承弓”だ。
「チッ……こやつは弓を使うのか……ッ! まあいい……それなら―――」
ベルゼブブはどうやら少し戸惑ったようだが、すぐさま技を放った。
「“暴食雷墜矢”ッ!!!」
空に向かって撃った一本の矢。
雷を纏ったそれは、“矢雨”と同じ原理で空で無数に複製され、その下にいる全てを撃ち滅ぼさんとしている。
俺はそれを見て、とりあえず適当に合わせる事にした。
「“魔天矢”ッ!」
次の事を考えて、俺は軽く魔力の矢を放った。ほぼほぼ“矢雨”と同意の技だ。
解説は必要ないだろう。
俺の放った矢と、空で待機していたベルゼブブの矢は、一気に下へと落ちていく。
痛みで身動きが取れない、ハヌマーンの居るところへ。
「グッ……ガッ……ァァァァァァァァァッ!」
無慈悲に矢は突き刺さる。
しかも、雷を纏った矢……ベルゼブブの放った矢が突き刺さった箇所から魔力が吸い取られているのが分かった。
「我の『暴食』を混ぜた」
ベルゼブブはそう教えてくれた。
今度は新規参入、アスモデウスが動き出した。
「ふーん……この娘、風魔法が得意なんだね。まあ関係ないけど。―――『天神化』」
そう、言った直後の事だった。
「……ッ!?」
辺りが激しい光に包まれる。
その光はアスモデウスのもとへ集まり、やがてそこから一枚……また一枚と白い翼が現れ始める。
しばらくして、アスモデウスを包んでいた光は全て消え去った。
そして、その光が集まっていた場所に立っていたのは……
「―――天使」
そう、言うしかなかった。
天使が居たのだ。
白き翼を6枚背中に広げて、ピンク色だった髪は金色に、ついでに眼も金色になっていた。
「この娘が聖族で助かったよー、おかげで能力解放ができたんだもん!」
能力解放……?
「ま、詳しい事は戦いが終わったあとにきいてー! それはそうと、時間も無いし早速やっちゃおうよ」
そう急かすようにアスモデウスは、手をちょいちょいと動かす。
「そうだな」
俺はそう答えながら、今度は武器を“黒神覇杖”と取り替える。
魔法……か。もうこの際何でもいいや。
だって大罪の攻撃が強すぎるんだもん。
……俺は、最後にあの鎌で本気出すからいいや……。
「―――じゃあやろうか。“天界波状聖光撃”」
アスモデウスが放ったその技……光属性の超巨大魔力光線を見て、俺も動き出した。
「“覇杖光線”ッ!!!」
杖で魔力を高めた状態から放たれた黒い魔力光線。
俺の放ったそれと、アスモデウスの放ったそれは螺旋状に重なった後、一つの灰色の光線となる。
「「合魔……“覇状天聖光波”ッ!!!!」」
一直線に倒れているハヌマーンに向かって飛んでいく灰色の魔力光線は、そのままハヌマーンの腹部へ直撃し、その腹を貫通させた。
「―――――――――――――――」
声にならない音を発したハヌマーンを見て、そろそろこの長かった戦いも終わるのだと感じる。
俺は杖を戻し、最後に双鎌を手に取った。
“双滅鎌トワイライト”……黒と白に輝くその両刃はまるで悪魔と天使を連想させる。
俺は、スキル『天使』と『悪魔』の効果の一部であるその象徴とも言える翼を2枚ずつ、計4枚背中に展開して、宙へ浮き上がった。
「―――すまないな、ハヌマーン……。これが最後だ……」
俺はそう言いながら、大罪達に呼びかける。
「戻ってこい」と。
俺の合図を見て、大罪達は憑依状態を解除し、俺の中へと戻ってきた。
『―――まだまだ暴れたりねぇよ……』
『―――眠いな』
『―――ベルちゃん眠くなるの早いよねー』
……お前たち。最後に一つ、力を貸してくれ。
『『『?』』』
“焉魔法”を実行する。
……三つ同時だ。
『『『ッ!!!』』』
『いいぜ……“焉炎”の制御は俺に任せろ』
『それでは我は“焉雷”を』
『じゃあボクは“焉光”を制御すればいいのかな?』
……ああ、頼む。
これで、準備は整ったな。
「さあ、ハヌマーン。死の覚悟は出来たか……?」
―――俺の傀儡となれ。
……その言葉は、俺の口から出てくることはなかった。
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