case.7 錯綜する思い
本日2話目。
よろしくお願いします。
『もう決める時だ。覚悟を決めろ。』
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「お前も俺の傀儡となれ。『死配』」
▶スキル『死配』を発動しました。
「ヒィッ…………」
後退る勇斗であったが、その目からは光が消え、力も無くなり、やがてその場に倒れ込んだ。
「お見事です、主様」
「ああ……。終わったな……。ルイン……」
ルインに会えた喜びも、この転生勇者のパーティーを殺した悲しみも、今の俺には何も無い。
完全なる無だ。
「主様……」
「ルイン、もう一度俺のもとに来てくれて、ありがとう。本当に……本当にありがとう」
「いえ、それで主様はこれからどうなされるのですか?」
「俺がこれからどうするか、か。ルインは、どうしたい?」
「私が、ですか? そうですね、私は魔族が虐げられない世界をつくりたいです。今回の件で、その思いは一気に強くなりました」
魔族が虐げられない世界、か。
そうだな。ルインはずっと、狙われてきたんだもんな。
「俺が……この世界に来た意味……。俺の……この世界との向き合い方……。魔王……」
「主様……」
俺が、これからどう生きるのか。
その問いに対する俺の答えはもうほぼ出ている。
「俺は、決めた。ルイン、俺はこの世界に、魔族の国をつくる。俺がこの世界を『支配』する。だから、ついてきてくれるか?」
その答えを聞いて、ルインは頷く。
「はい……! はい! 前にも言いましたが、私は貴方にずっとついていきますよ!」
「ルイン……。ありがとう」
『感情』が無い、今の俺には、笑うことはできない。でも、ぎこちなくても、口角を上げ、何とか笑おうとする。
「主様……笑えないんですか……?」
「ッ、ああ。お前を助ける時に、その代償に持ってかれたみたいだ」
「……ッ! うっ、うう……うああああああああああん!」
滝のように涙を流し、その場に崩れるルイン。
まただ。また俺は……!
(本当に見たいのは、この子の笑顔なのに……!)
「ルイン、泣かないでくれ。俺はお前が生きていてくれる事が本当に嬉しいんだ」
「でも……! でも……! 主様がっ!」
「ルイン! いいんだ。それと、謝らせてくれ。俺は2度もお前を守る事が出来なかった。それに対する謝罪だ……」
「私も謝ります! 私のせいで……! 私の……ッ!」
不毛な言い争いが続く中、暫くしてその喧嘩は終わった。
「ハァ……ハァ……。と、取り乱してしまい申し訳ありませんでした……」
「構わん……。それより、一度あの洞窟へ戻ろう。一度、全て整理したい」
「そ、そうですね……」
そう提案した俺だったが、疲れ果てた様子のルインを見て、少し気が変わった。
「すまない、少し休んでから帰ろう」
「わっ、わかりました!」
そうして俺たちは、その場に座り込んだ。
「いい機会だ、少し話そう」
「いいですけど、何を?」
「俺の話だ。俺はな、もともとこの世界の人間じゃないんだ」
「えっ、それって……?」
「“転生者”ってやつなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。気づいたら、この世界に居たんだ。そして気づいた時から“魔王”だった。そしてルインと出会った。あの時はドキドキしてさ、同時にワクワクもしたんだ。なんて可愛い子なんだろう、これからどうなっていくんだろう、って」
ルインは黙って俺の言葉を聞いている。
「ルインは前に言ったよな。魔族を救ってくれって。俺はその言葉を聞いたときから、お前を……いや、魔族を救おうって決めたんだ。それなのに、俺は、ルイン一人すら救えなかった。あの時は悲しくて、悔しくて、辛かった。そしてそれをした奴らが憎かった」
俺の目からは自然と涙が零れていた。
「なぁ、ルイン。今の俺は、お前の目にどう映ってる……? 本当は怖いんだ……。感情が無くなっていくのが実感出来て。辛いのに、悲しいのに、顔にも、心にも出ないんだよ……」
ルインは、目を閉じ、そして優しく語り始めた。
「主様は、最初から主様です。魔族の……いいえ、私の魔王様です。誰がなんと言おうと、私の大好きな人です。私の為に、感情を捨ててくれた。魔族の為の国をつくってくれると言ってくれた。そんな、優しい、優しい魔王様です。怖い時、辛い時はいつでも頼ってください。私が、隣に居ますから。もう、二度と離れませんから」
そんな、ルインの言葉を聞いて。
心の中に色がついた。
溜まっていた感情が溢れてきそうな、そんな感じがした。
「ルイン……俺、もう一度笑いたいんだ。だから半端な覚悟はもう捨てる。もう、躊躇もいらない。俺は“蹂躙”するのが怖かっただけなんだ。過去に、イジメられてたから……。でももう決めた。魔族を救うって、ルインを守るって。だからもう一度言わせてくれ。ルイン、俺と一緒に来てくれるか?」
「はい。もちろん!」
「ありがとう……!」
そう言った俺を見て、ルインは目を点にして驚いていた。
「どうした……?」
「主様……?! 笑って……笑えてます!」
「本当……か?」
自分では分からないが、ルインがそう言うなら、間違いではないのだろう。
俺が、笑えた……。
『感情』を代償として支払ったとは書いてあったが、もしかすると、『感情』自体は失われていないということか?
なら……俺は自分の感情を取り戻す。
一度失った物を取り返すのは難しい事だ。だが、俺ならやれる。
(だって俺は……“魔王”なんだから!)
魔族も救って、ルインも守って、自分の感情も取り戻す!
「なんか、やる気が出てきた。よし、そろそろ戻って、サファイアと合流するか!」
「はい! 行きましょう! 魔王様!」
二人並んで、歩き始める。
俺たちは、今から新たな道を歩むことになる。
まずは目先の事から!
あの洞窟へ戻るところからだ!
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「あ、そういえばあのゴミたち忘れてたな」
戻っている途中で、支配したまま置いてきたあの勇者パーティーの事を思い出した。
「いいんじゃないですか? 放っておけば」
「いや、そうもいかない。奴らが転生勇者であるならば、奴らを雇っていた国側が、勇者たちが帰ってこないことに疑問をいだき、こちらの方へ調査にくるだろう。そうなったら、奴らの死体が見つかってしまう」
「あれ……? でも主様、あいつら支配してるんじゃ?」
「あ、そういえばそうだったな。なら命令しておくか」
“洞窟へ行く。勝手についてこい”
簡潔な命令を出したところ、ゴミ3つがのろのろと歩いてくるのが見えた。
「まあこれでいいだろう。さあ、早く戻ろう」
「はい!」
俺たちの本当の旅が、これから始まる。
―――これから始まるのは、魔王による魔族を救うお話。殺戮や蹂躙を躊躇わない、感情を無くした悲しい魔王による、今ある世界を『支配』する、そんなお話。
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▶『死配』が『支配』へと変化しました。
▶『憤激焉怒』が『憤怒』へと変化しました。
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《Tips》
・魔王ルミナスについて
現在確認されている情報だと、
・感情を失っており、人を殺す事に躊躇が無いという事。
・支配下に転生勇者のパーティーが居るという事。
以上が確認されている。
著:王国暗殺部隊『闇風』
明日はツイッターでの告知通り、夏休みスタートダッシュとして、新作を2つ含む、4作/合計6話分を間あけて更新します!
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