case.10 共闘:Luciferuna
“魔改造シリーズ・合神器伝承弓”。
俺は中学生時代にこじらせていた、ある病の弊害で大量に覚えていた知識の限りを尽くして、思いつく限りの神話の弓を擬似的に生み出した。
といっても、全て俺の想像で生み出した弓だから、全て伝説通り正しい弓だとは限らないが。
“フライクーゲル”、“天之魔迦古弓”、“烏号”、“ガーンデーヴァ”……どれも過去の俺がかっこいいと思って覚えた弓たちだ。
それをイメージでそれぞれ創り出し、さらにその全てを一つに纏める……という作業をした。
それが“合神器伝承弓”だ。
特に何かが出来るわけでもないが、カッコいいから作った。
まあバフ付与やデバフ付与は可能だから、もちろんある程度の強さはある。
「あの、ルミナス様……」
隣からルシファルナの熱い視線を受け取った。
その視線の先には俺の手に持つ弓があった。
「……」
「あの……その弓……」
「……欲しいのか?」
「……はい」
「今度作ってやる。だから今は目の前の戦いに集中しろ。どうやら……来たみたいだぜ」
そうこう話をしている内に、広間の扉がゆっくりと開かれた。
開いた扉から戦士たちが次々と押し寄せて来る。
その中央には、あの帝王ゼリドの姿もあった。ゼリドは広間を見渡し、そしてやがてその視線は俺を捉えた。
「ほう……見たところ貴様が魔王だな?」
「ああ、その通りだ」
「なら少し話し合いを、とでも思ったがそちらにその気は無いようだな」
「当たり前だ。むしろそれはこちらのセリフなんだがな」
ゼリドは腕を伸ばし、手をグーにして止めた。
「全軍……強行突破だ。最奥まで進め。よいか? これはハヌマーン様の御信託である。進め、死に抗えッ! クッ……」
その言葉を言い切った瞬間、ゼリドの結ばれた手は、勢いよく開かれた。
もう反対の手は、頭を抑えるように添えられていた。
そして、それを合図として待機していた約10000の軍勢は突撃してくる。
もちろんそんな数を入れられるほどこの広間は広くないので、大体2000人位がぎゅうぎゅう詰めの状態になっているのだが。
「「「ウオオオオオオオッ!」」」
しかし、バカなのかバカなのか。まあバカなんだろうが。
コイツらは、何にも考えずに次々と入ってきた。
一瞬にして“蟲の間”は戦士たちで満たされた。
「さあ、始めようか? ルシファルナ、ついてこれるか?」
「……任せてください。ルミナス様に合わせます」
俺は、魔力で矢を生み出しながら頷く。
そして弓を構え、そのまま天に向ける。
まずは開幕一発……喰らえやッ!
「“矢雨”ッ!」
一本の矢を放つ。
天に向けて放たれた俺の矢は天井にぶつかり、そこで大量に複製される。やがて広間の天井を覆い尽くした矢は、そのまま落下し、下にいる戦士たちを襲う。
「臆するなッ! 我らにはハヌマーン様の加護がッ……か……加護がある!」
「「「ウオオオオオオオオオッ!」」」
帝王ゼリドは軍を鼓舞するように声を上げた。
少し噛んだような気もするが……?
ゼリドの声で戦士たちの勢いはさらに強くなり、広間を抜け出さんと俺たちを攻撃してくる。
だが彼らのその剣は、届かない。
俺もルシファルナも、全ての攻撃を華麗に躱していた。
ほぼ飛んで……だが。
「ルシファルナッ! 空に矢を!」
「空に……かしこまりましたッ!」
俺は敵の数を少しでも減らそうと、ルシファルナに咄嗟の思いつきで命令を出す。
合わせ技……即ち合技を試してみようと思う。
「いきます……! “矢雨”ッ!」
ルシファルナは、周りにいる戦士たちを薙ぎ払い、そのまま矢を放った。
その矢は天井に向かって飛んでいく。
俺はその矢に向かって魔法を放った。
「“五色魔天”……ッ!」
空で生み出された無数の矢に、俺の“五色魔天”による魔法属性付与が成されていく。
今回の設定属性は炎・水・氷・風・雷の5属性だ。
「合技……“五色魔矢雨”ッ!」
矢が、降り注ぐ。
広間にいた戦士たちは、次々と倒れていく。
「どうしてだ! 我々にはハヌマーン様の加護があるはずではッ!?」
「て、帝王様! これは一体……グアァッ!」
何やら、トラブルだろうか。
ハヌマーンの加護とやらが無いらしいが。
まあいい。こちらにとっては好都合でしかないのだから。
「“幻蟲召喚・破壊者”ッ!」
ルシファルナは俺と同じくこれを好機と捉えたのか、追撃を始めた。
あまりボスゾーンで活躍する出番がなかったタランチュラを召喚し、攻撃を開始させる。
「ヒッ……や、やめろ! 来るなァァァッ!」
―――グチャァ……ブシャッ……
召喚されたタランチュラは、血に飢えた獣の様に戦士たちを喰らっていく。
一瞬にして戦士たちの数は減っていく。
「クソ……来るな! まだ死にたくなッ―――」
―――ブチュッ……ブシャッ……
心を持たないタランチュラは、次々と人を喰らい尽くしていく。
その勢いは収まる事を知らず、僅か一体で数百名の戦士たちを蹂躙していった。
まるで、先程の鬱憤を晴らすかのように。
しかし、その勢いはヤツによって止められる事になる。
「―――“猿神之……絶雷”……ッ!」
刹那、一筋の閃光と共に現れた轟音によって、タランチュラは燃え尽きてしまった。
「一体何が……?」
「ァ……ガァッ……! ―――“猿神之加護”……ッ!」
俺が驚いている間にも、言葉は紡がれる。
暖かな光が起こり、広間に居ない後ろの戦士たちをも包み込む。
この感じは確か……
「ゼリド……ッ! 貴様……ッ!」
ハヌマーンの力を使ったと思われるゼリドが、手をかざして立っていた。
「我……には神の力が……アッ……アァ……神が……神の……力を……使いすぎたか……? あ……ガ……ァ……! 私は……俺は……我は……ッ!」
何だ……突然どうしたんだ……?
「いや、何故私は……。我は……ッ!?」
突然、ゆらゆらと揺れながら頭を抱え込むゼリド。
一体、どうしたというのだ……?
「アァァァァァァァァァァァァァァァッ! ハヌマーン様ァァァァァァァァァァッ!」
叫び声を上げながら、ゼリドは走って行った。向かった先はこの部屋の奥……マノンのいる“爆炎の間”だ。
「一体……何だったのでしょうか」
ルシファルナも、突然の出来事過ぎて驚いていた。
しまいには後ろに控えていた戦士たちもポカンとしてしまっていた。
「分からん……。だが、俺はヤツを追うことにする。マノンが心配だからな」
「わ、分かりました。それでは私は……」
ルシファルナはそう言いながら、目の前に居る大量の兵士達を見つめながら、言った。
「この者たちを―――」
「―――処理しておけ」
「……はっ」
俺はルシファルナの言葉を遮ってそう言い残し、そのままマントを翻しながら広間を抜け出ていった。
正直乗り気ではないが仕方ないな。ハヌマーンの事もあるし、何やら今のゼリドは危険な感じがする。
俺は重い足取りでマノンの居る間へ向かうべく、足を進めるのだった。
―――突然変異




